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42.帰還1
しおりを挟む六年ぶりの王都――
王太子一家の王都帰還にともない国王主催の夜会が開かれた。
リリアナに「自分も参加したい」と駄々をこねられたが、社交界デビューしていない娘を夜会に出す事は出来ない。宥めるためにドレスを新調する事になった。
夜会は国王主催のため、殆どの貴族が参加しているといっても良い規模だった。王太子一家を祝う夜会だが誰も私とサリーを見る者はいない。高位貴族は最低限の挨拶をしていく。サリーにはカーテシーすらされない状況に愕然とした。公の場に出る事はなくとも王太子妃だというのに……。玉座に座る父を盗み見ると当然のような態度だった。どうやら高位貴族なら王太子妃にカーテシーをする必要はないというお墨付きを国王から貰っているようだ。
隣に立つサリーは気付いていない。華やかな宴に心を奪われている。そのため本来なら気付くはずの事が気にならないでいる。それは幸いかもしれない。サリーにとっても私にとっても……。
まるで透明人間だ。
他人事のように思ってしまう。
流石にもう、サリーに対して不敬だと言う事はない。そんな事はもう思わなくなってしまった。嘗て側近達に進言された事が身に染みる。
『ビット男爵令嬢を大切に想っていらっしゃるのなら距離を置くべきです』
『愚かな事は考えないでください。ビット男爵令嬢に王太子妃は務まりません』
『育ってきた環境も受けてきた教育も違い過ぎる相手との婚姻など不幸以外の何物でもありません』
『男爵家の出では最低限の支度すら整える事は出来ません』
恋に盲目になっていた私は、側近達がセーラを擁護する言葉が癪に障った。サリーに王太子妃は務まらない。その言葉自体を曲解してしまった。彼らの言葉は正しい。今の私なら理解できる。サリーと問題なく婚姻するなら王籍を抜けるべきだった。
『マクシミリアン殿下、我々は殿下の側近であり学友として幼い頃から傍に仕えて参りました。セーラ嬢の事も良く存じ上げております。セーラ嬢ほどの女性は世界中探しても見つからないでしょう。我が国は未来の賢妃を永久に失ってしまいました。その損失は計り知れません』
全くその通りだった。
もっとも、当時の私はそんな訳ないと心の中で叫んでいたが……。
ビット男爵家にも悪い事をした。
あの家は歴史ある古い家柄だった。だが、経営状態が悪かった。一人娘が王太子に見初められたせいで周囲の貴族から敬遠された。学園が抗議したせいで侯爵家に喧嘩を売った事が分かると商人との付き合いも出来なくなったと聞く。サリーとの結婚に浮かれていたせいで男爵家の衰退に気付くのが遅れた。知った時は既に廃爵された後だった。しかも宰相から聞かされて知ったという体たらくだ。
ビット男爵は「娘が王家に嫁いだ以上は既に王族です。それでも娘によって多くの人達の人生が狂ってしまった事も事実です。私達一族はこの国で暮らしていく事が困難になりました。知り合いの伝手を頼りに新しい土地で再出発いたします。つきましては、王太子妃との縁を切らせて頂きます」と言い、隣国に旅立ったそうだ。
宰相の「親はまだマトモでしたな」と洩らす言葉に言い返す事も出来なかった。
私がそんな昔の事を思い出すのは、嘗ての側近達が集まって話している姿を見ているせいかもしれない。
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