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それから辺境に辿り着いたわけだが……。
「馬鹿っ! それじゃないって言ってるだろ」
「えっとこの組み方どうするんだっけ?」
「配置これであってる??」
「聖女様の服、洗濯日間違えたーー」
神官服を身に纏った子供達が教会で右往左往していた。
神官は一人だけとの話だったので、ここにいる彼らは皆、神官見習いなのだろう。
教会の規模を考えると多い気もするが、地方の教会は孤児院も兼ねている。そのまま神官や聖女になる子もいれば他の職につく子もいる。神官になって王都に来た同僚だっているので、特別この教会がイレギュラーという訳ではない。
てんやわんや状態の彼らだったが、リヒターの顔を見つけると「あーーーーーー!」と大声を上げた。
「王都の神官さん! ……ですか?」
「はい。臨時で派遣されましたリヒターと申します」
「よろしくお願いします」
少年達は一斉にぺこーっと頭を下げた。
そしてわらわらとリヒターの周りに集まった。
「王都の神官さん、早速教えてもらいたいことがあって」
彼らはメモ帳を持っていて、そこに書かれていることを確認しながら行っているようだ。ここの神官に教えてもらったのだとか。
「分からないことがあったら聞くように言われているんだ。でも聞けば起きてきちゃうから。俺達だけでなんとかしようと思ったんだけど……」
しょぼんと肩を落としながらそう打ち明けてくれた。
だが一人で回していくのだとばかり思っていたリヒターにとって、やる気のある神官見習いが沢山いるのはありがたいことだ。
「順番に説明していきますね」
「あ、敬語はやめてください」
「俺たちまだ見習いで、下っ端だから」
「敬語もあんまり上手くないし」
「分かった。じゃあ説明するから、何か分からないことがあったら遠慮なく聞いてね」
一つ一つ彼らの疑問を解消して、せっせと溜まった仕事を片付けていく。
中でも急務だったのが神紐の準備である。
神官長が作っていた分はすでに使い終わってしまったらしく、頑張って作ろうとしていたのだが挫折してしまったのだとか。
「それなら僕が馬車の中で作った分があるから」
「本当に!?」
「神紐はいくらあっても困らないから。だからひと段落したらみんなも編み方を覚えよう」
「うん!」
元気で純粋で良い子たちばかりだ。恋に敗れた傷は溶けるように癒されていく。
それから寝込んでいる神官長に挨拶して、辺境の代理神官長ライフがスタートした。
「みんな、今日は上半期の神事について勉強しようか」
といっても王都にいた頃とは違い、神官見習いへの教育がメインである。
土地ごとに神事のタイミングは違うので、神官長が作ってくれた通期メモを見つつではあるが、内容は一緒だ。
聖女見習いの子も知っていて損はないと神官見習いの子達と並んで席についている。
今までちゃんとした勉強会を開いたことはなかったようだが、今回の一件で午前中に時間を取るようになったようだ。辺境ヴィクドリィアの聖女であるウェィリアも手伝ってくれた。
「ほらここ足し算間違ってる! この前教えただろ!」
「あれ? 本当だ」
「いいかい? 計算だけはちゃんと出来るようにしておくんだよ。馬鹿だと金をちょろまかされるからね!」
「はーい」
ウェィリアの場合は神官見習い・聖女見習いの勉強というよりも外で生き抜くための勉強がメインだが。
母親のような気持ちなのだろう。
臨時とはいえリヒターも彼らの力になりたくて、夜な夜な大きな紙に神紐の編み方を描いていく。細かいところが分かりづらいからと色も複数使い分けたものを居住スペースに貼り出した。
すると子ども達は空いている時間に普通の紐で練習をするようになった。
「リヒター先生~」
いつからか先生と呼ばれるようになった。慕われていて嬉しいと思う一方で、日に日に彼らにとっての神官長にはなれないのだと自覚させられる。
どんなに受け入れられても。
どんなに楽しいと思っても。
どんなにここにいたいと願っても。
リヒターは先生であり、臨時の神官長だった。
