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122.王宮

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「今の王国は、大きく分けて3つの勢力に分かれているんだ」

「派閥争いってやつか」

「そうだよ。少し前はもっと細かく分かれていたんだけど、四大貴族のうちオスマン公爵家とドルスール公爵家が魔族に倒されてからは3つに纏まった」

 魔族というのはたしかエルカザド連合国の獣人を指す言葉だったはずだ。
 四大貴族はスクアード辺境伯以外は国内で小競り合いを繰り広げていたが、そうか連合国に討たれてしまったのか。
 残ったのはスクアード辺境伯家と、ライエル侯爵家だけ。
 となると3つの勢力というのはその2家に王家を加えた3陣営か。

「3つの陣営はそれぞれ、隷属した勇者と王国騎士団を擁する王家、オスマン公爵家とドルスール公爵家の残党を飲み込んだライエル侯爵家、そして辺境警備兵団と小さな貴族があつまって出来た辺境諸侯連合。でも諸侯連合は旗頭のスクアード辺境伯が王家に捕らえられたから勢いを失っている。直にドルスール公爵も捕まると思うよ。大量の隷属勇者を擁する王家はやっぱりずば抜けて強い」

 スクアード辺境伯も王家に捕らえられてしまっていたか。
 あの人にもお世話になったことがあるから、助けられるなら助けたい。
 それにこの国のことも、俺がどうこうする問題ではない。
 助け出したらなんとかしてくれるのではないかという期待もある。
 もう一度王都にいかなければいけない理由が増えた。

「もし、前王国騎士団の幹部や辺境伯が捕らえられているとしたらどこに幽閉なり軟禁なりされているだろうか」

「うーん、やっぱり王宮だろうね。あそこはこの国で一番古い建物だけれど、建造技術には今の錬金術では再現できないロストテクノロジーが使われている凄い建物らしいんだ。たぶん王宮の地下牢がこの国で一番堅牢なんじゃないかな」

「そうか。王宮か」

 やっぱり王宮に行かなければならないらしい。
 俺にとって一番脅威となりうる隷属された勇者を擁する王家の本丸に乗り込むのは、少し勇気がいる。
 だが、虎穴に入らずんば虎子を得ずと言う。
 初めて風俗店に入ったときのことを思い出して勇気を奮い立たせる。
 よし、行ける。
 四十路でも五十路でもどんと来い。

「助けに行くつもりなの?」

「辺境伯には借りがあるんだ。マリステラ卿には借りどころか貸しがある気がするけど、返してもらわずに死なすのも惜しいからね」

「なんかかっこいいな。俺もさ、シゲさんみたいなおっさんになれるかな」

「おっさんに憧れるなんて珍しい人だな君は。おっさんなんて男なら誰にでも待ち受けている運命だよ。せいぜい馬鹿な若者時代をエンジョイしておくことだ。そしたら後悔と恥でそのうちこんな顔になるさ」

 その一つ一つの積み重ねが、おっさんへとつながっている。
 嫌だね。






 王都一番街から高い城壁を越えると、ルーガル王国の王宮がある。
 東京ドームに換算しても2、30個分くらいはありそうな広さの巨大建築物。
 はるか昔、物語の中の勇者が召喚されるよりも前に建てられた建物だというその石造りの宮殿は、現在厳重な警備が敷かれていた。
 悪人面の貴族、シェンロンに聞いた名前はプロット・ローレンス伯爵だったかな。
 そのローレンス伯爵の屋敷を静香さんたちが破壊し、俺が多くの勇者の首輪を外して回ったおかげで王都は物々しい雰囲気に包まれている。
 あちこちで解放された勇者たちが恨みを晴らすために暴れているのだ。
 王宮の城門にも遠距離型の神器で攻撃が加えられているようで、爆発音のようなものが俺のいる城壁の上にまで聞こえてきている。

「ちょっと警備が厳しいかな」

 俺はすでに神の苦無威の隠密能力を発動しているが、今回召喚された勇者の神器は舐めてかかるべきではないだろう。
 ミタケンさんの丸メガネはうっすらとではあるが俺の隠密を見破っていたようだし、他にもそのような神器を持っている人がいてもおかしくはない。
 すべての人の神器を知ることができる神のスマホEXは手に入れたが、なにぶん今回召喚された人は人数が多い。
 全員分の神器とその能力を確認するには時間がかかりすぎてしまう。
 ぐずぐずしていたらマリステラ卿やスクアード辺境伯が公開処刑にでも処されてしまうかもしれない。
 俺は外からの攻撃に揺れる城壁から王宮側へ飛び降りた。
 2人が捕らえられているのは、王宮の地下にある牢屋の可能性が高い。
 貴族を捕らえるのであれば王宮の一室に軟禁とかそういう丁寧なものを想像するけれど、それはおそらく利用価値のある貴族や王族を捕らえる場合だけだろう。
 辺境伯は勢力のトップだし、利用価値はある。
 地下牢にいるかはわからない。
 マリステラ卿は王国騎士団内部にまだマリステラ卿に従う騎士がいるかもしれないが、それだけでは利用価値が薄い。
 おそらくマリステラ卿は確実に地下牢だ。
 俺はシェンロンが覚えている限り描き出してくれた王宮の地図を頭の中に浮かべ、地下牢への道を急いだ。
 王宮は入り組んでいて、道を間違えないようにしないと目的地にはたどり着くことができない。
 地図が完璧じゃないのでいささか不安だ。
 
「あ?」

 通路の曲がり角、武器を持って警邏にあたっていた勇者っぽい男と目があった気がした。
 その目にはサングラス。
 まずいな、これは確実にミタケンさんのメガネと同じようなタイプの神器だ。
 俺はすぐに上に飛び上がり、ネバネバ魔法で天井に張り付く。

「見間違いか?幽霊?まさかな……」

 ミタケンさんのメガネと同じように男には俺の姿がくっきり見えていたわけではないようで、視界の外に逃げたことで見失ってくれたようだ。
 やはり厄介だな、最新の神器は。
 男が見えなくなるまで俺は天井に張り付き見守った。
 用心に越したことはない。
 これまで以上に五感を総動員して、地下牢を目指す。
 まったく、無駄に広い王宮だな。
 

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