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1部【旅立ち編】 第1章:勇者ができあがるまで

17話:「勇者のできあがり」

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幻獣ヴァルボロスとの一戦に圧倒的大差で勝利した大和
消滅していく奴をただ見つめる
完全に姿が消えるそこにはキラリと光り輝く物があった


「なんだこれ?」


そう言って拾い上げた大和はすぐに
そのアイテムが何なのか理解する
そのアイテムの名は「剛力の強化薬」


その名の通りプレイヤーの
攻撃力の最大ステータス値を上昇させるアイテムだ


先の戦いでの戦利品を
「ひょい」っと空中に投げるとアイテムが消えた
別に消滅したわけではない



タワー・ファイナルにおいて
獲得したアイテムは自動的に
アイテムボックスに収納される



大和がひょいっと投げたのは
そうすればアイテムボックスに
収納されると思ったからだ



そうして戦利品をアイテムボックスにしまうと
持っていた剣を鞘に納める



そしてこちらを見ているであろう
二人の女の子の方に向かって歩いてゆく
遠目でもわかるくらいに
彼女たちの目が点になっているのが分かった


「ふふっ」


そんな光景が可笑おかしかったのか
小さく笑う大和


そして彼女たちの目の前まで到着すると
二人の安否を確認しだした


「二人とも大丈夫?ケガはない?」



「・・・・・」
「・・・・・」



先ほどの戦いが信じられないのか
二人ともまだ固まったままだ


「あー、そのー、もしもーーーし?」



「・・・・」
「・・・・」


仕方ないので軽く二人の頭をコツンと小突く
それにびっくりしたのか二人の体が跳ね上がる
そして二人に話しかける



「終わったよ、二人とも」



「ヤマト様?」
「ヤマトさん?」


ようやくこちらの世界にご帰還した二人が
大和をまじまじと見ながら問いかけてくる


「あのさっきの魔族は?」


「どうなったですの?」


まだ先ほどの戦いで起こったことが信じられないのか
ポカーンとした表情で大和に質問する


「二人とも見てたでしょ?俺が倒した」



その瞬間先ほどの戦いが現実だと悟ったのか
たかが外れたように二人同時に声を上げた


「いやいやいやいや相手は上級魔族ですよっ!?」

「しかも自分のことを七大魔族とか言ってたですのん!!」


「あの魔族、相当上位の魔族だったんじゃないんですか?」



「うーん、そうみたいだね
答えは単純明快さ、俺の方が強かったそれだけさ」


そういって子供のようにおどけた表情で肩を竦める大和
まるでいたずらっ子が悪だくみをするように



「さっさすがはご神託の勇者様、強いなんてもんじゃないですよ」

「ええええ!?ヤマトさんってご神託にある勇者だったですのん!?」


そう二人が言い終わった瞬間全力で大和は否定する


「勇者じゃないから!違うから!!
大体あのクラスのモンスターは普段から倒しまくってるし
俺にとってそこまで強いやつじゃないから」



そう言うと今度は二人が大和の言葉を否定する


「あんな強力な魔族を倒せる人間なんて勇者以外いませんよ!!」


「そうですのん、私も300年以上生きてきて
あのクラスの魔族が倒されるところを見たのは初めてですのん!!」


そう言うとリナが関係ないところでマーリンに質問する


「ええええーーーマーリン様ってそんなに生きてるんですか!?
すごいおばあさんじゃないですか!?」


「その言い方はやめてほしいですのん!!
こう見えて魔女の一族の中ではまだまだ若い方ですのん
マーリンのひぃおばあちゃんなんて2000年生きてますのん」



と関係のないところで盛り上がっている二人を
そろそろ真面目な話をしないといけないと思い
先ほどの質問を大和は再びする


「それで、二人ともケガとかはないのか?」



「私は大丈夫です、むしろ転んだ時の擦り傷の方が痛いくらいです」


