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特別番外編(3)
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「椿野さんなら秘書課から別の部署に異動させたよ」
「え?」
「小山田さんの判断だよ。代わりに派遣会社からプロフェッショナルな秘書が来てくれることになった。小山田さんが自ら面接したから今度は大丈夫」
まさかそんなことになっていたとはつゆ知らず。
「椿野さんのことは、僕もなにも感じていなかったわけじゃない。でも、ああいうスキンシップをされてもなんとも思わない。その前に小山田さんが許さないだろうなってわかっていたから、僕からはとくになにも言わなかったんだ」
そっか、そうだよね。秋成さんが椿野さんをいちいち注意する必要はない。それをするのは彼女の直属の上司にあたる小山田さんの役目だ。
「でも嫌な思いをさせてごめん」
「ううん、わたしのほうこそ意地悪いこと言っちゃってごめんなさい……。あっ、ところで、新しい秘書の方には会ったの?」
椿野さんが異動になったとしても、新たな美人が秘書として配属されるのだろうから、心穏やかとはいかない。
「会ったよ。三十歳のいい男だよ」
「男性?」
世の中には男性秘書もたくさんいるが、派遣もあるのか。
「派遣といってもハイクラス専門の秘書で、今は日本有数のデベロッパーで役員秘書をしているんだ。その人、向こうとは今月末で契約終了するんだけど、タイミングよく捕まえることができたって小山田さんが大喜びだった」
聞けばそのデベロッパーは旧財閥系の超一流企業。役員の方が体調不良のために急きょ辞任することになり、それを機に新たな契約先をさがしていたそうだ。
「ほかに彼をほしがっている企業もあったらしいから、うちにとってはラッキーだったよ」
「さすが小山田さん」
「そうなんだよ。どこでそういう人事情報を入手してくるのか、聞いても教えてくれないんだ。小山田さんだけは敵にまわしたくないね」
小山田さんが絶賛する人。そんなすごい人が秋成さんの秘書になるんだ。これは期待できそうだ。
「今度紹介するよ」
「はい」
秋成さんがなぜかニヤリとした。
「咲都のやきもち、可愛いね」
なんでそのことを蒸し返すかな。せっかく上手に話題を変えられたと思ったのに。
「可愛くないもん! そういう年でもないし」
「なんでそんなこと言うかなあ? いつも思ってるよ。咲都は可愛いって」
「嘘……」
「嘘じゃないよ。じゃなきゃ、こうして一緒にいない。咲都だけだよ。キスしたいと思うのも結婚したいと思うのも、咲都以外に考えられないから」
聞いているこっちが恥ずかしくなるような甘ったるいセリフ。でもやっぱりうれしい。
じっとわたしを見つめる熱い眼差しに胸がトクンと鳴った。
「急にそんな目で見ないで」
「そんな目ってどんな?」
「そうやって、わざとわたしに言わせようとするんだから」
「たまには咲都のほうから誘ってほしいんだけどな」
普段は穏やかで落ち着いた人だけど、こういうときはスイッチが入ったかのようにまるで人が変わる。言葉と表情と身体でストレートに求めてくる。
「咲都……」
甘い声でささやき、欲情をたたえた顔が近づいてくる。手のひらがわたしの頬をやさしくなぞっていった。
そしてゆっくりと重なり合う唇。目を閉じるとやわらかさを堪能するように何度もついばまれる。やさしくて丁寧な口づけにとろけてしまう。
やがて深く絡み合いはじめると、角度を何度も変えて求め合った。
いつもそう。秋成さんとのキスは無我夢中になって、我を忘れてしまいそうになる。
わたしの理性はあとどれくらい持つんだろう。そろそろ限界。自分で自分の身体を支えられなくなりそう。
「ちょ……待っ──」
キスの合間になんとか言葉を発する。
「苦しかった?」
「ううん、そうじゃなくて……」
「ベッドに行く?」
コクリと頷くと、秋成さんがわたしを抱き上げた。
やっぱり男の人なんだなあ。決して細身ではないわたしを軽々とお姫様抱っこできるのだから。
秋成さんは寝室にわたしを運ぶと、そっとベッドに横たえさせた。
あとは流れに身をまかせるだけ。見慣れているはずの裸にわたしだけドキドキさせられ、秋成さんは余裕いっぱいにわたしを愛し尽くす。
いろんな形でつながって、シーツが幾重にも波打ち、もれる喘ぎ声さえも激しいキスが奪っていった。
握られた手、重なり合う唇、身体の奥まですべて熱い。それでも甘く濃厚な時間は終わる気配がちっともない。
厄介なのは、自分の身体がますます敏感になっていくこと。内腿を軽くすべっていった指先にさえ反応してしまい、それに気づいた彼の動きが速度を増し、さらに奥を攻め立てられた。
何度も襲ってくる快感。汗だくになりながらもなんとか乗り越えたけれど……。
