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35 新たなる装備、新たなる都市

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村を出てから以降、馬車は軽い駆け足程の速度を保ち
移動は極めて快調・快適である
それは人の手が加えられている為か
又は定期的な人の往来による為か
ある程度整地された地面が続いていた為だ

加えて魔物の襲撃も無い事も幸いした

寧ろ王都から脱出した後、遺跡を目指し
道なき道を進んだ事がイレギュラーであり
本来この世界で旅人が使う移動経路とは
こういう物なのかもしれない

等と馬車正面で御者...のふりを
しているゼロスが考えていると

「ゼロス、ちょっといいかしら?」

後ろの荷台から声が掛かる
周囲に他の人影も無い、大丈夫だろう、と
そのまま御者のふりを辞め荷台へ移る
馬車はそれまでと変わらず前進を続ける

「どうした」

「貴方の脳領域について解析を進めていたのだけど
 この前の圧縮処置で空けた容量に
 どうやら余剰分がありそうなのよ」

「なら他のプログラムや、武装プロトコルもダウンロード出来るか?」

「殆ど無理ね、そこまで大きな余裕じゃないわ
 でも小容量の外部兵装...そうね、これとか」

「受信した」

そういうとゼロスはおもむろに正面に右手を翳すと
何も無い空間から本来の装甲鎧と同じ色の
反り持つ剣を引き抜いた

剣に鍔は無く、その細見の柄には
ややごつい厚みの鞘に納められている
鞘の形状はやや機械染みたフォルムにはなっているが
それ程異常と見られる様な奇抜な物ではない

「わわっ!それって...刀の神機ですか?!」

「あら、セルヴィちゃん刀を知ってるの?」

「はい、北の帝国で作られている魔具武装に
 それとよく似た雰囲気の反りの入った刃の剣があって
 それを刀と呼んでいました!」

「ふぅん、人間同じ様な物を考える物、ね
 これは【クサナギ】ガーディアンズ、ゼロスの為に作られた刀よ」

「ふぁあ...凄いです!
 あ、あの見せて貰ってもいいですかっ?!」

セルヴィの瞳が無邪気に好奇心に輝く

「ああ、少し重い、気を付けろ」

そう言うとその刀の鞘を中ほどで握り
セルヴィに差し出した

「うわっ!ほんとですね...同じ大きさの刀剣と比べて2倍、いや3倍...
 重量は6㎏近くはありそうですね...この鞘のでっぱりは...
 これは排気口?ふむふむ!これはっ!」

魔技師としての性分に火が付いた様で
食い入るように細部の隅々まで見渡し
自分の世界に入っていく

「今までの様にフィールドを纏っての肉弾戦じゃ
 エネルギー効率が悪すぎるわ
 クサナギがあればかなり戦闘は楽になるはずよ
 それにクサナギはLG用兵装でもあるし、ね?」

「ああ、助かる」

「それに今、強制圧縮の影響で脳内に産まれた
 断片的な情報も逐次最適化中よ
 それが終われば、もう少し余裕が出来るかもしれないわ」

「そうか、引き続き頼む
 戦力は大きいに越した事はない」

夢中になるセルヴィを後目に、淡々を話を続ける二人

「あのー、これ鞘から抜けないんですけど、
 どうやったら抜けるんですか?」

刀の柄と鞘を両手に持ち、
ふんぬー!と何度かトライしていた彼女がゼロスに問う

「それは認識コードでロックされている
 俺しか抜く事は出来ん」

と手に取ったその時

ガタッ

突如馬車が止まった、プロメが停止させた

「どうした」

「前方に正体不明の生物...?魔物、と思われるわ」

前を見据えながら答える
彼女にしては珍しく歯切れが悪い

馬車の正面を覗くと、道の先には
何やら切り株の根に足を生やし
マスコット化したかの様な丸々としたフォルムの
魔物?らしき物が3体ピョンピョン跳ねていた

「何だあれは...」

「あれはウッドゴーレムです!
 何処にでも居る魔物で、木の塊でとても固く
 人を襲う事も無く無害なので、基本的には放置されています」

「無害ねぇ、でも道塞いじゃってるわね...」

「丁度いい、動作確認をさせて貰う」

そう言うとゼロスが馬車から飛び出し
凄まじい速さで3体のウッドゴーレムへと駆けて行く

「ウッドゴーレムは硬い繊維質で斬撃はっ!」

馬車からセルヴィが叫ぶが、彼はもう止まらない
そしてクサナギの鞘の元付近を左手で持ち腰元に当てると
右手で柄を掴み、接近と同時に一気に引き抜き、振り抜いた

抜刀され振り抜かれた刀身は、斬撃の軌道に翠色の残光を残し
ウッドゴーレム達を次々とすり抜けて行く
本の僅かな間の後、3体の魔物は胴から鮮やかな切り口を残し
上下に分かれその場に崩れ落ちた

