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56 宿の亭主の頼み

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赤毛の少女が朝食の勢いで昼食まで平らげた後
セルヴィと共に街に必要な物資の買い出しに出かけた
やはり年代の近い同性の方が落ち着く様に見える

今後彼女がこの世界で生き抜く為に必要な知識も
この時代の者であるセルヴィから多く得れる事も有るだろう

またセルヴィ自身も、良い気分転換に成るのではないだろうか
万全の状態の彼女が一緒であれば、もう早々遅れは取るまい

一人ゼロスが宿1階の食堂の席に、何をする訳でも無く腰を掛ける
すると二人を見送ったであろうプロメがそのまま宿入口から
ゼロスの元へと歩み寄る

「さて、これからどうする?
 当初この街に来た目的は達した訳だけれども」

元々このバルザックには遺跡調査と
今後の活動の為に冒険者登録をする
この2点の目的の為訪れていたが、既にそれは達成されている

「引き続き、他の遺跡調査が現時点の目標に成が
 セルヴィには休息が必要だろう
 加えて関係も良好の様だ、ヴァレラという少女にも
 彼女を通じてこの時代の事に慣れさせるのも良いだろう
 まだ一週間程はこの都市に滞在しようと考えて居る」

「お優しいことで」

「現状、特に急ぐ理由は無いだろう
 だが一つ気に成るのは東京ゲートの
 コードΩから逃れた他のアデスが居ないかどうか、だ」

「基本的にアデスは群れで行動するわ
 恐らくこの地域の群体はあれで全部のはずよ
 個で活動する希少種の存在は否定できないけどね
 ただ何にせよ、衛星監視網が機能していない今
 こちらからあても無く探すのは非現実的ね」

「その通りだ、もしアデスが出現した場合
 この時代ならインファント級1体でも十分過ぎる脅威だ
 すぐに大きな話題にとなる筈だ
 その際、この時代の情報網の中で特に
 冒険者ギルドからの情報が早いだろう」

「なるほど、ね
 でもそうすると、どうしてもある程度の
 被害が出てからになるけど?」

「被害に会う者には気の毒だが、許容するしかないだろう
 対策のしようがない以上、現状他に手が無い
 楽観視は出来ないが、どれだけ多く見積もっても
 俺達が対処に向かうまでの間に
 人類が滅びてしまう規模の数は居ないはずだ」

「そう、安心したわ
 自分の本分は見失ってない様ね
 けれどあなたは自分のすべき事を分っていて尚
 過去何度もそれに反する行動を取ってきた
 そこはくれぐれも気を付けて欲しいわね
 もう...ガーディアンズは貴方しかいないのよ?」

「すまん、善処する」

「まったく、どこまで本当に反省している事やら」

プロメが大げさに両手の平を上に向け
大きくため息を漏らし首をゆっくり横に振る

「あ、あのぅ...」

その時だった、話が途切れるのを見計らってか
厨房から亭主の老人男性が声をかけて来た

「あら、どうしました?」

プロメがすぐに対外的口調に切り替える

「すみませんのぅ、盗み聞きする訳じゃなかったんじゃが
 お客さん方が暫くこちらに滞在される
 と言うお話が聞こえてましてな
 先日のお連れ様方も拝見させていただく限り
 お客さん方は相当腕の立つ冒険者様方とお見受け致しました...」

「何かあったのか?」

「はいですじゃ...
 私達夫婦はこの都市から西に30㎞程、馬車で数時間程の
 寂れた鉱山村の出身なのですが...
 最近、鉱山で働いて居た者や
 村人が姿を消すという事件が続いておりますのじゃ
 鉱山に仲間を探しに行った者も返って来ませんでした...

 村では鉱山に正体不明の魔物が住み着いたという噂で
 しかし役所は死体の一つでも持って来いと、と取り合ってはくれませぬ
 お恥ずかしながら冒険者ギルドに調査を依頼する資金も
 貧しい村ですので、私共も見ての通り
 当宿もお客様方以外の宿泊者は居りません
 
 こんな事を突然あげて失礼極まり無いのは百も承知ですじゃ
 どうか、どうか鉱山の中を一回り見るだけでも
 お力を貸していただけないでしょうか...」

「気の毒だとは思うけど、それは少々虫の良い話ではなくて?」

「は、はい、すみませぬ...
 私達に出来る事であれば...この先1月分の宿のお代は結構です
 食事も特に腕に寄りを掛けた物を精いっぱい用意させて頂きます
 ですのでどうかっ!」

老亭主が腕を組み懇願する

「あんたっ!!お客様に何て失礼な事をっ!
 亭主がすみません、どうかご勘弁下さい!」

亭主の夫人がその様子に気付き慌てた様な食堂に駆け込み
ゼロス達に何度も頭を下げる

「じゃ、じゃが、ついに甥のハルスまで姿を消したんじゃぞ!」

この宿に宿泊して数日、清掃や食事の丁寧であり
愛想についても非常に良かった
老亭主も普段は不躾な事を言う様な者では無い
それ程彼らの中では事態は切迫しているという事だろう

「分かった、道案内は頼めるか?」

「っ!本当ですかっ!?も、勿論でございます!」

その様子にプロメも諦めたように口元に笑みを浮かべ

「そうね、もしも未知の魔物とやらが
 私達の探している奴かもしれないし、ね」

「そうことだ、報酬は不要だ
 今まで通り宿代も払おう
 出発は彼女等が戻り、用意を整えてから
 明日の早朝からになるが良いか?」

「ありがとうございますっ!!ありがとうございます!!」

老夫婦が共に何度も頭を下げる

後、セルヴィ達が戻り
そのあらましを伝えると
セルヴィは間髪入れず同行を快諾した

ヴァレラには不在の間、待つ必要は無い
自由にしていいと告げると、何とも言えぬ表情を浮かべ
自室へとそそくさと上がって行ってしまった

だが夕食の時間には素直に合流し、その細身の体の
何処にそれ程入るのかという量を平らげて行く
その日の夕食は更にいつもより数品多く
亭主が腕によりをかけて用意した事が伺える

そして食後、各々は解散し何事も無いまま夜は更けて行った
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