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72.王女side

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 歓迎パーティーの翌日から王宮は第二皇子とコードウェル公爵令嬢の話題で持ち切りだった。
 あの女は人を苛つかせる天才だわ。


 
「初めてコードウェル公爵令嬢をみたが母君にそっくりだったな」

「気高い美貌に洗練された物腰。ああ、かの令嬢が王家の姫君だったらな」

「おい、それは禁句だろ!」

「あ……」

「まあ、気持ちは分かるけどな。同じ王家に血を引いているといっても、本物はだ。公爵令嬢の方がよっぽど王女らしいからな」

「母君は王国屈指の侯爵家の出身、父君のコードウェル公爵は王家に血を濃く引いた王位継承権持ちだ。ご本人の気質や能力を考えてもどちらに正統性があるかなんて一目瞭然だ」

「血筋の点で劣っているんだから、せめて有能であって欲しかったぜ」

「ははっ!それは無理というものだろう。あの方王太子妃の子だ。能力劣るってものだ」

「唯一の取り柄が『顔』だけとは、情けない話だ」

「おいおい、『顔』だけじゃないぞ。最近は母親に似て素晴らしいプロポーションが出来上がっているじゃないか」

「確かに!あれは良い。見ているだけご褒美ものだ!」 

「それ、不敬にならないか?」

「誰かが密告しない限り平気さ」

「だが、こんな場所でその話は控えておいたほうが良い。俺達以外の者が聞き耳立てていないとも限らないからな」

「そりゃそうだ。こんな割の良い仕事をクビにされたらたまらない」

女主人二人王太子妃と王女を褒め称えておけば良いだけだからな」

「お前な、ちゃんと見回りもしろよな。この前もサボってただろう?」

「サボってない。代わってもらっただけだ。ノットの奴、王太子妃や王女の護衛を苦手にしているからな」

「好き好んで護衛した奴はいないだろう。いつ癇癪を起こされるか分かったものじゃない」

「女は褒めてナンボだ。適当にヨイショしとけばいい」

「はぁ~~~。ノットはそういう行為が特に下手だからな」

「真面目な奴にココはあってないぜ。いっその事、王太子一家付きの護衛になるための最低条件に“口が上手くて見た目の良い男”ってしといた方が良くないか?」

「……そんな事はできないが……考えておいた方がいいかもしれないな」

「俺としては楽な仕事で天職だと思っているけど……大半の奴らはそうじゃないからな」

「お前も真面目に考える事があるんだな」

「俺だって仲間が精神を病む姿は見たくないぜ」
 
 
 護衛の男達が苦笑交じりで話していた内容に心底腹が立った。
 ともすれば『本物の王女』である私よりも、公爵令嬢に過ぎない女の方が『王女』としての身分に相応しいと言われたのだ。それでも血筋が悪いのは本当の事だった。私にとっては自慢の母も王宮や貴族達にしてみれば「身分の卑しい女性」になってしまう。

 
 ――妬ましい。
 

 生まれて初めて誰かを妬み羨んだ。
 あの女……キャサリン・コードウェル公爵令嬢は私が欲しかったモノを全て持っている。

 今までどうしてあれ程までに嫌悪したのか分かった。
 全てを兼ね備えた『完璧な王家の血を引く令嬢』であるキャサリンの立場は私が何よりも求めていたモノだったからだ。だからあれ程までに苛ついたし、少しでも欠点を見つけようと躍起になった。

 存在そのものが妬ましい。

 しかも、キャサリンは私が「欲しい」と思った男性さえも手に入れている。ルドルフ第二皇子の婚約者という立場を。


「一つ位譲るべきだわ」
 

 ルドルフ第二皇子との結婚だってそうよ。相手は王族。私がキャサリンの代わりに帝国に嫁いだらいいじゃない。曲がりなりにも私は王族よ。王太子の娘。正式な王女。何も問題ないわ。護衛達の話から帝国と公爵家は親しいみたいだけど、それを王家のモノにしてしまえば祖父だって喜ぶはずだわ。親族の女よりも自分の孫娘の方が王国にとっても王家にとっても良いはずよ!


 

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