その刀身は柄・鞘同様漆黒の刃であったが
そこには波紋の代わりに鮮やかな翠の輝きが
無数に走っていた、先程の残光はこの光による物だ

まるで刀身自体がその更に内側にある翠光の刃を
包み込んでいるかの様にも見える、そして

ヒュッ

ゼロスは僅かな風を切る音共に
刀を横に一度振りぬくと、ゆっくりと鞘へと戻した

「で、ですよねー!」

馬車から身を乗り出したセルヴィが
若干引きつった笑みを浮かべている
そう、彼はエンシェントだ、それも最強の

かくして一行は、その後も特に何の障害も無く・・・・・・
一路順調に遺跡都市バルザックを目指す

その後も良好な状態の道が続き、スピードは速く
翌日の夕刻前には、都市が見える程の所まで到着する事が出来た

「思ったより早かったわね」

前方には薄っすらと都市の外縁と見られる石壁が見えてくる
防壁は3m程の石造りで、運動神経の良い物であれば
そのまま飛び越える事も出来そうである

恐らくその防壁は対人間では、無く対魔物を想定した物なのだろう
確かに先程ウッドゴーレムの様な魔物であれば十分だ

徐々に近づくにつれ、防壁の外側、都市の外縁の更に外側に
農作地帯が広がっているのが目に入ってきた
農作作業に従事する者も何名か見受けられる事から
それ程差し迫った魔物の脅威、と言った物は無いようである

道の舗装状態が更に良好になり
左右に畑が広がり道の両脇を木製の柵が囲う様になった頃

「あ、ちょっと待ってもらえますか!」

セルヴィが停止を呼びかけ、馬車を止めると
荷台から飛び居り畑の方に掛けて行った

二人も何事かと馬車を降り、彼女の良く先を見つめると
農作業に従事していたとみられる中年の女性が
大き目の魔具、と見られる機械の前で立ち往生していた
形状から察するに耕作機の類の様だ

駆け寄ったセルヴィは、その女性と幾つか言葉を交わすと
耕作機の魔具を弄り始めた
恐らく耕作機が故障して困っていた女性を
技師として放って置けなかったのだろう

二人もゆっくり畑へと足を踏み入れる
ゼロス、プロメ両名がセルヴィの元に到着するとほぼ同時に
彼女が機械に突っ込んでいた頭を上げる

「出来ましたっ!始動させてみて下さい」

「本当かい?!」

女性が驚きつつも嬉しそうに耕作機のハンドルに手を触れると

ヴヴヴヴヴヴ

耕作機の動力が大きな音を上げて作動を開始する
それを確認した女性は一度動力を落とし

「お嬢ちゃんそんな若いのに大したもんだね!
 いやぁ本当に助かったわ!ありがとうね!」

「いえ!簡単な故障ですから全然大した事ないですよ」

無邪気な笑顔で答える

「所であんた達は、難民って感じじゃなさそうね
 冒険者の人達かい?」

既にこの都市にも王都からの難民が多く訪れているのだろう
が、すぐに3人の出で立ちを見てそうでは無いと判断した様だ

「そんな所ですわ」

セルヴィが口を開こうとした時、先にプロメが答えた
この場合正確な状況説明は
返って混乱を招くと判断したのだろう

「そうかい、なら悪い事はいわん
 他の都市で仕事探した方がええよ
 この町はゴロツキのたまり場だから
 あんたら見たいな良い人には向かん街さ」

女性はまるで嫌な物を見る様な目で町の方を見やる

「私の一家はね、この街に爺様の代にやってきたんだ
 その時はここに新たな遺跡が見つかったって言うんで
 遺跡探査の為に、街づくりを国が主導で移住を推奨、支援したのさ
 
 皆ここが新たなる新天地だと思って食いついたんだが
 良かったのは最初だけ、すぐにここの遺跡から出る遺物何か
 神機モドキばっかりで何の価値も無いって事が分かってね

 そして今やここはもう離れるに離れられなくなった貧乏人と
 荒くれどもの掃きだめ、それをかぎつけてやってきた
 犯罪者だらけの3級遺跡都市さね」

「そうだったんですか...」

「そうさ、だから悪い事は言わないよ
 早くこの町から出た方が良い
 特に西地区はスラムになってるから
 お嬢ちゃんみたいな子は絶対近付いちゃだめだよ?
 東地区は比較的治安が良いから
 もし宿を探すならそっちにおし、宿自体も多いからね」


「はい!分かりました、ご親切にありがとうございます!」

「なぁに、礼を言うのはこっちさね
 あんたらに幸運がある事を願ってるよ」

そういうと女性は耕作機を作動させ、農作業に戻った

一行は再び馬車に戻り、町へと進むと
都市への入り口には巨大な木製の
跳ね橋状の門が添えられており
開いた状態となっている

横に見張りらしき簡易な防具と槍を持った者が見えるが
通過する際何かを確認されるかと思ったが
何度か目が合う程度で呼び止められる事は無かった

彼の役割は人の出入りでは無く
魔物の見張りなのかもしれない

そして一行は都市内へと入ってゆく
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