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崩壊編

油断と慢心

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 今まで連戦連勝だった。
 その中で一番やってはいけない失敗。
 油断……慢心……
 みんなの命を預かっているのに……調子に乗って、考える事を中途半端にしていた。ガララントの時もそうだったのに……
 俺は奥歯を強く噛み締める。

 ベルベッティアからの報告。
「途中までは計画通りだった。間延びしたゴーレムの群れを分断するまでは。でもガイサルが第二都市と合流する直前、都市の後ろ、山岳側から別のゴーレムが現れたわ。数としてはドレミドの方よりも多い」
「そんなに……何で……それだけの数ならガイサルさんが絶対に気付くはず……」
 伝書鳩でも手旗信号でも光を使ったモールス信号みたいなのでも、ガイサルは陥落をしていない第二都市と連絡を取る手段を何か持っていたはずだ。だからこそタイミングを合わせて第二都市側と合流する計画だったのだから。
 それだけのゴーレムが山岳側に回り込んでいたら第二都市側で気付くはず。それにキオだって一応は第二都市周りを調べたはず。なのに何故それに気付かなかったのか……
 ベルベッティアは報告を続ける。
「山岳側からゴーレムが現れた時点でビスマルクは計画を失敗と判断して戦線離脱を決定したんだけど、もう囲まれつつあったわ」
 ベルベッティアはその情報を伝える為にこの合流場所にいたのだ。
「シノブ。どうするつもり?」
 ベルベッティアの言葉に俺は即答。
「僕が行く」
「能力を使うのか?」
 ヴォルフラムに俺は頷いた。
「当たり前。今使わないでいつ使うのさ」
「シノブ様、私達は何をすれば良いのでしょうか?」
「みんなの所へすぐに向かって。僕はドレミドを片付けてから行くから」
 そうして俺は自らの能力を解放するのだった。

★★★

 これは俺が後から聞いた話。少し時間は遡る。

「シノブちゃんの計画通りだね」
「そうね。あれだけ間延びしてくれれば壁として少しは耐えられそうだわ」
 リアーナとロザリンドはゴーレムの大群を少し離れた位置から確認していた。
「二人とも頼むぞ。壁が長く耐えれば耐える程、今回の戦いは楽になるからな。フォリオもタカさんも二人を助けてやってくれ」
 と、ビスマルク。
「あれくらいの数なら明日までだって耐えてやるよ。ははっ」
 相変わらずタカニャは豪快に笑う。
「空から俺が周りの状況を確認する。地上からはキオだな」
 フォリオは鋭い視線をキオへと向けた。
「が、がが、頑張ります、はい」
「キオは情報収集に集中させる。その間の護衛、フレア、ミツバ、頼んだぞ」
 ビスマルクの言葉にフレアは微笑んだまま頷いた。
「おうよ、近付く野郎は片っ端からブッ飛ばしてやんぜ」
「僕は基本的に魔法攻撃だけど、誰か怪我人が出た場合は回復魔法の方に集中するんでよろしく」
「心配しないでベリー、泥船に乗った気でいなさい!!」
「いや、泥船はダメだろ……それと俺達には別の役割が……」
 リコリスの言葉にユリアンが呆れる。
「……笹船?」
「いや、乗れないだろ……」
「ユリアンは細かいですわ」
「ええっ……」
「あらあら~相変わらずユー君とリコリスちゃんは仲良し~こんな時なのに和む~」
「ふふっ、そうね。緊張が抜けて良いかもね。そう思わないアルタイル?」
 アルタイルの肩に乗るベルベッティア。小さく笑って問い掛ける。
「……」
「アルタイルえもん?」
 からかうようなベルベッティア。静かにアルタイルは言う。
「聞こえている。そしてアルタイルえもんではない」
「アルタイルえもん、可愛い響きでわたくしは好きですわ」
「お前はリコえもんにしろよ」
「じゃあ、ベリーはベリえもんにしなさいよ」
「でもリコえもんってちょっと可愛いよね? ロザえもん」
 リアーナは笑って言う。
 それに笑って答えるロザリンド。
「そうね、リアえもん」
「ガハハハハッ、豪胆だな。しかし話はそれぐらいにしておけ。リコリス、ユリアンはシノブとの合流地点へ。他は行くぞ」
 ビスマルクの言葉に全員が頷くのだった。

★★★

 ガイサルの隊が第二都市に向かって進む。
 それに合わせて先陣を切るのはビスマルクだった。
 突撃。
 その鋭い爪がゴーレムを斬り飛ばす。
 続くリアーナ隊とロザリンド隊。
 リアーナのハルバードと魔法がゴーレムを撃つ。それに続く傭兵と冒険者、ビスマルクが集めた手練れ達。ゴーレムに難無く対処する。
 そしてロザリンドの刀はゴーレムをまるで果実のように切断していく。
 作戦通り。
 ゴーレムの軍団を、前と後ろとで分断。そしてリアーナ隊とロザリンド隊が前方のゴーレムに対して壁となる。
 対してビスマルクは後方のゴーレムに向かって攻め込んだ。ゴーレムの最後尾側から攻めるガイサルとこれで挟み撃ちが出来る。
 作戦通り、何も問題無い流れ。