そう言って片目をつむり舌をペロッとだすリナ
こういうところは女の子らしいと思ったが
敢えて口には出さないでおこう


「マーリンも大丈夫ですのん、魔力は無くなってるけど
少し休めば問題ないですのん」


「そうか・・・それならよかった。じゃあ二人ともこれを飲んで」


二人の前に赤い色の液体が入った小瓶と
青い色の液体が入った小瓶をそれぞれに渡す
これは一体なんだという顔を二人がしたので
大和は続けて説明する


「リナの赤いのは傷を回復するポーションで
マーリンちゃんのは魔力を回復するポーションさ」

「あんまりいいものじゃないけど
とりあえず応急処置っていうことで飲んでよ」



うながされるままに二人がそれぞれポーションを口にする
そして口にして数秒後効果が現れ始めた
リナの擦り傷はみるみるうちに完治し
マーリンの魔力もある程度回復したのか
ある程度は動けるようになったようだ



自分の身に起こったことが信じられないのか
二人ともつぶらで大きな瞳をさらに大きく見開く


それもそのはずだこの世界において
傷を治したりする類のものは主に神官が使う治療魔法が主流であり
傷を治すためのアイテムは
存在はするのだがかなり高額に取引されている


さらにマーリンが飲んだポーションに至っては
異質なものでありそもそも魔力を回復する類の
魔法やアイテムはこの世界では存在しないのだ


魔力というのは自然に浮遊するエネルギーを
体内に蓄積するものであるため
時間が経てば勝手に回復していく


ところが大和の与えたポーションは
この世界の常識を大きく覆すほどの代物であった


そのことが分かっている二人だからこそ
大和を見据える目が好奇なものに変わってしまうのは
至極当然のことである


それを察知したのか大和が問いかける


「なっなんだよ?どうかしたのか?」



「ヤマト様やはりあなたは勇者様です
もはや疑いの余地すらありません」



「ああ、こここんな貴重なポーションを
飲んじゃったですのん・・・」



一人はまるで神に遭遇したかのような憧憬しょうけいの目で
もう一人は自分のしでかしたことに対する後悔の目が浮かんでいた



とりあえずこの場所にいつまでもいるわけにはいかないので
一旦神殿の方に戻ることにした







神殿に二人を連れて戻ると
その瞬間溢れんばかりの大歓声が神殿内に響き渡る
そしてその歓声に交じって
「勇者」と連呼する者、黄色い声で叫ぶ者、
ただただ「うおおおお」と絶叫する者など



総じて戻ってきた三人を特に大和を歓迎する雰囲気が
その神殿内に満ち溢れていた



歓声を上げる人々を横切り
奥にぽつりと立つ一人の老神官の元へと歩みを進める



そうその神殿の最高責任者である
バイゼル・リブル・アークその人だ


「あの、バイゼルさんすみませんでした
急に飛び出して行ってしまって・・・」



本当は逃げ出すつもりでいたことは言わずに
社会人としての礼儀から謝罪する大和



その言葉を言い終わるのが早いか遅いかほどの間で
バイゼルが声を上げた


「何を言われるのですか、勇者様!!
全てわかっております」


「いやだからですね、俺は勇者じゃn・・・」


大和の言葉をさえぎりバイゼルが話し出す


「実はこの神殿には町の様子を
映し出す魔道具がありまして
ずっとあなたの様子をここで見ておりました」



「ふぇ?」



バイゼルの言葉に思わず間抜けな声を上げてしまう
だがそんなことには意にも介さずそのまま話を続ける



「誠に勝手ではございましたが
勇者様が私から剣を奪って出て行かれたため
シェーラに後を追わせその様子を窺っておりましたところ」

「魔族が現れそれを勇者様が倒された
あの時の勇者様は魔族の出現を前もって察知しての
行動だったと私どもは理解しております」



「いやあの違うんですごめんなさい、別に魔族が現れるから
出ていったんじゃないんです」と心の中でつぶやく
勇者認定されたくない一心で逃げようとしていたことに
罪悪感を覚える大和、さらにバイゼルは言葉を続ける



