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76 強まる確信

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「じゃみんぐ...?」

困惑したセルヴィがゼロスの発した言葉に疑問を投げかける

「通信妨害の事よ、あいつプロメの本体は空の上の船だから
 普段から目に見えない通信を常に続けているのよ
 でも今、それが何かの力によって妨害されている様ね、」

既にヴァレラの時代には共通する概念があったのか
セルヴィにも分かるように話してくれた

「な、なるほどです!
 プロメさん...大丈夫でしょうか...」

セルヴィは心配そうにその影響を受けているプロメを見つめる

『スーツ...エネルギー...供給...要請
 防護…ルドの使用…信…許可…』

途切れ途切れになる通信ラジオの音声の様にプロメが言葉を発する

「許可する、すぐに実行しろ」

断片的な言葉から意図を理解したのか
それとも何らかの別の方法で伝達されていたのか
ゼロスが承諾の意を示す

するとプロメの姿が一度白く輝いたかと思うと
再び元の姿を取り戻し、ゆっくりと閉じられた瞳を開ける

「LG03よりスーツエネルギー供給を確認
 通信信号強度の増幅、及び
 周囲の電磁障害に対するエネルギー防壁の展開完了
 状況回復を確認...ふぅ、心配させたわね」

セルヴィが安堵の表情を浮かべる

「状況は、」

ゼロスが元に戻ったプロメに確認する

「強力な電磁障害を感知、
 恐らく発生源はあの都市の遺跡と思われるわ」

「そ、それってマグナさんが言っていった
 通信魔具がバセリアじゃ使えない、という特殊な力ですか?」

「そうね、でもこれはただの通信障害程度じゃない、
 高度な電子機器の機能に影響を与えるほどの電磁放射
 EMPと呼ばれる物ね...
 ヴァレラちゃん、あなたのバイザーはどう?」

「え?ちょっと待ってね、」

ヴァレラが聞かれ、急ぎ目元に装着したバイザーの
こめかみ部分に触れてみせる

「ありゃー...こっちもダメね、表示がバグってるわ」

バイザーに表示される情報を確認してヴァレラが呟くと
意味が無いと察したのか、目元から外して魔法陣の中に放り込んだ

「やっぱりね...電子機器を破壊する程ではないけれど
 高度な演算処理の伴う機器なんかは影響を受けるレベルね
 広範囲識別センサー、電子レーダーの類も使用不能だわ」

「俺の体に影響はあるか?」

「大丈夫、防護フィールドを展開していれば
 通常のドローンでも影響を防げる程度の出力だから、
 もしあなたの体に影響を与える程であれば
 人間が生きていられないほどの電磁放射になるわね、心配要らないわ
 中に組み込まれてる感知系の音紋、熱源センサーは問題無く機能するはずよ」

「...確認した。」

僅かな間の後、ゼロスが答える

「どうしましょう...一旦引き返しますか?」

プロメや皆が持つ装備に影響を与えている事象を理解し
セルヴィがどうすべきか尋ねる

「そうね、対策を講じれば私はなんとかなるけれど
 一部とはいえ、センサー類に影響がある
 加えてこちらにエネルギー供給をし続ける限り
 ゼロスの能力は制限を受ける
 あなたの判断に任せるわ」

皆の視線がゼロスに集まる

「いや、このまま進もう
 時間の経過で解決するような事象でも無いだろう
 制限は受けるが、
 それは何よりこの遺跡が有力な情報源になり得る証拠だ
 調査を優先する価値はあると判断する」

「了解、異論は無いわ」

「勿論私もゼロスさんに賛成です!」

プロメ、セルヴィがゼロスの意見に賛同する

「うん、武装のほうは問題なく動作しそうね
 私も問題ないと思うわ」

遅れて、先ほどから装着する装備類を一通り
確認していたヴァレラも賛同する

一向はそのまま都市入り口へと馬車を進め
入国待ちの列の最後尾へと着ける

そこには沢山の荷馬車や徒歩による旅人が長蛇の列を作る

「ちょっと確認してきますね!」

そう言うとセルヴィが荷台から飛び降り
前の馬車へとかけていく
そして御者をしている男といくつか会話を交わすと
再び戻ってきた

「えっと、この先の関所で身分証の確認を求められるらしいです
 身分証には交易証や政府機関が発行した通行証や
 冒険者はそのまま、冒険者証を提示すれば大丈夫みたいなんですが...」

少しばつが悪そうにちらにろヴァレラのほうに目を向け

「身分を証明できない者は、金貨5枚を支払った上で
 短期滞在のビザ申請、審査の上で
 簡易身分証の作成をしなければならないそうです...」

セルヴィが悪い訳ではないのだが、申し訳なさそうに語る

「なるほどね、ヴァレラちゃんのバイザーが機能してれば
 こちらで解析した翻訳ソフトを入れれば
 なんとか表示できたかもしれないけど
 読み書きは厳しそうね、」

全く異なる時代のハードやソフトの互換性の問題が、
と言い掛けたヴァレラだったが
そんなものは多分プロメ達の技術からすれば
なんの問題にもならないのだろう、と言葉にする事をやめる