 最初、その異変に気付いたのはキオだった。

 キオの左目、輝くカトブレパスの瞳。
 それが見たものは、第二都市の背後、山岳側から現れるゴーレムの群れ。
「フォ、フォリオさん!! む、向こう、山の方にゴーレムが見えます!!」
 キオは叫ぶ。
 その声にフォリオは空高く舞い上がった。そしてその人間を遥かに凌駕する視力でそれを見付ける。その瞬間にフォリオは作戦の失敗を確信した。
 すぐさま急降下。ビスマルクの元へ。
 ビスマルクにもキオの声は聞こえていた。
「間違い無い。こちらよりも数が多い」
 ビスマルクは撤退を即座に決める。
 辺りに轟く大声。
「撤退だ!! 今すぐこの場から離脱する!!」
 すぐさまベルベッティアはシノブとの合流地点へと駆け出す。それは絶対に伝えなくてはならない情報。

「聞こえたわね!!? みんな、撤退するわ!! リアーナ、壁が崩れれば一気に攻め込まれる」
「分かってるよ。このまま壁を維持しつつ後退だね。ベリー君、絶対に魔法を途切れさせないで!!」
「ここで魔力切れしても構わない。頑張りなさい、ベリー!!」
 ロザリンド隊とリアーナ隊は壁を維持しつつ後退。ビスマルクとの合流を目指す。このまま散開しても個々ではゴーレムの群れを突破出来ないからだ。
 タックルベリーに返事をする余裕は無い。連続して放たれる攻撃魔法。一瞬の間も置かない。一体でも多くゴーレムを破壊しなければ、このままゴーレムの群れに飲み込まれる。
 その光景を見ながらタカニャはギリッと歯軋りをする。その手に持たれるのは針のように細く、釣り竿のようにしなるフルーレと呼ばれる武器。
 素早い突きがゴーレムを貫く。
 タカニャが感じていたのは不安。少し離れている自分には撤退理由が分からない。しかし考えられるのは敵の増援。もし今と同数程度の増援があった場合……全員が無事で逃げ切る事は難しくなる。
 しかし全員でないならば……

 キオは必至で辺りの情報を集める。
 山岳側も事前に調べた。それでも敵の伏兵に気付かなかったのは自分の落ち度。この事態は自分が招いたものだと思っていた。
 だからこそもう絶対に何も見逃さない。
 片刃の直剣を二本、それを振るいながらゴーレムを斬り倒す。斬り倒しつつも、周囲の状況を常に確認する。
「リアーナさんとロザリンドさんが来ます!! む、向こうです、合流出来ます!!」
 その姿にミツバは笑顔を浮かべて呟く。
「頼もしい野郎だな」
 ミツバの戦斧の一振りで何体ものゴーレムが弾け飛ぶ。小さな体からは考えられない怪力だった。
 キオの言葉を受けて、ビスマルクも合流を目指した。

 そのビスマルク達の背後、後方のゴーレムを一気に引き受けていたのがヴイーヴルとアルタイル。そこは一番の激戦区。
 既にヴイーヴルは全開。竜の血の力を最大限に引き出していた。そうでなければこの数のゴーレム達を相手に出来ない。
 凄まじい攻撃。
 空気を切り裂く轟音。地が震える程の斬撃。高速で振り続けられる大剣クレイモアはゴーレムを人形のように破壊していく。
 そしてアルタイルのスケルトンがゴーレムの群れを攪乱していた。力は弱くとも数で対抗する。スケルトンを操るにも魔力は必要。これだけの数を操る事は、アルタイルの魔力の高さを意味していた。
 そこへフォリオが加わる。
「ヴイーヴル。山岳側のゴーレムは半分がガイサルを追っている。だがもう半分がこちらへ向かっているぞ」
 そんな報告を聞き、ヴイーヴルはいつも変わらない間延びした声で言うのだった。
「あらあら~さらに酷くなるわね~」

 少ない人数でこの大量のゴーレムに対抗出来ている一因。それはフレア。
 個々が強いのはもちろんだが、フレアが全員に防御魔法を付与しているのだ。人数的に完全防御魔法は掛けられないが、ある程度の物理攻撃と魔法攻撃をシャットアウトする。
 質が落ちるとはいえ、この人数同時に防御魔法を付与出来る者が、この大陸に何人いるのか……まさにフレアは陰の功労者と言える存在だった。

 そんな中。
「お前達、来たのか!!?」
 ビスマルクの元に合流したのはリコリスとユリアンだった。
「パパ、助けに来ましたわ!!」
「合流場所にはベルベッティアがいるから、すぐにシノブが来るはず。だから今は少しでも耐える為に戦力が必要。だろ?」
 そこでビスマルクは笑う。
「頼もしい援軍だな」

★★★

 やがてリアーナ隊、ロザリンド隊とビスマルク隊が合流する。
 このまま一丸となり、ゴーレムの群れを突破する。そしてシノブと合流して、とりあえずこの場から撤退だ。
 そこに空から戦況を確認していたフォリオが戻る。
「ガイサル隊がゴーレムに飲まれた。生死は分からない。それと相手の対応が尋常ではないくらい早い。まるで戦場全体が見えているようだ」
 フォリオがそう言った時だった。

「俺がいるからな」

 それは単眼の青年だった。
 ローロン。
 ゴーレムの群れの中から姿を現す。
 ローロンにはキオと同じような力がある。本当に戦場全体が見えていたのだ。だからこそビスマルク達が予想するよりも早く事態は展開していた。
「もう逃げるのは無理だぞ。今ここで全面降伏をすれば命だけは助けてやっても良い。どうする?」
「断る。実際には何をされるか分からないからな。ヴイーヴル」
「はいは~い」
 ビスマルクの言葉にヴイーヴルはローロンへと飛び掛かる。一対一でローロンに対抗出来るのはヴイーヴルだけだからだ。
「徹底抗戦か。さて、ここから上手く逃げられるか?」
 ローロンは笑った。そしてヴイーヴルとの交戦に入る。

 そしてこの状況を見てビスマルクは判断をするのである。
 その判断とは……
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