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最終章 狂酔編

第273話 カケラ戦‐総力戦②

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鬱陶うっとうしい」

 カケラがつぶやき、エアが動いた。
 手のひらに火球を生み出し、それをキーラへ放つ。
 メルブランが《炎消去》を付与したチェーンソードでキーラの前に移動し火球を斬る。
 火球はチェーンソードに触れた瞬間に消失したが、エアの攻撃はそれで終わらなかった。
 地上の土が浮き上がり、球状に固まって無数の弾丸へと変わった。それがメルブランとキーラへ飛ぶ。

「なっ!」

 土の弾丸はとんでもない速度だった。決して目で捉えられる速さではない。
 土の操作はジーヌ共和国の守護四師のアカの魔法で、超高速はスカラーの概念種であるアオの魔法だ。
 幸い致命傷は受けていないが、チェーンソードをかいくぐったいくつかの弾がヒットしてメルブランは大ダメージを負った。
 キーラはメルブランの陰にいたおかげで無傷だった。

 エアの攻撃はまだ続く。土弾第二段がエアの周囲に再び浮かんでいる。
 今度はメルブランにチェーンソードで防御する余力はない。

「防ぎます!」

 土弾はメルブランへと飛ぶ前に弾けて砕けた。
 それをやったのはサンディア・グレイン。砂の操作型魔法でエアが砂から土を作る前に操作リンクを張り、土弾を飛ばす前に内部から破壊したのだ。

 エアがサンディアの方を指差す。
 直感的に光線を放ってくると分かったので、コータの位置魔法でサンディアを瞬間移動させる。

 ミューイが音波でエアを無力化しようとするが、エアを中心に空気の振動がブワッと全方位に広がり、音波をかき消してしまう。
 これは空気の操作というより振動魔法を使ったのだろう。

「私が触れられれば記憶を消して無力化できる。コータ君、私を彼女の近くへ転移させてくれないか」

 申し出たのはミスト・エイリー教頭だった。
 コータがうなずき、教頭を上空にいるエアの背後に瞬間移動させて位置を固定する。
 そして教頭がエアの頭に手を触れようとした瞬間、エアは消えた。彼女もまた位置の魔法で瞬間移動したのだ。

「私も触れれば無力化できる。私も飛ばしてくれる?」

 ハーティ・スタックも名乗りをあげた。
 恒温動物である人間は体温をほんの数度上げてやれば簡単に無力化できるのだが、熱の発生型魔導師である彼女にはそれをたやすく実行することができるのだ。

「分かった」

 コータは二人を連続でエアの元へ瞬間移動させる。
 しかしエアはことごとく彼らを避け、しまいには自分の近くに出現することを逆手に取ってカウンターをお見舞いしてきた。
 ジム・アクティの魔法だった身体強化でスピードとパワーを増したエアの拳が教頭とハーティの腹に決まる。

「六人がかりでも抑えられないか……」

 いまのエアに勝てるのは俺くらいしかいないが、俺がカケラの相手を放り出すわけにはいかない。当然ながらエアを操るカケラのほうが圧倒的に強いのだから。

「ふふふ、だいぶエアのほうに戦力を取られているじゃない、ゲス・エスト。あらぁ? あなたの頭の中にはこっち側の戦力が見えるけれど、アンジュちゃんとエンジュちゃんは一度も使わないのかしら? もしかして、足手まといだと思っているのかしらねぇ」

 アンジュとエンジュ。それぞれ静電気の発生型と湿度の操作型の魔導師だ。
 たしかに使いどころが難しい。
 というか、無理に全員を使う必要はない。

「そいつらも貴重な戦力だ。二人に限らず、最適な場面でそれぞれの魔法を使う。ただそれだけだ。意味のない場面で意味のない魔法を使わないのは当たり前だろうが」

「じゃあ最初から最後まで一度も使わなければ、ここにいる意味がない人間ということになるわね」

「そんな精神攻撃は無駄だ。俺の本心は感覚共鳴で二人にも伝わっている!」

 俺の言ったことはすべて本心なのだが、こうしてわざわざフォローする状況を作られるというのは俺に精神的な疲労を蓄積させる。
 カケラが火のついたマッチ棒を投げ散らかすから、俺はそれをバケツの水で消そうとあちこち奔走ほんそうしなければならない。

 それに、エアに人員をくのは無駄ではない。エアを動かしているのはカケラなのだから、カケラの思考リソースをそちらに割かせることにつながる。
 もちろん、カケラへの攻撃も続ける。

 リーンが空を飛びまわってカケラに斬りつけ、カケラが鋭利な爪でそれを弾いたところへドクター・シータの分身体が複数で同時に飛びかかる。
 カケラが切り裂いたドクター・シータの分身体は腐って崩れ落ち、ドクター・シータの体へ戻ることを許さない。

「準備できたぜ!」

 時間がかかったが、スモッグ・モック工場長が世界中から有害な塵を集めてきて、それを盲目のゲンが作った水のドリルへと投入する。
 E3エラースリーの操作する強靭な水でカケラを傷つけ、その傷口から数多の種類の毒を体内へ侵入させようという算段だ。
 もしこれを受ければ、さすがのカケラもひとたまりもないだろう。

 さらに同時に強烈な竜巻がカケラを取り囲む。
 イル・マリルとリーズ・リッヒ。それぞれ風の発生型と操作型の魔法で竜巻を際限なく強めていく。だがカケラにはこれが俺の絶対化空気か仲間の風魔法か判別がつきにくい。
 感覚共鳴で全員がつながっているせいで、俺以外の者が攻撃してもそれはエストの攻撃意思でもあるからだ。
 もし絶対化空気だったら絶対に避けなければならない。

「捉えた!」

 どちらの魔法もカケラは回避するには逃げ道は一つしかない。上空で待ち構えていた空気のネットがカケラを絡め取る。
 カケラに触れてから絶対化するので、もうカケラを拘束した状態から動くことはない。

 これを脱するためには俺を殺すか、シャイルを時間停止から解放して時間を巻き戻すしかない。
 その二択ならカケラは時間を巻き戻すだろう。カケラに時間巻き戻しの空間範囲を好きに選択させないよう、間髪入れずに追撃する。
 毒水ドリルと竜巻がカケラへと迫る。

 迫った。が、離れていく。
 カケラへと近づいていた毒水や竜巻が元の位置へ戻っていく。
 ついに時間操作を使ったのだ。これでシャイルが解放された。
 この瞬間、勝機が見えた。

 カケラが時間を巻き戻し終えた瞬間、その両サイドから巨大な鋼鉄の手がガンッと閉じてカケラを押し潰した。

 操作したのは俺ではなくエアだ。
 記憶をそのままに時間が巻き戻ったことで、俺たちもエアの瞬間移動先を知ることができ、そこで教頭による記憶への干渉でエアを取り戻したのだ。
 カケラはずっと俺の心を視ていたようだが、エアの心は視ていなかったため、彼女の操る機工巨人に反応できなかったのだった。

「勝った……?」
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