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104.崩壊5
しおりを挟む「それが新しい商品か?」
「はい、旦那様」
「……随分と厳重にしているんだな」
「これは特別製でございますので」
にっこりと微笑む執事は上機嫌だった。出荷用の馬車に乗せられている商品に余程いい値が付いたのだろうか? とてものんな風には見えないのだが……。痩せ細りボロボロの衣装を身につけた男女達。恐らく逃げだそうとしたのだろう。両手足を縛られた上に猿轡を噛まされ、目隠しをされている。
「今度は何処の国に売り払うんだ?」
「旦那様、この商品は各国の共有になる予定です」
「共有……?」
「はい。何でも各国の要人が以前とても世話になった者達らしく、まとめて可愛がろうと話し合いで決まったようです。この者達は、これから先二度と太陽の日が当たらない場所に繋がれて日々を過ごすのですよ。人としての尊厳をなくした生活を送り『殺してくれ』と泣き叫ぶまで痛めつけられ苦しんで死んで逝くのです」
笑顔で言い切った執事に背筋が凍る。
荷馬車が出発する。
行先は地獄だろう。
執事が何処の国に連れて行くのか言わなかったのだから、更に酷い扱いになるのは想像できた。何故、各国で共有するのかは理解できないが恐らくかなり恨みを買った末の結果だろう。チェスター王国が事実上崩壊して以来、男爵領に密入国が増えた。その結果、治安が悪化した。ただでさえ経済破綻寸前の男爵領に難民を受け入れる余裕はない。働きもしない者に無駄飯を食わせるだけ無駄だ。執事の提案もあるが、隣国から逃れてきた難民を他国に連れて行く仲介をすることにした。この政策を大当たりで、破綻寸前の領を何とか持ち直すことに成功した。今では隣国にワザワザ出向いて連れてくる領民まで出てきた。
荷馬車がみえなくなった。
「恨んでくれるな。私達も生きなければならないんだ」
言い訳だと分かっていても口からでてしまう。普段はこんな事はないのだが、何故だろう。今日の荷馬車に乗った者達に懐かしさを感じたせいだろうか?
「旦那様、風が出て参りました。中にお入りください」
「ああ……」
「何か気になる事でも?」
「いや大した事ではないが……。今日の商品が何処かで見た気がしたんだ。隣国の貴族達は末端まで私刑されて誰も残っていないと聞いている。そのため知り合いなどいない筈なのに……不思議だ」
「…………すから」
「ん? 何か言ったか?」
「……貴族ではなく商人の可能性もあるのではないか、と思ったものですから」
「商人……そうかもしれないな」
きっと、元は羽振りの良い商人か何かだったのだろう。あれほど気になった彼らの事は、夕食を食べ終わると同時に頭から消えていた。
執事が最初に言った言葉。
それを思い出すのはそれから暫くしてからのこと。
私と男爵領の終わりの時だった。
――血は水よりも濃しと申しますから――
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