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おっさんずイフ
33.巨鳥ガルーダ
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片手を恋人つなぎのまま紐でぐるぐる巻きにされた俺とグウェンは、家の影から影の世界へと潜っていく。
まるで結婚に反対された好き合う2人が無理心中を図っているようではなはだ不快だ。
「へぇ、ここが影の中なのね。水の中にいるみたいだけど、息ができる。不思議ね」
「のんびり影の中を眺めている場合じゃないよ。早くしないと冒険者たちとガルーダの戦いが始まってしまう。確かガルーダのいるっていう山は、こっちだったかな」
「方角が分かりづらいのが難点ね。時々影から顔を出して自分が今どこにいるのかを確認しながら行くしかないわね」
巨鳥ガルーダが住み着いているという島の中心にある山の天辺までは本来ならば歩いていかなければならないのだが、影の中ならば泳いでいくことができる。
しかしながら泳ぎながら正確な方角を認識し続けるのは難しい。
ずれてしまった方角を時々修正する必要がある。
片手が塞がっているのも地味に泳ぎにくいし、やっぱり一人で来ればよかったな。
まあグウェンもあんなことを言っているけれど同業の冒険者たちをみすみす見殺しにはしたくないはずだ。
おそらく結構序盤から乱入する。
となれば2人で来るしかなかった。
水面から光が差し込む影の世界を、しばし無言で泳ぎ進む。
「ここね。この大きい影がきっとガルーダの影よ」
何度も方角を修正しながら山を泳ぎ登り、ついに俺たちはガルーダと思われる大きな影を発見した。
当然その影から顔を出すわけにはいかない。
少し距離をとり、気配を察知されない位置からそっと顔を出してグウェンが持っていた双眼鏡のような魔道具を2人で片目ずつ覗き込む。
顔が近い。
やっぱりこういうイベントは(以下略)。
「あれが、巨鳥ガルーダ……」
山の頂上に陣取り、どこから狩ってきたのか大きな魚を啄む巨大な鳥。
色は全体的に青っぽい。
まるで海のように深い青色の風切り羽と、真っ白な羽毛。
遠目から見たらそれが混ざり合って空色に見える。
眼光は猛禽類のように鋭く、決して可愛い鳥さんという雰囲気ではない。
「なんて魔力だ」
「あたしもびんびん感じるわ。あれがSランクの魔物よ」
ガルーダの身に纏う魔力はこれまで見た中でどんな生き物よりも洗練されていた。
内包する魔力は膨大なはずなのに、ガルーダから立ち上る魔力はごく微量。
それはほとんどロスなく魔力を体内で運用しているということに他ならない。
ガルーダの体内から発せられる膨大な魔力の流れが引き起こす波動のようなものが、具体的な圧力となって俺たちを威圧している。
「すごいな。勉強になる」
「魔物を見て学ぶって結構あることなのよ。あたしも子供の頃オーガを真似て魔力コントロールの基礎を学んだの」
普通子供がオーガを見たら死んでるけどね。
魔物はすべからく人類の敵であるからに、こうして魔物をじっくりと観察できる機会というのも珍しい。
冒険者たちが来るまでじっくりと観察させてもらうとするか。
ガルーダの食べている魚はまるでサケを100倍ほどに巨大化させたような魚で、魚肉は鮮やかなオレンジ色をしていた。
それをガルーダはちょびちょびと啄み、美味しそうに咀嚼していく。
「なんかお腹減ってきた」
「あれはタイラントサーモンね。言っておくけどあれもSランクの魔物よ。海の中ではガルーダにだって負けず劣らずの強者なのよ。魚肉はほんの一切れで金貨が数枚飛んでいくような代物ね」
鳥のくせにずいぶんと良い物を食べているな。
おかげでこっちもサーモンが食べたくなってしまった。
スモークサーモンをつまみにシャンパンでも飲んでひとりでパリピ気分を味わいたい。
「もう少し素の状態のガルーダを観察していたいところだけど、残念ね。冒険者たちが来たみたい」
グウェンが双眼鏡の魔道具を少し動かすと、そこには陣形を組んでこれからガルーダに挑もうとしている冒険者たちが見えた。
数は400人ほどだろうか。
そのほとんどが一般人10人分以上の実力を持つ冒険者たちであり、ギルドの担当者の机上の空論ではガルーダを討伐することのできる一般人4000人+アルファの戦力には足りていると思われる。
「今回の依頼、冒険者たちにはほとんど依頼料が支払われていないわ。その代わり討伐されたガルーダの素材は貢献度に応じて山分けとなる」
「冒険者たちは倒せるかどうかもわからないガルーダの素材の分け前を目当てにこの作戦に参加しているってことか」
「ガルーダに通用する実力を持った冒険者を集めて依頼を出せば莫大な依頼料がかかるわ。その出費をケチったのね。ガルーダの素材は売れば莫大な金額が手に入るわ。有象無象の冒険者400人ばかしを集めるにはいい餌ね。依頼を出したであろうこの島の権力者や国も、お金がかからないに越したことはないと思っているはずだからギルドと利害が一致したのね」
有象無象の冒険者でもガルーダを討伐することができるならば、冒険者ギルドは高ランクの冒険者に頼らなくても強い魔物を倒せるといういい喧伝になる。
高ランク冒険者のご機嫌取りをする必要もなくなるというわけだ。
