悪役令嬢の私は死にました

つくも茄子

文字の大きさ
15 / 85
本編

15.商人の息子視点3

しおりを挟む

 エバは「王命」で廃嫡され無一文となった元王太子との婚姻を命じられた。
 何故か嫌がった彼女だったが新しい男爵となった兄には逆らえなかったようだ。最も、逆らえば反逆罪で即死刑だ。

 結局、エバはキュリー男爵領に護送されてきた元王太子と結婚した。それ以外に方法はない。男爵家が国王に逆らえる力など有るはずもない。新男爵が用意した小さな一軒家。それなりの広さの農地付きという破格の扱いだ。

「一応、元王太子を婿にしたんだ。それなりの扱いをしなければならなかったんだろうよ」

 珍しく煙草を吸いながら顔を顰めている父親の発言は少し疑問に思った。

「使用人はいないと聞いたけど?」

「そりゃそうだ。働くこともできないんだ。使用人を雇う必要性はないと判断したんだろう」

「王家は許可してるのか?」

「廃嫡した元王太子に価値なんかあるものか!」

 流石にそれは言い過ぎじゃあないか?
 仮にも王族だ。もう違うけど。でも考えようによっては使い道はある。

「元王太子でも王家に血を持ってんだ。子供でもできたら……」

「ジャン……お前意外に青かったんだな」

「は?」

「王家や貴族がそんな甘いものか!とっくに子供ができないように処置されているはずだ」

「……え?」

「なんだ、その顔は。まさかと思うが、エバと元王太子に子供ができたら男爵家にとっても貴種を得られた何て考えているんじゃないだろうな」

 考えてました。
 思ってました。
 だって腐っても王族。
 その血は本物だ。
 歴史を紐解けば亡国の王族の貴種を取り込んで成功した例は枚挙に暇がない。
 
「もし、仮にだが。万が一にも、エバと元王太子の間に子供が生まれたとするぞ。それが男子であればどうなるかわかるか?」
 
「……王子が生まれる?」

「阿呆か! 廃嫡されて平民になった男の子供だぞ!? 処刑されるのが落ちだ」
 
「……」
 
「女児であっても同じことだ。貴族共の思惑もある。元王太子の血を継ぐ子供を王家に迎えたいと考える連中もいるだろう。そうすると、エバとその子供が邪魔になるわけだ。結果、殺される運命にある」
 
「……嘘だろ?」
 
「まぁそういう可能性が高いって話だ。いいか、王族や貴族を甘く考えるな。彼らを本気で怒らせたら俺達平民何て直ぐに消されちまう。どんなに下の貴族でも不祥事を起こした身内に掛ける情けなどないって反応をする。薄情だと思うか?思うならそうなのかもしれないな。ただ俺はそうは思わん。俺だって商人だ。店と従業員を守る気持ちはある。規模は小さいがそういうことだ」

 そう言って父親は自嘲気味に笑った。
 
「だからエバのことはあまり気に病むな。あの子は元々頭のネジが外れた奴だった。それが今回の件で完全に外れてしまったんだ。同情する必要はない。むしろ不幸中の幸いだったんだよ」

 父親の言葉を聞きながら俺は頷く事しかできなかった。


 三年後、俺は結婚した。
 相手は母親の紹介だ。
 エバの時と違って本家本元の貴族令嬢。ただし没落寸前の貧乏貴族ってオチ付きだ。
 家を援助するという条件での結婚。
 ああ、ついに事になったか。と思った。

 母曰く「よりはいいでしょう?」だそうだ。
 確かにそうだ。

 エバほどの美貌ではないものの彼女にはない気品があった。所作が上品だ。一級品の女は見かけだけじゃないことを実感した瞬間だった。


 

しおりを挟む
感想 126

あなたにおすすめの小説

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?

雨雲レーダー
恋愛
侯爵令嬢クラリスは、王太子ユリウスから一方的に婚約破棄を告げられる。 理由は、平民の美少女リナリアに心を奪われたから。 クラリスはただ微笑み、こう返す。 「そんなに好きなら、そっちへ行けば?」 そうして物語は終わる……はずだった。 けれど、ここからすべてが狂い始める。 *完結まで予約投稿済みです。 *1日3回更新(7時・12時・18時)

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

処理中です...