ジゼルの錬金飴

斯波/斯波良久

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3章

1.遠方からのお客さん

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「いらっしゃいませぇ~」

 いつものように店番をしていると、見知らぬ男性三人組がやってきた。

 服装からして、おそらく冒険者。
 瞬時に判断できるのは、ジゼルの宿手伝い歴が長いからという訳ではない。上から下までガッツリと装備を着込んでいるのだ。誰でも分かる。

 だが彼らの装備はいずれもこの辺りでは見慣れないものだ。腰に下げた剣の長さは短剣よりもやや長めで、すね当ての素材はなんだろう。

 鱗のある魔物の皮だろうか。
 装備品を作る錬金術師なら分かるのかもしれないが、ジゼルはてんで素人だった。

 あまりじっと見ても悪いと、視線を悟られないうちにすぐに顔をあげる。

「三名様ですか?」
「いや、泊まりに来たんじゃないんだ。ここに錬金術師 ジゼル殿がいると聞いてきたのだが」
「ジゼルは私です」

 錬金飴の購入客だろうか。カウンター下にメモとペンを用意する。

「そうか、君が……。思ったより若いんだな」
「実は私達、冒険者パーティー『野草の食卓』はヴァルヘルム伯爵から依頼を受け、貴殿の錬金飴の購入に来た」
「これが伯爵から預かった手紙と錬金飴の代金だ」
「ありがとうございます。確認させていただきますね」

 受け取ってすぐ、封筒を開いて中身を確認する。

 彼らの宣言通り、送り主はヴァルヘルム伯爵。

 名前は聞いたことがないが、文頭でどこどこの国にある領で~と説明してくれている。

 かの国の公用語はジゼル達が暮らしている国で使われているものとは違うのだが、手紙に書かれているのはジゼルも使っている文字。わざわざこちらの文字で書いてくれたのである。

 用途についても伯爵の家族と親戚、使用人で使うのがメイン。その他に友人にお裾分けするかもしれないので、飴に関しての説明文や注意事項などあれば教えてくれると助かる、と記載されていた。親切な人な上にマメな人だ。

「こんなに遠い国から……。腰痛の錬金飴が五瓶と肩こりが四瓶、疲労回復が七瓶ですね。お代は……はい。きっちり金貨八枚いただきました」

 手紙に記された種類と個数を確認しつつ、手元のメモに記す。

 袋に入ったお金は彼らにも一緒に確認してもらう。あとで入れた額と違うと言われても困る。こういう確認は大事なのだ。

 冒険者達は並んだ金貨の枚数を確認し、コクリと頷いた。おつりは金貨が入っていた袋に入れて返す。

「これだと何日ほどで用意できるだろうか。長くかかるようであれば、我々は他の仕事を受けて待とうと思う。その場合は冒険者ギルドに伝言を残してもらい、後日受け取りに来る形になると思うのだが……」
「本日お渡しできますよ」
「本当か!?」
「はい。いかがなさいますか?」
「もらっていく」
「伯爵にお返事を書くので、そちらもお渡ししていただけますか?」
「もちろんだ。それで、その……私達にも疲労回復の錬金飴を三瓶譲っていただきたい」
「三瓶ですと、金貨一枚と銀貨五枚になります」

 追加の代金もきっちり受け取ってから、隣の部屋に向かう。

 少し量が多いので、種類ごとに並べながら籠に入れる。カウンターへと戻り、案内を見せながら種類ごとの柄の違いの説明をする。

 彼らは疲労回復の錬金飴が入った瓶を胸の前で大事そうに抱えながらコクコクと頷いた。

 そして瓶の数を確認しながら自らのバッグに入れていく。

「ではお手紙を書くので、そちらの椅子でお待ちいただけますか?」
「ああ、分かった」

 カウンター前には椅子がいくつか並んでいる。錬金飴購入者は手紙を持ってくる人も多く、お返事を書くために待ってもらうことも。そんな人達のために最近用意したのだ。

 彼らはそこに並んで腰掛け、早速瓶から錬金飴を取り出した。

「またこの飴が食べられるのか」
「お金、貯めといてよかったな」
「一人一瓶買えるなんて、伯爵様々だよな」

 三人とも声を潜めているようだが、元々声が大きいからか、バッチリとジゼルとたーちゃんの耳にも届いている。

 こういう内緒話は大歓迎だ。
 同じような動作で飴を口に放り込んでいく姿も素直に嬉しい。俯いた顔は思わずニヤけてしまう。

 たーちゃんはそんなジゼルの耳元まで来て、こそっと耳打ちをした。

「じぜるのあめ、すきなんだね」
「うれしいね」
「うん。うれしい」

 内緒話をしながらお返事を書き、一緒に錬金飴の説明が書かれた紙と配達の案内を封筒に入れる。

 封蝋をしてから、案内を一枚手に取った。
 顔を上げると、冒険者の一人と目があった。

「終わったか?」
「はい。あの、よろしければ皆さんもどうぞ」
「配達の案内?」
「俺達の国にいても買えるってことか!」
「はい。送料はお客様にご負担いただく形にはなるのですが……」
「ここまで来る移動費に比べたら安いもんだ。伯爵も喜ぶぞ。すぐ伝えないと」

 彼らは満面の笑みで「ありがとな」と告げ、立ち去ろうとする。
 けれどジゼルには一つだけ気になることがあった。
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