最後に「大丈夫?」と声をかけられても、返事する気力は残っていなかった。
「え?」
「小山田さんの判断だよ。代わりに派遣会社からプロフェッショナルな秘書が来てくれることになった。小山田さんが自ら面接したから今度は大丈夫」
まさかそんなことになっていたとはつゆ知らず。
「椿野さんのことは、僕もなにも感じていなかったわけじゃない。でも、ああいうスキンシップをされてもなんとも思わない。その前に小山田さんが許さないだろうなってわかっていたから、僕からはとくになにも言わなかったんだ」
そっか、そうだよね。秋成さんが椿野さんをいちいち注意する必要はない。それをするのは彼女の直属の上司にあたる小山田さんの役目だ。
「でも嫌な思いをさせてごめん」
「ううん、わたしのほうこそ意地悪いこと言っちゃってごめんなさい……。あっ、ところで、新しい秘書の方には会ったの?」
椿野さんが異動になったとしても、新たな美人が秘書として配属されるのだろうから、心穏やかとはいかない。
「会ったよ。三十歳のいい男だよ」
「男性?」
世の中には男性秘書もたくさんいるが、派遣もあるのか。
「派遣といってもハイクラス専門の秘書で、今は日本有数のデベロッパーで役員秘書をしているんだ。その人、向こうとは今月末で契約終了するんだけど、タイミングよく捕まえることができたって小山田さんが大喜びだった」
聞けばそのデベロッパーは旧財閥系の超一流企業。役員の方が体調不良のために急きょ辞任することになり、それを機に新たな契約先をさがしていたそうだ。
「ほかに彼をほしがっている企業もあったらしいから、うちにとってはラッキーだったよ」
「さすが小山田さん」
「そうなんだよ。どこでそういう人事情報を入手してくるのか、聞いても教えてくれないんだ。小山田さんだけは敵にまわしたくないね」
小山田さんが絶賛する人。そんなすごい人が秋成さんの秘書になるんだ。これは期待できそうだ。
「今度紹介するよ」
「はい」
秋成さんがなぜかニヤリとした。
「咲都のやきもち、可愛いね」
なんでそのことを蒸し返すかな。せっかく上手に話題を変えられたと思ったのに。
「可愛くないもん! そういう年でもないし」
「なんでそんなこと言うかなあ? いつも思ってるよ。咲都は可愛いって」
「嘘……」
「嘘じゃないよ。じゃなきゃ、こうして一緒にいない。咲都だけだよ。キスしたいと思うのも結婚したいと思うのも、咲都以外に考えられないから」
聞いているこっちが恥ずかしくなるような甘ったるいセリフ。でもやっぱりうれしい。
じっとわたしを見つめる熱い眼差しに胸がトクンと鳴った。
「急にそんな目で見ないで」
「そんな目ってどんな?」
「そうやって、わざとわたしに言わせようとするんだから」
「たまには咲都のほうから誘ってほしいんだけどな」
普段は穏やかで落ち着いた人だけど、こういうときはスイッチが入ったかのようにまるで人が変わる。言葉と表情と身体でストレートに求めてくる。
「咲都……」
甘い声でささやき、欲情をたたえた顔が近づいてくる。手のひらがわたしの頬をやさしくなぞっていった。
そしてゆっくりと重なり合う唇。目を閉じるとやわらかさを堪能するように何度もついばまれる。やさしくて丁寧な口づけにとろけてしまう。
やがて深く絡み合いはじめると、角度を何度も変えて求め合った。
いつもそう。秋成さんとのキスは無我夢中になって、我を忘れてしまいそうになる。
わたしの理性はあとどれくらい持つんだろう。そろそろ限界。自分で自分の身体を支えられなくなりそう。
「ちょ……待っ──」
キスの合間になんとか言葉を発する。
「苦しかった?」
「ううん、そうじゃなくて……」
「ベッドに行く?」
コクリと頷くと、秋成さんがわたしを抱き上げた。
やっぱり男の人なんだなあ。決して細身ではないわたしを軽々とお姫様抱っこできるのだから。
秋成さんは寝室にわたしを運ぶと、そっとベッドに横たえさせた。
あとは流れに身をまかせるだけ。見慣れているはずの裸にわたしだけドキドキさせられ、秋成さんは余裕いっぱいにわたしを愛し尽くす。
いろんな形でつながって、シーツが幾重にも波打ち、もれる喘ぎ声さえも激しいキスが奪っていった。
握られた手、重なり合う唇、身体の奥まですべて熱い。それでも甘く濃厚な時間は終わる気配がちっともない。
厄介なのは、自分の身体がますます敏感になっていくこと。内腿を軽くすべっていった指先にさえ反応してしまい、それに気づいた彼の動きが速度を増し、さらに奥を攻め立てられた。
何度も襲ってくる快感。汗だくになりながらもなんとか乗り越えたけれど……。
最後に「大丈夫?」と声をかけられても、返事する気力は残っていなかった。
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