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79.事件6
しおりを挟む一時間。子供達の自白を聞いたが、正直、何時間も経ったように感じた。
違法薬物の出所は酒場からだった。
それも、貴族の子弟が行くような場所とは到底思えない如何わしい酒場。男子生徒達は息抜きと称して何度か通っており、常連とまではいかなくとも顔なじみになっていたのだ。薬は低額で、買った相手は全身黒ずくめの男だという。帽子を深く被っていたせいで顔がはっきりと見えなかったらしい。もっとも、酒場はうす暗く本人達も酒を飲んでいたせいか朧げだった。
「何故、そんな見るからに怪しい奴から買ったりしたんだ!迂闊過ぎる!」
「どうしてなの? 貴族が出入りする場所じゃないでしょう……薬だなんて……もしも毒だったらどうするの……」
「貴男のお兄様は文官になったばかりなのに……こんな事が表沙汰になったら今後どうなるか……」
「全くだ!お前のせいで長男の出世に響いたらどうするんだ!? 責任を取れるのか!!」
「末っ子だからといって甘やかしたのがいけなかった。もっと厳しく躾けるべきだった。武官を多く出してきた家だ。本人の希望に沿って文官を目指させたのがそもそもの間違いだったのだ」
「貴男は優秀な成績で、お母様達の自慢だったのよ? このままいけば間違いなく文官になれたのに……」
親達の言う通りだ。
幼い子供でも「怪しい人に近づかない」という常識はあるだろう。若さ故の好奇心のせいで将来を棒に振ったのだ。親の怒りと悲しみは尋常ではない。
それと、子供達の言い訳も良くなかった。
「ああいった下町はスリルを楽しむ為のもんだ! 跡取りでもない、貰える爵位すらない下位貴族の次男や三男なら殆どの奴らが出入りしているんだ。俺だけじゃない!皆やっている事だろ!? なんで俺達だけを責めるんだよ!!」
「優秀な兄貴と比べられてウンザリだ。日々のストレスをそこで発散させて何が悪いんだ! だいたい、薬、薬って言うけど、自分で使う分は軽めの物しか使用してない。分量だってちゃんと調合して使ってるんだから問題ない。頭がスッキリして気分転換に持ってこいなんだよ!」
「優秀っていうけど、それは下位貴族としてだ! それでも必死に勉強しないと直ぐにトップから滑り落ちる。薬を使う事で眠気が解消して勉強がスムーズにできるんだ! 少しでも成績が落ちればすぐに『今からでもいい。武芸を磨け』って言う癖に何が自慢だ!」
もう少しマシな言い訳をするべきだ。
いや、自白剤を投与された後だ。若干、残っているのかもしれない。そうでなければ、こんなセリフは吐かないだろう。呆れた目で彼らの親子喧嘩を眺めていると、理事長の声が響いた。
「どうやら、余罪はたっぷりとありそうですな」
大きな声ではない。
だが、何故か嫌になるほど部屋中に響き渡った。一瞬、時間が止まったかのように感じた。親子喧嘩をしていた彼らも口を閉ざして理事長を見つめている。
「薬物の所持や使用は犯罪です。その上、彼らの話から薬物を売っていたかのような口調。それらを明らかにする必要があります」
理事長の言う事は正しい。
親達は誰一人反論する事が出来なかった。
重苦しい雰囲気を打ち破ったのはリリアナの一言だった。
「私はもう帰っても良いわよね?」
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