10 / 10
特別番外編(4)
しおりを挟む◇
ほてった身体がだんだんと正常になってきた頃。ベッドのなかで、秋成さんがじっと天井を見つめながらつぶやいた。
「今日の披露宴の間、ずっと考えていたんだ」
「なにを?」
「咲都のこと」
「わたし?」
「たしかに花嫁はふたりともきれいだったけど、僕にとっての“特別”はやっぱり咲都なんだなって」
そう言った秋成さんはすごく真剣な顔だった。
秋成さんが身体ごとわたしのほうを向いた。
「念のため言っておくね。僕は咲都をほかの誰かと比べることはしない。そもそも一番とか二番とかの順位をつけることは意味がないって思ってる。でも咲都が僕にとってかけがえのない人だってことには変わらないよ」
「ありがとう。わたしも同じだよ」
「『きれい』も同じ」
「え?」
「咲都には咲都のきれいさがある。これは、ほかの人に対するものとは違う特別な感じ方だから」
もしかして食事中にわたしがむくれていた原因が椿野さんのことだけじゃないのにも気づいていて、それでそんな話をしてくるのかな。
考えていないフリをして、実はちゃんと考えてくれている。わたしを不安がらせないようにはっきり言葉で伝えてくれたんだね。
「ありがとう。実は不安だった。秋成さんのまわりにはきれいな人ばかりなんだもん。積極的な人も多そうだから……」
「僕が誘惑されて、浮気でもしちゃうんじゃないかって心配?」
「ううん、そんなことはぜんぜん思ってないよ。でも誘惑されているのを想像しただけで無性にイライラしちゃう。椿野さんに対してもそうだった」
「咲都は誤解してる。僕は女性にぜんぜんモテないよ。僕よりも断然、野上やコタのほうが言い寄られてるから」
「秋成さんは謙遜しすぎ。モテないわけないもん。そんなの、わたしにだってわかる」
以前コタさんが言っていた。秋成さんは自分でモテる自覚があまりないらしい。その話を聞いたとき、にわかには信じられなかったけれど、長年の友人であるコタさんの話なのできっとそうなんだろうと思っていた。
でも最近、実はそうではないんじゃないかとわたしは疑いはじめている。
「だいたい椿野さんのことがあったばかりじゃない。彼女の気持ちに薄々気づいていたんだよね? 好意を持たれても余裕があるのは、そういうのに慣れている証拠だと思うんだけど」
そう突っ込んでも秋成さんは素知らぬ顔をする。「どうせ興味があるのは僕の肩書きだけだよ」とか言って、スルーしようとさえする。
「秋成さんのことは信じているんだよ。でもそういう問題じゃなくて。相手の女の子のことを悪く思っちゃう自分も嫌なの」
もっとおおらかでいたいけど、実際女性にチヤホヤされているのを目にするとそうもいかない。
すると秋成さんは、「それならいい方法があるよ」と、なにやら楽しそうに言う。
「いい方法って?」
「大々的に婚約発表しちゃおう」
「婚約発表?」
「具体的にはまず結納をすることからはじまって、そのあと親戚の人たちとの顔合わせ。それから冴島物産の役員やうちの会社の人間に婚約のことを伝える。そうすればおのずと関係各社に知れ渡るはずだよ」
たしかに婚約をおおやけにすれば、近づいてくる女性はいなくなるかもしれない。だけど思ったよりも重い発言にとまどってしまう。
「僕としては年内に結婚したいなって思ってる。婚約発表の時期としては妥当だよ。でも咲都の気持ちを優先する。だからこの機会に考えてみてくれないかな?」
いよいよそういう時期なんだ。そろそろ具体的な日程を決めて、少しずつ準備していかないといけない。
実は先月のわたしの誕生日に正式にプロポーズされた。答えはもちろんYES。わたしも結婚に向けて、今後の仕事をどうするかなどいろいろと考えていて、そのための準備もしている。
なので、正式な婚約発表ということ自体はたぶん問題ないんだけれど、やっぱり庶民のわたしにはとても荷が重いこと。
「わたしはなにをすればいいの? その前にちゃんとできるかな?」
「いろいろお願いすることはあるだろうけど、段取りなんかは全部僕にまかせてくれればいいから」
「そんなわけにいかないよ。秋成さんひとりじゃ大変だもん」
「うちの両親もいるよ。だから咲都はなにも心配することないから」
その言葉を聞いて、秋成さんと一緒なら、きっとこの不安を乗り越えられそうな気がした。彼の言葉にはそう思わせる力強さがあった。
「いろいろ負担をかけちゃってごめんね」
「ううん、謝らないで。わたしは大丈夫だよ。わたしもできる限り手伝うね」
秋成さんはわたしにたくさんの幸せを与えてくれた。いっぱい愛してくれて、女としてこんなに満たされたことも初めてだった。
秋成さんはわたしにとってもかけがえのない人。結婚しない選択はない。
「ありがとう、咲都」
「なんでお礼? ふたりの結婚だよ」
秋成さんはうれしそうに微笑んだ。
それからしばらくベッドのなかで軽くじゃれ合って、他愛もないおしゃべりをしながら過ごす。
「ねえ、新居はどうする? ここは賃貸だし、将来のことを考えたら部屋数が少ないよね。一軒家を買っちゃう?」
「一軒家もいいけど、とりあえずの間はここでもいいよ。広いし、バルコニーから見える景色もけっこう気に入ってるの」
「咲都がそう言うなら、しばらくはここでいっか……」
「落ち着いたら、ゆっくり考えよう」
「そうだね。ふたりで……考えよう……」
秋成さんは言いながら眠そうに目を細めた。
お酒もたくさん飲んでいたようだし、やっぱり疲れちゃったよね。
「眠いの?」
「ごめん、本当はもっとゆっくり話していたかったんだけど……。やっぱり飲みすぎちゃったかな」
「今度からは少しセーブしないとね」
「気をつける」
「今日はもうゆっくり休んで」
わたしがそう言うと、秋成さんが「うん」と返事をし、わたしの身体を自分のほうへ引き寄せた。小さく「おやすみ」という声が聞こえ、すぐに寝息を立てはじめる。
もう寝ちゃった。寝つき、よすぎない?
