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第5話:私は公爵令嬢だから…
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なぜか私から離れようとしないアルト様の元に、シモン様がやって来た。
「アルト、今日はもう帰ろう。もうすぐ貴族学院も始まるし、すぐにカナリア嬢には会えるだろう?カナリア嬢、カルア殿、お騒がせして申し訳ございませんでした」
シモン様が私たちに頭を下げると、アルト様の腕を掴んだ。
「僕は毎日1時間はカナリアに触れていないと、気がおかしくなるんだよ!離せ、シモン」
シモン様と家の護衛騎士に連れられ、アルト様が退場していく。
「本当に油断も隙も無い男だ。シモン殿にまで迷惑をかけて。カナリアも、本当に殿下の事が嫌なら、家の事は気にしなくてもいいから、はっきり言ってくれて構わないからね。そもそも我が家から、王妃を出すつもりなんてなかったんだよ。それなのにあの男が…いいや、何でもない。さあ、今日は疲れただろう。ゆっくり休んでくれ」
カルアお兄様が、部屋まで連れて行ってくれた。
アルト様ったら、まさかシモン様を使って会いに来るだなんて。シモン様も迷惑そうだったわね。
私のせいで、シモン様にまで迷惑をかけて、増々シモン様に嫌われてしまうわ。
それに私は、仮にもアルト様の婚約者。たとえアルト様を別の令嬢に奪われると分かっていても、やっぱり2人が恋仲になるまでは、婚約者としての責務を全うするべきよね。それが公爵令嬢としての、私の務めだから…
そもそもこの国では、貴族令嬢は家の為に嫁ぐのが一般的なのだ。ただ、出世欲のないお父様やお兄様たちは、なぜか女性陣の気持ちを最優先してくれる。
お姉様もお義兄様になる方と大恋愛の末、結婚が決まったのだ。と言っても、お義兄様は公爵家の嫡男で、身分的にも問題はない相手だったが…
我が家がおかしいだけで、ほとんどの令嬢が、自分の意思とは関係なく好きでもない相手に嫁いでいる。それなのに公爵令嬢の私が、これ以上我が儘を言っている訳にはいかない。
たとえ心がズタボロになろうとも、私は今の時点ではアルト様の婚約者。立派に勤め上げないといけないのだ。
そしてシャーラ様と恋仲になった暁には、潔くきっぱりと身を引こう。それが私に出来る、唯一の方法だから。
よし、そうと決まれば、早速明日にでも王宮に向かわないと!
翌日
王宮へと向かう準備を行っていると
「カナリア、どこかに出掛けるのかい?」
お父様が話しかけてきたのだ。
「ええ、王宮に行こうと思っておりますの。私はアルト様の婚約者ですから、いつまでもアルト様に、我が家に足を運ばせる訳にはいきませんわ」
「カナリアは高熱で苦しんでいたのだよ。無理して殿下に会いに行く必要はない。あの男、昨日も乗り込んできたそうだな。いくらカナリアと婚約をしているからと言って、公爵家に乗り込んでくるだなんて!」
「私がアルト様を蔑ろにしてしまったから、アルト様は公爵家に尋ねてくるしかなかったのですわ。お父様、私は大丈夫です。公爵令嬢として、アルト様の婚約者として務めを果たすつもりですわ。でも…もし、どうしても婚約を解消したくなったら、その時は私の我が儘を聞いて下さいますか?」
きっとその日はそう遠くはないだろう。それまでは、アルト様の婚約者を立派に演じ切ろう。
「カナリア…泣いているではないか、可哀そうに。カナリアが婚約解消を申し出てきたら、すぐにでも陛下に話しをしよう。もしかして、今すぐ婚約解消をしたいとかか?わかった、すぐに陛下に…」
「いいえ、まだ大丈夫ですわ。それでは私は、王宮へと行って参ります」
「待って…カナリア…」
後ろでお父様が叫んでいたが、そのまま馬車に乗り込んだ。私ったら、本当に駄目ね。お父様の前で、涙を流してしまうだなんて。
“王妃たるもの、いついかなる時でも、人前で涙を流してはいけません”
そう常々教育係に言われてきたのに。でも、私が王妃になる事はないのだから、もう泣いてもいいのかしら?
