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4.壊れそうな彼女のために
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(side 冬馬)
「ごめんね、冬馬くん。あんな嘘、つかせちゃって」
「あれでよかったか? 余計なことしたかもって思ったけど」
「あれでよかったよ。ほんと助かった」
佐野先生たちと別れ、再びふたりきりになった。
佐野先生が輝の好きだった男だというのはすぐにわかった。以前、待ち受けにしていた画像の男と同一人物だったから。
幸せそうに子どもを抱いていた。輝はあの姿を見てどう思ったんだろう。よりによって女房と子ども同時に出くわすとは酷《こく》だ。
いまの輝は小さくて、弱々しくて、壊れてしまいそうだった。
「ごはんでも行くか。俺、腹減った」
「……うん」
輝をこのまま帰したくないと思った。もともと買い物だけで帰すつもりはなかったけど、断られても無理やり一緒にいてやると思った。
「なに食いたい?」
「なんでもいいよ。冬馬くんにまかせる」
とりあえずデパートを出て、できるだけここから離れたところに行こう。じゃないと、また佐野先生たちに会ってしまうかもしれない。俺たちは駐車場に向かった。
「食欲あるか?」
「うん」
「別に俺の前では無理しなくてもいいぞ」
「わたしもお腹空いた」
そうは言ってもいまにも泣き出しそうな顔だった。これ以上、我慢させるわけにいかない。そう思ったから……。
「やっぱうちに帰ろう」
「え?」
「がんばる必要なんてないよ。いま、つらいだろう?」
「……うん」
車で輝のアパートに向かった。
うつむいて、ひとことも話さない輝を見て責任を感じた。俺が誘わなかったらこんなことにはならなかった。
俺は怖くなった。よくわからないが、今日のことで輝のなにかが変わってしまうんじゃないかと不安になった。たとえば、俺みたいに異性関係にルーズになるとか、はたまた俺を含めた男をとことん拒絶するとか。もしくはそれ以外のこととか。
……やばい。こんなの考えたくない。
輝のアパートの前に着いた。車を止めた俺は、迷ったあげく思いきって言った。
「今日はごめんな」
「なんで冬馬くんが謝るの?」
「俺のせいのような気がして」
「それは違う。これでよかったんだよ。ふたりが幸せな家庭を築いていると知って、いい加減あきらめがつくもん」
「ちゃんとあきらめられるのかよ?」
「あきらめるよ。わたしは佐野先生の家庭を壊すことなんて絶対にできないから」
そうだよな。輝はそういう人間じゃない。俺はなにを怖がっていたんだろう。輝は変わらない。これまで通り、思いやりがあって、まじめでまっすぐな女の子だ。
「でも、つらいよな」
「そりゃあつらいよ。つらくて……泣きそうだよ……」
「泣いていいよ。ずっと好きだった男のことをようやく忘れる日が来たんだ。これまでのつらい日々は今日で最後にしよう」
すると輝が言った。
「冬馬くん。わたし、今日は……ひとりになりたくない」
まさか輝の口からそんなことを聞くなんて思ってもみなかった。そのセリフを聞いた瞬間、俺の理性が吹っ飛んでしまった。
輝は俺を部屋に招き入れ、俺は輝を抱いた。それまで誰も受け入れようとしなかった輝がどうして俺なんかと? と思ったが、それよりも俺で輝のさみしさが紛らわせられるのなら、それでいい思った。
◇◇◇
いま思えば、輝の「ひとりになりたくない」というセリフにそこまでの意味が含まれていたのかはわからない。けれど、輝は嫌がる様子はなかった。俺たちは自然に結ばれ、ちゃんと快感も味わい、満足感も得られた。
でもきっと、二ヶ月経ったいまも輝はまだあの男を忘れていない。いまでも佐野先生が好きなんだと思う。
「ごめんね、冬馬くん。あんな嘘、つかせちゃって」
「あれでよかったか? 余計なことしたかもって思ったけど」
「あれでよかったよ。ほんと助かった」
佐野先生たちと別れ、再びふたりきりになった。
佐野先生が輝の好きだった男だというのはすぐにわかった。以前、待ち受けにしていた画像の男と同一人物だったから。
幸せそうに子どもを抱いていた。輝はあの姿を見てどう思ったんだろう。よりによって女房と子ども同時に出くわすとは酷《こく》だ。
いまの輝は小さくて、弱々しくて、壊れてしまいそうだった。
「ごはんでも行くか。俺、腹減った」
「……うん」
輝をこのまま帰したくないと思った。もともと買い物だけで帰すつもりはなかったけど、断られても無理やり一緒にいてやると思った。
「なに食いたい?」
「なんでもいいよ。冬馬くんにまかせる」
とりあえずデパートを出て、できるだけここから離れたところに行こう。じゃないと、また佐野先生たちに会ってしまうかもしれない。俺たちは駐車場に向かった。
「食欲あるか?」
「うん」
「別に俺の前では無理しなくてもいいぞ」
「わたしもお腹空いた」
そうは言ってもいまにも泣き出しそうな顔だった。これ以上、我慢させるわけにいかない。そう思ったから……。
「やっぱうちに帰ろう」
「え?」
「がんばる必要なんてないよ。いま、つらいだろう?」
「……うん」
車で輝のアパートに向かった。
うつむいて、ひとことも話さない輝を見て責任を感じた。俺が誘わなかったらこんなことにはならなかった。
俺は怖くなった。よくわからないが、今日のことで輝のなにかが変わってしまうんじゃないかと不安になった。たとえば、俺みたいに異性関係にルーズになるとか、はたまた俺を含めた男をとことん拒絶するとか。もしくはそれ以外のこととか。
……やばい。こんなの考えたくない。
輝のアパートの前に着いた。車を止めた俺は、迷ったあげく思いきって言った。
「今日はごめんな」
「なんで冬馬くんが謝るの?」
「俺のせいのような気がして」
「それは違う。これでよかったんだよ。ふたりが幸せな家庭を築いていると知って、いい加減あきらめがつくもん」
「ちゃんとあきらめられるのかよ?」
「あきらめるよ。わたしは佐野先生の家庭を壊すことなんて絶対にできないから」
そうだよな。輝はそういう人間じゃない。俺はなにを怖がっていたんだろう。輝は変わらない。これまで通り、思いやりがあって、まじめでまっすぐな女の子だ。
「でも、つらいよな」
「そりゃあつらいよ。つらくて……泣きそうだよ……」
「泣いていいよ。ずっと好きだった男のことをようやく忘れる日が来たんだ。これまでのつらい日々は今日で最後にしよう」
すると輝が言った。
「冬馬くん。わたし、今日は……ひとりになりたくない」
まさか輝の口からそんなことを聞くなんて思ってもみなかった。そのセリフを聞いた瞬間、俺の理性が吹っ飛んでしまった。
輝は俺を部屋に招き入れ、俺は輝を抱いた。それまで誰も受け入れようとしなかった輝がどうして俺なんかと? と思ったが、それよりも俺で輝のさみしさが紛らわせられるのなら、それでいい思った。
◇◇◇
いま思えば、輝の「ひとりになりたくない」というセリフにそこまでの意味が含まれていたのかはわからない。けれど、輝は嫌がる様子はなかった。俺たちは自然に結ばれ、ちゃんと快感も味わい、満足感も得られた。
でもきっと、二ヶ月経ったいまも輝はまだあの男を忘れていない。いまでも佐野先生が好きなんだと思う。
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