「馬鹿っ! それじゃないって言ってるだろ」
「えっとこの組み方どうするんだっけ?」
「配置これであってる??」
「聖女様の服、洗濯日間違えたーー」
神官服を身に纏った子供達が教会で右往左往していた。
神官は一人だけとの話だったので、ここにいる彼らは皆、神官見習いなのだろう。
教会の規模を考えると多い気もするが、地方の教会は孤児院も兼ねている。そのまま神官や聖女になる子もいれば他の職につく子もいる。神官になって王都に来た同僚だっているので、特別この教会がイレギュラーという訳ではない。
てんやわんや状態の彼らだったが、リヒターの顔を見つけると「あーーーーーー!」と大声を上げた。
「王都の神官さん! ……ですか?」
「はい。臨時で派遣されましたリヒターと申します」
「よろしくお願いします」
少年達は一斉にぺこーっと頭を下げた。
そしてわらわらとリヒターの周りに集まった。
「王都の神官さん、早速教えてもらいたいことがあって」
彼らはメモ帳を持っていて、そこに書かれていることを確認しながら行っているようだ。ここの神官に教えてもらったのだとか。
「分からないことがあったら聞くように言われているんだ。でも聞けば起きてきちゃうから。俺達だけでなんとかしようと思ったんだけど……」
しょぼんと肩を落としながらそう打ち明けてくれた。
だが一人で回していくのだとばかり思っていたリヒターにとって、やる気のある神官見習いが沢山いるのはありがたいことだ。
「順番に説明していきますね」
「あ、敬語はやめてください」
「俺たちまだ見習いで、下っ端だから」
「敬語もあんまり上手くないし」
「分かった。じゃあ説明するから、何か分からないことがあったら遠慮なく聞いてね」
一つ一つ彼らの疑問を解消して、せっせと溜まった仕事を片付けていく。
中でも急務だったのが神紐の準備である。
神官長が作っていた分はすでに使い終わってしまったらしく、頑張って作ろうとしていたのだが挫折してしまったのだとか。
「それなら僕が馬車の中で作った分があるから」
「本当に!?」
「神紐はいくらあっても困らないから。だからひと段落したらみんなも編み方を覚えよう」
「うん!」
元気で純粋で良い子たちばかりだ。恋に敗れた傷は溶けるように癒されていく。
それから寝込んでいる神官長に挨拶して、辺境の代理神官長ライフがスタートした。
「みんな、今日は上半期の神事について勉強しようか」
といっても王都にいた頃とは違い、神官見習いへの教育がメインである。
土地ごとに神事のタイミングは違うので、神官長が作ってくれた通期メモを見つつではあるが、内容は一緒だ。
聖女見習いの子も知っていて損はないと神官見習いの子達と並んで席についている。
今までちゃんとした勉強会を開いたことはなかったようだが、今回の一件で午前中に時間を取るようになったようだ。辺境ヴィクドリィアの聖女であるウェィリアも手伝ってくれた。
「ほらここ足し算間違ってる! この前教えただろ!」
「あれ? 本当だ」
「いいかい? 計算だけはちゃんと出来るようにしておくんだよ。馬鹿だと金をちょろまかされるからね!」
「はーい」
ウェィリアの場合は神官見習い・聖女見習いの勉強というよりも外で生き抜くための勉強がメインだが。
母親のような気持ちなのだろう。
臨時とはいえリヒターも彼らの力になりたくて、夜な夜な大きな紙に神紐の編み方を描いていく。細かいところが分かりづらいからと色も複数使い分けたものを居住スペースに貼り出した。
すると子ども達は空いている時間に普通の紐で練習をするようになった。
「リヒター先生~」
いつからか先生と呼ばれるようになった。慕われていて嬉しいと思う一方で、日に日に彼らにとっての神官長にはなれないのだと自覚させられる。
どんなに受け入れられても。
どんなに楽しいと思っても。
どんなにここにいたいと願っても。
リヒターは先生であり、臨時の神官長だった。
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