「それにしてもあの強力な魔族を打ち滅ぼすとは
さすがはご神託の勇者様、感服いたしました
あの魔族がこの町で暴れていたらと思うとゾッと致します」


「・・・・」


もはや言い逃れはできない状況だ
ヴァルボロスを倒したことにより勇者としての実力は証明され
なおかつ剣に刻まれた龍の紋章
この世界に来た時に自分は気を失っていたようだが
どうやら光の柱の中から現れたという事実


大和がどんなことを言っても
全ての状況が大和を勇者だと証拠付けるものばかりで
自分が勇者ではないと納得させられるだけの理由が
今の大和では見つからない・・・


そんなことを考えていると
バイゼルは思い立ったように口を開く


「そうだ、勇者様がこの世界に降臨されたことを
他の町にも知らせなければ!!」


「ちょちょちょちょっと待ったああああ!!」


「はい?どうかされましたか??勇者様」


「それは不味いんじゃないかな?」


「何が不味いというのですか?
この世界に勇者が来たことをすべての者に知らせねば」

「ヤマト様がこの世界に来るのを
どれだけの者が待ちわびていたことか!」


どうする?なにかていのいい言い訳はないのか??
必死になって頭をフル回転させる大和
何とか勇者が現れたという情報が
世界に広まるのを阻止せねば・・・


考えを巡らせそしてある言い訳を思いつく
一か八かそれに掛けると覚悟を決めた大和はバイゼルに話した


「俺がこの世界に来たことは
まだ魔族には知られてはいません」


「ヴァルボロスを倒したことで魔族側に
勇者が降臨したという情報が伝わることはありません」


「それが神殿が勇者が降臨したなんて情報を流せば
みすみす魔族側に情報を与えてしまうではないですか」


「ですから、バイゼルさんここは一つ
俺が勇者だということは秘密にできませんか?」



もはや俺が勇者だという事実をくつがえせないのであれば
一人でも多く自分が勇者だと知られないようにする
今の大和にとってそれぐらいしか対処する方法はなかった


それを聞いたバイゼルが感嘆の声を上げる


「さすがは勇者様、そこまでお考えだったとは
このバイゼル一生の不覚でございます、お許しを」


「ああ、わかってくれればいいんです・・・」



「ごめんなさい、ホントはこれ以上自分が
勇者だと他の人に知られたくはないんです」などという言葉が
心の中で響いたがかろうじて言葉にすることを押しとどめられた


そんなこととは露知らず、大和の言葉を聞いていた
周りの神官たちが羨望せんぼうの眼差しと感嘆の声を各々おのおの上げる



「ふうー何とかなった・・・」と心の中で呟くと
バイゼルが問いかけてくる


「では勇者様、この後はいかがされるのでしょうか?」


「勇者は勘弁してくださいバイゼルさん、大和でいいですよ」


「何を言われます!あなた様はまごう事なき勇者
あなた様ほど勇者らしい勇者などおりません!!」



「すみません、俺そんないい人じゃないんです
さっきも嘘つきました」と心の中で呟く
そして先ほどの理由でバイゼルに答える
嘘をついている後ろめたさを隠しつつ



「ほら、勇者が現れた情報は隠さないといけませんので
できれば名前で呼んでいただきたいのですが・・・」



「おおなるほどまたしても不覚でした」と謝罪をするバイゼル
その場を取り繕うために大和は今後のことについて話をする



「とりあえず先ほどの戦いで消耗しておりますので
今は休息を取りまた後日改めて話をしたいと思っておりますが・・・」



かしこまりました、ですがこれだけは言わせてください
この町を魔族の手から救っていただきありがとうございました。」



そう言ってバイゼルは片膝をつく、それに習い
周りの神官たちも片膝をつき大和に敬意を表す
大和は何とも言えない苦笑いの表情でそれに答える
ホントは逃げるはずだったのにという罪悪感を感じながら



くしてオンラインゲームをプレイしていた最中に
突如異世界に転移してしまったしがないサラリーマン小橋大和
様々な偶然が重なり【勇者】となってしまう

果たしてこの先大和に待ち受けているものとは一体
そして、大和は元の世界に戻ることができるのか?


第一章・・・【勇者ができあがるまで】 完・・・


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