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59.過去5 ~王太子妃side~
しおりを挟む学園が掲げる『自主・自立・平等』を盾に言い返しても分家の男は顔色一つ変えなかった。それどころか、私に説教してきた。
「どうやら君は大きな勘違いをしているようだ」
「何ですって!?」
「学園が、それらを大切にしているのは確かだ。だが、貴族には身分というものがある」
だから何?
身分身分って!
ほんとに煩い!
「身の程を弁えないと良縁は望めないぞ。君が親しくしている友人達からも何度か勧められた縁談があっただろう?何故それを受けないんだ。君の年齢で婚約者がいないのは珍しい。それを考慮してくれているというのに……」
「皆が紹介するものはどれも下位貴族や商家風情じゃない!」
「君の立場に合わせた最良の縁組だと思うが?」
「ふざけないで!どこが最良よ!良い処で『子爵位』じゃない!」
「……君も『男爵令嬢』だろう」
「下位貴族どころか平民の商人を紹介してきたのよ!?」
「君は商人と馬鹿にしているが、どこも老舗の大店だ。資産は君の家の何十倍……いや、何百倍もある」
「しかも全員、次男や三男ばかりだったわよ!」
「当然だろう。君はビット男爵家の一人娘。家を継ぐ跡取り娘が婿を取るのは当たり前だ」
「侯爵夫人になれるんだったら男爵家なんて捨ててあげるわよ!なんでよ!私の何処があの女に劣るっていうの!?私の方がずっと女としては上よ!なのに伯爵家の娘ってだけで彼と結婚するなんて許せない!あの女の取り柄なんて身分だけじゃない!」
伯爵令嬢というだけで侯爵夫人になれる。不公平よ!私が男爵家娘でなく、あの女と同じ伯爵令嬢なら『彼』は私を選んでいたわ!
「君が自分の美貌に自信を持つのは勝手だ。だが、侯爵夫人は顔だけでやっていけるほど生易しい立場じゃない。マナーも知らない教養のない品性下劣な女が立つ場所ではない」
能面のような顔で言い放つ男の言葉にキレそうになった。
「私が品性下劣だというの!? 何処がよ! あの女なんて性格の悪さが顔に出てるじゃない!」
「高位貴族の夫人、又は令嬢は君のように声を荒げて怒鳴り散らすことは無い。そもそも自分の感情の赴くまま行動するなど有り得ないことだ。もっとも、コレは高位貴族だけではなく貴族社会に属する者なら常識の範囲だが、君にはその常識が一切備わっていない。貴族令嬢が婚約者のいる男と夜遅くまでホテルに籠るなど以ての外だ。いや、自分の将来のパートナー以外の男と腕を組むことも、不特定多数の男にすり寄ることもしない。君のようなふしだらな女は非常に稀だ」
「ふ、ふしだ……ら?」
あまりのいいように絶句してしまった。
そんなことを言われたのは初めてだった。
「君が、先ほどから身分しか取り柄がないといった伯爵令嬢は品行方正だ。学園でも五位以下に落ちたことがないほど優秀な女性でもある。それに引き換え、君は何位だ?下から数えた方が早いんじゃないか?」
「そ、そんなの関係ないでしょう!」
「大ありだ。高位貴族の夫人はイザとなれば夫に代わって執務をすることだってある。緊急時には『当主代理』が務まらなければ話にならないのだ。まあ、要するに高位貴族の正妻にはある程度の優秀さが求められるという事だ。君には逆立ちしても出来ない事だろう?伯爵令嬢は未来の侯爵夫人として完璧にこなせる」
怒りで顔が赤くなるのが分かる。
この男は私の成績の悪さを揶揄してる。
優秀さを求められる?
そんなの嘘よ!
綺麗に着飾ってパーティー茶会に出かけてばかりじゃない!
「それと、君が思っている『性格の悪い顔』を世間では『知性ある顔』というんだ。覚えておくといい」
男はそう言うと私の傍から去っていった。
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