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特別番外編(4)
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ほてった身体がだんだんと正常になってきた頃。ベッドのなかで、秋成さんがじっと天井を見つめながらつぶやいた。
「今日の披露宴の間、ずっと考えていたんだ」
「なにを?」
「咲都のこと」
「わたし?」
「たしかに花嫁はふたりともきれいだったけど、僕にとっての“特別”はやっぱり咲都なんだなって」
そう言った秋成さんはすごく真剣な顔だった。
秋成さんが身体ごとわたしのほうを向いた。
「念のため言っておくね。僕は咲都をほかの誰かと比べることはしない。そもそも一番とか二番とかの順位をつけることは意味がないって思ってる。でも咲都が僕にとってかけがえのない人だってことには変わらないよ」
「ありがとう。わたしも同じだよ」
「『きれい』も同じ」
「え?」
「咲都には咲都のきれいさがある。これは、ほかの人に対するものとは違う特別な感じ方だから」
もしかして食事中にわたしがむくれていた原因が椿野さんのことだけじゃないのにも気づいていて、それでそんな話をしてくるのかな。
考えていないフリをして、実はちゃんと考えてくれている。わたしを不安がらせないようにはっきり言葉で伝えてくれたんだね。
「ありがとう。実は不安だった。秋成さんのまわりにはきれいな人ばかりなんだもん。積極的な人も多そうだから……」
「僕が誘惑されて、浮気でもしちゃうんじゃないかって心配?」
「ううん、そんなことはぜんぜん思ってないよ。でも誘惑されているのを想像しただけで無性にイライラしちゃう。椿野さんに対してもそうだった」
「咲都は誤解してる。僕は女性にぜんぜんモテないよ。僕よりも断然、野上やコタのほうが言い寄られてるから」
「秋成さんは謙遜しすぎ。モテないわけないもん。そんなの、わたしにだってわかる」
以前コタさんが言っていた。秋成さんは自分でモテる自覚があまりないらしい。その話を聞いたとき、にわかには信じられなかったけれど、長年の友人であるコタさんの話なのできっとそうなんだろうと思っていた。
でも最近、実はそうではないんじゃないかとわたしは疑いはじめている。
「だいたい椿野さんのことがあったばかりじゃない。彼女の気持ちに薄々気づいていたんだよね? 好意を持たれても余裕があるのは、そういうのに慣れている証拠だと思うんだけど」
そう突っ込んでも秋成さんは素知らぬ顔をする。「どうせ興味があるのは僕の肩書きだけだよ」とか言って、スルーしようとさえする。
「秋成さんのことは信じているんだよ。でもそういう問題じゃなくて。相手の女の子のことを悪く思っちゃう自分も嫌なの」
もっとおおらかでいたいけど、実際女性にチヤホヤされているのを目にするとそうもいかない。
すると秋成さんは、「それならいい方法があるよ」と、なにやら楽しそうに言う。
「いい方法って?」
「大々的に婚約発表しちゃおう」
「婚約発表?」
「具体的にはまず結納をすることからはじまって、そのあと親戚の人たちとの顔合わせ。それから冴島物産の役員やうちの会社の人間に婚約のことを伝える。そうすればおのずと関係各社に知れ渡るはずだよ」
たしかに婚約をおおやけにすれば、近づいてくる女性はいなくなるかもしれない。だけど思ったよりも重い発言にとまどってしまう。
「僕としては年内に結婚したいなって思ってる。婚約発表の時期としては妥当だよ。でも咲都の気持ちを優先する。だからこの機会に考えてみてくれないかな?」
いよいよそういう時期なんだ。そろそろ具体的な日程を決めて、少しずつ準備していかないといけない。
実は先月のわたしの誕生日に正式にプロポーズされた。答えはもちろんYES。わたしも結婚に向けて、今後の仕事をどうするかなどいろいろと考えていて、そのための準備もしている。
なので、正式な婚約発表ということ自体はたぶん問題ないんだけれど、やっぱり庶民のわたしにはとても荷が重いこと。
「わたしはなにをすればいいの? その前にちゃんとできるかな?」
「いろいろお願いすることはあるだろうけど、段取りなんかは全部僕にまかせてくれればいいから」
「そんなわけにいかないよ。秋成さんひとりじゃ大変だもん」
「うちの両親もいるよ。だから咲都はなにも心配することないから」
その言葉を聞いて、秋成さんと一緒なら、きっとこの不安を乗り越えられそうな気がした。彼の言葉にはそう思わせる力強さがあった。
「いろいろ負担をかけちゃってごめんね」
「ううん、謝らないで。わたしは大丈夫だよ。わたしもできる限り手伝うね」
秋成さんはわたしにたくさんの幸せを与えてくれた。いっぱい愛してくれて、女としてこんなに満たされたことも初めてだった。
秋成さんはわたしにとってもかけがえのない人。結婚しない選択はない。
「ありがとう、咲都」
「なんでお礼? ふたりの結婚だよ」
秋成さんはうれしそうに微笑んだ。
それからしばらくベッドのなかで軽くじゃれ合って、他愛もないおしゃべりをしながら過ごす。
「ねえ、新居はどうする? ここは賃貸だし、将来のことを考えたら部屋数が少ないよね。一軒家を買っちゃう?」
「一軒家もいいけど、とりあえずの間はここでもいいよ。広いし、バルコニーから見える景色もけっこう気に入ってるの」
「咲都がそう言うなら、しばらくはここでいっか……」
「落ち着いたら、ゆっくり考えよう」
「そうだね。ふたりで……考えよう……」
秋成さんは言いながら眠そうに目を細めた。
お酒もたくさん飲んでいたようだし、やっぱり疲れちゃったよね。
「眠いの?」
「ごめん、本当はもっとゆっくり話していたかったんだけど……。やっぱり飲みすぎちゃったかな」
「今度からは少しセーブしないとね」
「気をつける」
「今日はもうゆっくり休んで」
わたしがそう言うと、秋成さんが「うん」と返事をし、わたしの身体を自分のほうへ引き寄せた。小さく「おやすみ」という声が聞こえ、すぐに寝息を立てはじめる。
もう寝ちゃった。寝つき、よすぎない?
なんだかおかしくて、ひとりで笑ってしまった。
でも相変わらず、寝顔もきれい。
本当はもう少し寝顔を見ていたいけれど、わたしも明日は仕事。枕もとに置いてあったリモコンでダウンライトの照明を落とすと、大好きな人の腕のなかで眠りについた。
おやすみなさい、秋成さん。今日も幸せな一日をありがとう。
FLORAL《番外編》『敏腕社長の結婚宣言』[完]
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