依頼主も高ランクの冒険者を雇うために莫大な依頼料を払う必要がなくてウィンウィンだ。
まあ有象無象の冒険者たちが数の力で強大な魔物にウィンできればの話だがな。
まるで結婚に反対された好き合う2人が無理心中を図っているようではなはだ不快だ。
「へぇ、ここが影の中なのね。水の中にいるみたいだけど、息ができる。不思議ね」
「のんびり影の中を眺めている場合じゃないよ。早くしないと冒険者たちとガルーダの戦いが始まってしまう。確かガルーダのいるっていう山は、こっちだったかな」
「方角が分かりづらいのが難点ね。時々影から顔を出して自分が今どこにいるのかを確認しながら行くしかないわね」
巨鳥ガルーダが住み着いているという島の中心にある山の天辺までは本来ならば歩いていかなければならないのだが、影の中ならば泳いでいくことができる。
しかしながら泳ぎながら正確な方角を認識し続けるのは難しい。
ずれてしまった方角を時々修正する必要がある。
片手が塞がっているのも地味に泳ぎにくいし、やっぱり一人で来ればよかったな。
まあグウェンもあんなことを言っているけれど同業の冒険者たちをみすみす見殺しにはしたくないはずだ。
おそらく結構序盤から乱入する。
となれば2人で来るしかなかった。
水面から光が差し込む影の世界を、しばし無言で泳ぎ進む。
「ここね。この大きい影がきっとガルーダの影よ」
何度も方角を修正しながら山を泳ぎ登り、ついに俺たちはガルーダと思われる大きな影を発見した。
当然その影から顔を出すわけにはいかない。
少し距離をとり、気配を察知されない位置からそっと顔を出してグウェンが持っていた双眼鏡のような魔道具を2人で片目ずつ覗き込む。
顔が近い。
やっぱりこういうイベントは(以下略)。
「あれが、巨鳥ガルーダ……」
山の頂上に陣取り、どこから狩ってきたのか大きな魚を啄む巨大な鳥。
色は全体的に青っぽい。
まるで海のように深い青色の風切り羽と、真っ白な羽毛。
遠目から見たらそれが混ざり合って空色に見える。
眼光は猛禽類のように鋭く、決して可愛い鳥さんという雰囲気ではない。
「なんて魔力だ」
「あたしもびんびん感じるわ。あれがSランクの魔物よ」
ガルーダの身に纏う魔力はこれまで見た中でどんな生き物よりも洗練されていた。
内包する魔力は膨大なはずなのに、ガルーダから立ち上る魔力はごく微量。
それはほとんどロスなく魔力を体内で運用しているということに他ならない。
ガルーダの体内から発せられる膨大な魔力の流れが引き起こす波動のようなものが、具体的な圧力となって俺たちを威圧している。
「すごいな。勉強になる」
「魔物を見て学ぶって結構あることなのよ。あたしも子供の頃オーガを真似て魔力コントロールの基礎を学んだの」
普通子供がオーガを見たら死んでるけどね。
魔物はすべからく人類の敵であるからに、こうして魔物をじっくりと観察できる機会というのも珍しい。
冒険者たちが来るまでじっくりと観察させてもらうとするか。
ガルーダの食べている魚はまるでサケを100倍ほどに巨大化させたような魚で、魚肉は鮮やかなオレンジ色をしていた。
それをガルーダはちょびちょびと啄み、美味しそうに咀嚼していく。
「なんかお腹減ってきた」
「あれはタイラントサーモンね。言っておくけどあれもSランクの魔物よ。海の中ではガルーダにだって負けず劣らずの強者なのよ。魚肉はほんの一切れで金貨が数枚飛んでいくような代物ね」
鳥のくせにずいぶんと良い物を食べているな。
おかげでこっちもサーモンが食べたくなってしまった。
スモークサーモンをつまみにシャンパンでも飲んでひとりでパリピ気分を味わいたい。
「もう少し素の状態のガルーダを観察していたいところだけど、残念ね。冒険者たちが来たみたい」
グウェンが双眼鏡の魔道具を少し動かすと、そこには陣形を組んでこれからガルーダに挑もうとしている冒険者たちが見えた。
数は400人ほどだろうか。
そのほとんどが一般人10人分以上の実力を持つ冒険者たちであり、ギルドの担当者の机上の空論ではガルーダを討伐することのできる一般人4000人+アルファの戦力には足りていると思われる。
「今回の依頼、冒険者たちにはほとんど依頼料が支払われていないわ。その代わり討伐されたガルーダの素材は貢献度に応じて山分けとなる」
「冒険者たちは倒せるかどうかもわからないガルーダの素材の分け前を目当てにこの作戦に参加しているってことか」
「ガルーダに通用する実力を持った冒険者を集めて依頼を出せば莫大な依頼料がかかるわ。その出費をケチったのね。ガルーダの素材は売れば莫大な金額が手に入るわ。有象無象の冒険者400人ばかしを集めるにはいい餌ね。依頼を出したであろうこの島の権力者や国も、お金がかからないに越したことはないと思っているはずだからギルドと利害が一致したのね」
有象無象の冒険者でもガルーダを討伐することができるならば、冒険者ギルドは高ランクの冒険者に頼らなくても強い魔物を倒せるといういい喧伝になる。
高ランク冒険者のご機嫌取りをする必要もなくなるというわけだ。
依頼主も高ランクの冒険者を雇うために莫大な依頼料を払う必要がなくてウィンウィンだ。
まあ有象無象の冒険者たちが数の力で強大な魔物にウィンできればの話だがな。
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