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54.王太子妃side 

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 私は男爵家の一人娘として生まれた。
 
 ビット男爵家は建国から続く家柄。歴史はあるのに金がない。昔はそこそこ裕福だったという話だけど自分が生まれる遥か昔の事を言われてもピンとこない。

 自分の家が貧しい事は知っていた。
 何しろ、古い家系の家柄。屋敷も当然古い。けれど、重厚で如何にも古城といった風貌があったし、何よりも無駄に広い。その割に使用人の数は少なかった……違う、少なすぎた。それは幼い子供でも分かる程だった。庭など荒れ放題。幽霊屋敷と噂されてもいた。両親は笑顔を絶やさない人達だったけど、その裏では相当苦労しているのが嫌でも理解できた。幼い頃からどうすればこの貧乏生活から脱出できるのかを考えていた。両親も頑張っているのだろう。でも、努力が必ずしも実る事がないのを教えてくれたのは両親だった。

 
『貴族らしい暮らしはさせてやれないが家族三人で暮らせることが一番だ』

 私は他の子みたいに「お茶会」に参加したい!
 綺麗なドレスを着たいのよ!
 

 私の望みが叶ったのは母の友人が「家族同伴の茶会」に招待してくれた時だった。

 母の友人は子爵夫人で、うちの家と違って屋敷は綺麗に磨かれていた。子爵夫人には息子はいても娘がいなかったので私は可愛がられた。子爵夫人の息子は一つ年上で地味でパッとしない男の子だったけど私には凄く優しかった。上等なドレスや可愛らしい靴をプレゼントしてくれた。私は「うれしい。こんなプレゼントは初めてよ」と言うと、次も色々とプレゼントしてくれた。可愛らしく上目遣いでお願いしたら何でも言う事を聞いてくれた。

『サリーは可愛い』

『サリーは綺麗だ』

『まるで妖精みたいだ』

 子爵家の男の子は何時も私を褒め称えた。
 
 その時に初めて自分の容姿が人よりも優れている事を知った。
 私が可愛いから、彼は色々とプレゼントをくれるのだと。
 私が綺麗だから、彼は褒めてくれるのだと。

 なら、他の子は?
 そう思うのに時間はかからなかった。


「私、とも仲良くなりたい。を紹介して」


 彼は自分の友達を紹介してきた。
 普通は女友達を紹介する処だけど、運が良い事に彼に女友達がいなかった。私が思った通り、他の子も彼と同じような事をした。我先にと競うようにプレゼントを贈ってくる。


 「美しい」という意味を自覚した瞬間だった。
 



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