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45.帰還4
しおりを挟む何時まで経ってもセーラ達はこちらに来なかった。『来ない』というのは語弊があるな。父上が二人を離さないのだ。このまま王太子である私に挨拶をさせないつもりだろうか?だが何故だ?理由が分からない。私は仲睦まじく話す父上と公爵夫妻の姿を見つめる事しかできなかった。
「そう言えば、コードウェル公爵令嬢の婚約が正式に決まったらしいな。二人ともおめでとう」
「ありがとうございます、陛下」
聞き耳を立てていると、セーラの娘の縁談話だった。
「以前から打診はあったが、コードウェル公爵令嬢と相愛の相手との婚約は実に目出度い」
「はい。元々、幼馴染の間柄でありましたので私達夫婦も安堵しております」
「他国の王族から幾つも縁談話が舞い込んでいたそうではないか」
「はい。求婚者の方々には申し訳ありませんが、娘の気持ちが第一ですから」
「はははっ。それもそうだ。帝国の第二皇子との婚約だ。国を挙げて祝わなければな」
「陛下、お戯れを」
「戯れではないぞ。当然の事だ」
驚いたことにセーラの娘は帝国皇子に嫁ぐらしい。
それだけでも驚く事だというのに、帝国皇子とセーラの娘が幼馴染とはどういうことだ?私は知らないぞ?王宮で話題になりそうな事だというのに……何故だ?
父上の言葉が頭の中をグルグルと回っている。
周囲を見渡すと、驚いているのは下位貴族ばかり。高位貴族は当然とばかりに微笑んでいる。どうやら高位貴族にとっては「予定通りの展開」らしい。
サリーは、恐ろしい形相でコードウェル公爵夫妻を見つめていた。それでも二人に駆け寄っていかないだけの理性はあるようだ。
夜会の種目が完全に変わった。「王太子一家帰還の歓迎」から「公爵令嬢と帝国皇子との婚約祝い」にとって代わられた。もはや誰も私とサリーを見ていない。父上との会話が終わるや否や高位貴族達は一斉にコードウェル公爵夫妻を囲んだからだ。次々に祝いの言葉を贈られる夫妻。それを満足気に見ている国王陛下。
これでは誰のための祝いか分かったものではない。まるで、王太子一家の名前で貴族を呼び出し、コードウェル公爵令嬢の婚約祝いに仕立てられたようにさえ感じる。被害妄想だと分かっていても作為的なものを感じてしまう。実の父が息子にそんな仕打ちをする筈がないというのに……。
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