なんだかおかしくて、ひとりで笑ってしまった。
でも相変わらず、寝顔もきれい。
本当はもう少し寝顔を見ていたいけれど、わたしも明日は仕事。枕もとに置いてあったリモコンでダウンライトの照明を落とすと、大好きな人の腕のなかで眠りについた。
おやすみなさい、秋成さん。今日も幸せな一日をありがとう。
FLORAL《番外編》『敏腕社長の結婚宣言』[完]
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
愛してやまないこの想いを
さとう涼
恋愛
ある日、恋人でない男性から結婚を申し込まれてしまった。
「覚悟して。断られても何度でもプロポーズするよ」
その日から、わたしの毎日は甘くとろけていく。
ライティングデザイン会社勤務の平凡なOLと建設会社勤務のやり手の設計課長のあまあまなストーリーです。
ワイルド・プロポーズ
藤谷 郁
恋愛
北見瑤子。もうすぐ30歳。
総合ショッピングセンター『ウイステリア』財務部経理課主任。
生真面目で細かくて、その上、女の魅力ゼロ。男いらずの独身主義者と噂される枯れ女に、ある日突然見合い話が舞い込んだ。
私は決して独身主義者ではない。ただ、怖いだけ――
見合い写真を開くと、理想どおりの男性が微笑んでいた。
ドキドキしながら、紳士で穏やかで優しそうな彼、嶺倉京史に会いに行くが…
ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に
犬上義彦
恋愛
『御更木蒼也(みさらぎそうや)』
三十歳:身長百八十五センチ
御更木グループの御曹司
創薬ベンチャー「ミサラギメディカル」CEO(最高経営責任者)
祖母がスイス人のクオーター
祖父:御更木幸之助:御更木グループの統括者九十歳
『赤倉悠輝(あかくらゆうき)』
三十歳:身長百七十五センチ。
料理動画「即興バズレシピ」の配信者
御更木蒼也の幼なじみで何かと頼りになる良き相棒だが……
『咲山翠(さきやまみどり)』
二十七歳:身長百六十センチ。
蒼也の許嫁
父:咲山優一郎:国立理化学大学薬学部教授
『須垣陸(すがきりく)』
三十四歳:百億円の資金を動かすネット投資家
**************************
幼稚園教諭の咲山翠は
御更木グループの御曹司と
幼い頃に知り合い、
彼の祖父に気に入られて許嫁となる
だが、大人になった彼は
ベンチャー企業の経営で忙しく
すれ違いが続いていた
ある日、蒼也が迎えに来て、
余命宣告された祖父のために
すぐに偽装結婚をしてくれと頼まれる
お世話になったおじいさまのためにと了承して
形式的に夫婦になっただけなのに
なぜか蒼也の愛は深く甘くなる一方で
ところが、蒼也の会社が株取引のトラブルに巻き込まれ、
絶体絶命のピンチに
みたいなお話しです
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
FLORAL-敏腕社長が可愛がるのは路地裏の花屋の店主-
さとう涼
恋愛
恋愛を封印し、花屋の店主として一心不乱に仕事に打ち込んでいた咲都。そんなある日、ひとりの男性(社長)が花を買いにくる──。出会いは偶然。だけど咲都を気に入った彼はなにかにつけて咲都と接点を持とうとしてくる。
「お昼ごはんを一緒に食べてくれるだけでいいんだよ。なにも難しいことなんてないだろう?」
「でも……」
「もしつき合ってくれたら、今回の仕事を長期プランに変更してあげるよ」
「はい?」
「とりあえず一年契約でどう?」
穏やかでやさしそうな雰囲気なのに意外に策士。最初は身分差にとまどっていた咲都だが、気づいたらすっかり彼のペースに巻き込まれていた。
☆第14回恋愛小説大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございました。
わたしの愉快な旦那さん
川上桃園
恋愛
あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。
あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。
「何かお探しですか」
その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。
店員のお兄さんを前にてんぱった私は。
「旦那さんが欲しいです……」
と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。
「どんな旦那さんをお望みですか」
「え、えっと……愉快な、旦那さん?」
そしてお兄さんは自分を指差した。
「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」
そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる