【R18】「真実の愛を引き裂く悪役令嬢」と呼ばれているのに、一途な王太子殿下から執着溺愛されています!?

瀬月 ゆな

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反撃

金の刺繍

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 アレクシスのエスコートで教会に向かうと、すでに参列している貴族たちからの注目を一斉に集めることとなった。
 反応としては好意的な様子が多いように見えるけれど、中には噂や書籍、歌劇などでセレスティアナの印象を悪くしている人物もいるように見受けられる。

 セレスティアナとアレクシスの元へ一人の青年が近づいて来るのが見えた。

「やあ。アレクシス、ティアナ」
「ごきげんよう、ハイネル様」

 ハイネルだ。
 セレスティアナは普段と同じように淑女の礼をしたものの、正直に言うと非常に顔を合わせにくかった。

「先日は本当に申し訳ございませんでした。わたくしが短慮だったばかりに巻き込んでしまって」
「例の件?」
「はい」

 ハイネルが気を利かせて対応してくれたことに安堵する。
 令嬢だけのお茶会ですら、セレスティアナの一挙手一投足は注目されていたのに、今はアレクシスもいるのだからなおさらだ。そんな場でアレクシスとの婚約を解消する協力を得に行ったと口にされていたら、それこそアレクシスが望まない〝面倒な事態〟になっていただろう。自分がいかに短絡的に行動していたのか、改めて自省する。

「ティアナが従兄殿・・・に相談に行ったようだけれど、ご配慮いただかなくても今の僕とティアナはあらぬ噂を払拭できるほどの……流行りの言葉を借りるなら真実の愛で結ばれているからね」
「所詮、噂は噂にすぎないということか」
「どんな噂を流されているかは知らないが、そういうことだね」

 アレクシスはセレスティアナの肩を優しく抱いた。ミーナに心変わりなどしていないとアピールする行動に、どこからともなく黄色い悲鳴があがる。聞き覚えのある声のような気がしたから、セレスティアナの親しい友人たちかもしれない。

「あっ、いたわ! アレクシス様!」

 明るい声が場に響き、小気味よくヒールの音を立てて駆け寄って来る。もちろんと言うべきか今日もクロエが一緒だ。

 教会に現れたミーナの姿に、場は騒然となった。
 淡いピンクのドレスには、あろうことか金の刺繍で縁取りが入っている。この国でたった二人、王妃と王太子妃が纏うドレスにのみ許されたデザインを、アレクシスの婚約者でもないミーナが着ているのだ。

「ミーナ様……そちらのドレスは」
「アレクシス様、約束通りドレスを贈ってくれてありがとうございます。ミーナに似合っているかしら?」

 セレスティアナの問いかけが聞こえなかったのか、聞こえていないふりをしたのか、ミーナは笑顔でアレクシスに話しかけた。そしてセレスティアナが表情を沈ませると、今気がついたかのように向き直った。

「こんにちは、セレスティアナ様。ね、ミーナ言ったでしょう? アレクシス様がミーナにドレスを贈ってくれるってお手紙に書いてあったって」

 金の刺繍で縁取りがされたドレスをミーナが着ている理由として考えられるのは二つだ。
 アレクシスがセレスティアナの為に仕立てるドレスだと思い込まされていたか。
 ミーナの為のドレスと知りながらも、仕立てたものか。
 ドレスを一着作るにも相応の手間がかかる。そんな簡単に用意できるものではない。最初から式典に合わせた、計画的な行動だと思わせるには十分だった。

「アルテリア伯爵令嬢」
「何ですか、アレクシス様!」

 アレクシスに話しかけられてミーナは嬉々として顔を向けた。

「僕は最愛の婚約者であるティアナ以外の令嬢に、ドレスはおろか手紙すら送ったことはたったの一度もない。残念だが、そのドレスの贈り主も僕ではないということだ。礼なら真の贈り主を見つけ出して言うと良い」
「そんなの嘘です。ミーナはこれまでに何度もアレクシス様からのお手紙ももらってます」
「何を根拠に嘘だと思っているかは知らないが、僕自身が送ってないと言っているんだ」

 アレクシスの冷ややかな表情と声に押されたらしいミーナが鋭く息を呑んだ。無責任に囁き合っていた周囲の声も一斉に止む。

「我が国で今、金の刺繍で縁取りされたドレスを纏うことが許されているのは王妃と、僕の婚約者のティアナだけだ。アルテリア伯爵令嬢には許されてはいない。せっかくの式典を中止したくなければ別のドレスに着替えた方が身の為だ」
「まあまあ、アレクシス」

 アレクシスの剣呑な言葉で冷えて行く空気を和らげようと、ハイネルが穏やかな口調で声をかけた。

「何か手違いがあったんだろう。金の刺繡は特に華やかだからな。大舞台で着たくなるのも無理はない」
「その程度の理由で身に纏ってもいいドレスじゃないことなど、ハイネルも分かっているだろう。黙っていてくれ」

 もちろんハイネルが場を収めるべく口にした提案も、アレクシスが受け入れるはずもない。取りつく島もない従弟の反応にハイネルも苦笑しながらどうしたものかと肩をすくませた。

「――着替えるべきなのはミーナ様ではなく、セレスティアナ様の方ではありませんか?」

 それまで押し黙っていたクロエがおもむろに口を開く。

「どういう意味だ」

 クロエはアレクシスの視線を怯んだ様子で受け止めつつ、言葉を続けた。

「何の力もないのに王太子殿下の婚約者となり、繋ぎ止めるだけで恥ずかしくはないのでしょうか」

 今までクロエはセレスティアナに直接、何かを言って来ることはなかった。常に遠い場所から聞こえよがしな嫌味や陰口を言うだけだ。ましてや、アレクシスの前ではっきりと弾劾するような発言をするのは何故なのか。
 心臓が早鐘を打ちはじめる。そんなセレスティアナを見てとると、クロエは今まさに大鎌を振り下ろす死神さながらの酷薄な笑みで唇を歪めた。

 そして、高らかに声を張り上げる。

「恐れながら改めて申し上げます。セレスティアナ・ウォルタスタン公爵令嬢が醜い嫉妬心で、殿下と親しくしていらっしゃるミーナ・アルテリア伯爵令嬢を階段から突き落とすのを見ておりましたわ!」

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