「この世界では識字率はそこまで高くない様だ
 読み書きできる者の同伴は許してもらえるだろう」

この時代の手続き関係について、ギルドで登録した際の事を
振り返り、問題が無いであろう事をゼロスが告げる

他人に頼りきりになるのを好ましく思わないヴァレラだったが
この時ばかりは他に打てる手が無い、複雑な表情を浮かべながら
荷台から顔をのぞかせ、遥か高くそびえる外壁を見上げる

「危ない事しちゃダメよ?意地はらないの、」

その行動から何を考えているのか察したように
プロメが注意を促すと
ヴァレラは渋々了承の返事を返し、再び腰をかける

そんな時、入国待ちの列の外から
列を眺めていた一人の旅人風のターバンを被った男が
ゼロスの姿に目を留めると、まっすぐこちらに駆け寄ってきた

「あ、あのっ!ゼロス様ご一行様でおられますかっ?」

「そうだが、あなたは?」

男はゼロスの名を口にする

「はっ!私はゼロ村からバルザックへ伝言を言付かった者に御座います!
 あなた方のご用件、確かに届けさせて頂きました!勿論宿の件も!」

「そうか、感謝する」

「いえいえ、とんでも御座いません
 アレスより伺っております、
 村でのご恩に比べたらこの程度!
 そしてギルド長のガルム様より預かり物が御座います!」

男が懐から布袋を取り出し手渡してきた

「これは...」

受け取ると中には更に小さな布袋に入った金貨20枚
それと冒険者証が、一つ
ガルムから提示された依頼の報酬だった

「何か伝言はあるか?」

「いえ、ただこれを皆様にお渡しするようにとだけ...」

冒険者証を開き確認すると、そこには
ヴァレラの名と、それらしい内容を示す情報と共に
冒険者等級Cを示す刻印が施されていた
色々と手を回してくれたようだ
なんだかんだ面倒見の良い男である
言葉なくとも、自然とガルムの表情が頭に浮かぶ

一通り確認を終え、手帳をヴァレラに手渡すと
すぐに中身を確認し、驚きの表情を浮かべるが
彼女も事情を察したのだろう、どこかはにかんだ顔で
腰の小物入れへと冒険者証をしまい込む

「私達が出発した後に、村からバルザックに行って
 ここまで来たんですか!?...だ、大丈夫ですか?」

それは馬車での移動でも一週間ほどを要する工程であった
自分達が4日かけバセリアに移動する間に
ほぼその倍近い距離を男は移動してきたことになる事を心配し
セルヴィが男に声をかける

「はい、お心使い感謝致します!
 ですがご心配には及びません、私は伝令業を行う者
 見ての通り、足には自信がありますので!」

男がそっとズボンのすそをめくって見せると
そこには文字通り、カモシカのような腿足が除いていた

走ることに関しては常人を遥かに凌ぐ
能力を有する亜人なのだろう

「な、なるほどです!
 でもあまり無理はしないで下さいね」

「ありがとう御座います!
 では私はこの事をまた、村に伝えに参ります故
 これにてっ!皆様のご武運を願っております!」

そういうと男は一行に深く礼をし
駆け足でゼロス達がやってきた道へと駆け足で駆けていった

「何はともあれ、ベストタイミングね、
 良かったわね、これで壁をよじ登らなくても済みそうよ?」

「ヴァレラさんそんな事考えてたんですか!?」

「ま、まだするなんて言ってないでしょ!」

そして列は順調に進み、いよいよ一行の番になると
所定の位置で全員下車、身分証の提示を求められ
馬車内の簡単な検閲が行われた

元々セルヴィ以外、荷物の携行を必要としない一行の馬車には
食料や簡単な日用品程度しか積載物は無く
数分とかからずに検査は終わる事となった

また、冒険者証はこの世界では
証明証としてはかなりの比重を持っている様で
殆ど一瞥されるだけで全員パスを告げられる

一つ前に並んでいた、商人の一団は
通行申請書に記述が不備があるとかで、
非常に長く時間を取られていた

恐らくガルムは一行がバセリア王都を目指すと聞き
これを見越して急ぎヴァレラの冒険者証を届けてくれたのだろう
セルヴィ達は改めて頭が下がる思いだった

そして関所の門を潜ると途端、辺りは一変する
綺麗な街並みが視界を埋め尽くし
街道には上級な石畳が敷き詰められ、その上を多くの人が行き交う
まだ灯りは灯って居ないが各所には街灯も設置されており
都市の植物にまで手が加えられ整えられている
テストラ王国を彷彿とさせる非常に栄えた様子が伺えた
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