あんなに辛い王妃教育も必死に耐えて来たのに…結局無意味だったのね。馬車から王都の街並みを見渡す。すると、真っ青な海が見えた。あの海にアルト様は身投げをなさるのね。そして私自身も…でも、そんな未来にはさせないわ。
嫌な事があった時は、日本酒をグイっと飲みたいところだけれど、生憎この国には日本酒はない。ワインならあるが、年齢的に飲めないのだ。
そういえばこの国には、私の大好きなサラミがあるわ。それもとてもぶっといやつが。私はあまりああいう肉肉しいのは好きではなかったが、前世の記憶が戻った今、無性に食べたい。
大好きなアルト様を、諦めないといけないのだ。その上、2人が恋仲になるまで、私は彼の婚約者を演じ続けないといけない。決して報われることがない思いを抱えながら、彼の傍にいないといけないだなんて…私ってどれだけ可哀そうなのかしら。
そんな可哀そうな私が、好きな物を好きなだけ食べて何が悪いのよ。そうよ、これからはお菓子だってジュースだってお肉だって、好きなだけ食べてやるわ。私は前世では食べる事が大好きだったのだ。
そうだわ、アルト様と婚約解消をした暁には、世界中を回ろう。前世では色々な国を回ったもの。今世でも、色々な国を見たい。それくらいしても、きっと罰は当たらないだろう。
なんだか少しだけ心が軽くなった。くよくよしていても、仕方がないものね。
「アルト、今日はもう帰ろう。もうすぐ貴族学院も始まるし、すぐにカナリア嬢には会えるだろう?カナリア嬢、カルア殿、お騒がせして申し訳ございませんでした」
シモン様が私たちに頭を下げると、アルト様の腕を掴んだ。
「僕は毎日1時間はカナリアに触れていないと、気がおかしくなるんだよ!離せ、シモン」
シモン様と家の護衛騎士に連れられ、アルト様が退場していく。
「本当に油断も隙も無い男だ。シモン殿にまで迷惑をかけて。カナリアも、本当に殿下の事が嫌なら、家の事は気にしなくてもいいから、はっきり言ってくれて構わないからね。そもそも我が家から、王妃を出すつもりなんてなかったんだよ。それなのにあの男が…いいや、何でもない。さあ、今日は疲れただろう。ゆっくり休んでくれ」
カルアお兄様が、部屋まで連れて行ってくれた。
アルト様ったら、まさかシモン様を使って会いに来るだなんて。シモン様も迷惑そうだったわね。
私のせいで、シモン様にまで迷惑をかけて、増々シモン様に嫌われてしまうわ。
それに私は、仮にもアルト様の婚約者。たとえアルト様を別の令嬢に奪われると分かっていても、やっぱり2人が恋仲になるまでは、婚約者としての責務を全うするべきよね。それが公爵令嬢としての、私の務めだから…
そもそもこの国では、貴族令嬢は家の為に嫁ぐのが一般的なのだ。ただ、出世欲のないお父様やお兄様たちは、なぜか女性陣の気持ちを最優先してくれる。
お姉様もお義兄様になる方と大恋愛の末、結婚が決まったのだ。と言っても、お義兄様は公爵家の嫡男で、身分的にも問題はない相手だったが…
我が家がおかしいだけで、ほとんどの令嬢が、自分の意思とは関係なく好きでもない相手に嫁いでいる。それなのに公爵令嬢の私が、これ以上我が儘を言っている訳にはいかない。
たとえ心がズタボロになろうとも、私は今の時点ではアルト様の婚約者。立派に勤め上げないといけないのだ。
そしてシャーラ様と恋仲になった暁には、潔くきっぱりと身を引こう。それが私に出来る、唯一の方法だから。
よし、そうと決まれば、早速明日にでも王宮に向かわないと!
翌日
王宮へと向かう準備を行っていると
「カナリア、どこかに出掛けるのかい?」
お父様が話しかけてきたのだ。
「ええ、王宮に行こうと思っておりますの。私はアルト様の婚約者ですから、いつまでもアルト様に、我が家に足を運ばせる訳にはいきませんわ」
「カナリアは高熱で苦しんでいたのだよ。無理して殿下に会いに行く必要はない。あの男、昨日も乗り込んできたそうだな。いくらカナリアと婚約をしているからと言って、公爵家に乗り込んでくるだなんて!」
「私がアルト様を蔑ろにしてしまったから、アルト様は公爵家に尋ねてくるしかなかったのですわ。お父様、私は大丈夫です。公爵令嬢として、アルト様の婚約者として務めを果たすつもりですわ。でも…もし、どうしても婚約を解消したくなったら、その時は私の我が儘を聞いて下さいますか?」
きっとその日はそう遠くはないだろう。それまでは、アルト様の婚約者を立派に演じ切ろう。
「カナリア…泣いているではないか、可哀そうに。カナリアが婚約解消を申し出てきたら、すぐにでも陛下に話しをしよう。もしかして、今すぐ婚約解消をしたいとかか?わかった、すぐに陛下に…」
「いいえ、まだ大丈夫ですわ。それでは私は、王宮へと行って参ります」
「待って…カナリア…」
後ろでお父様が叫んでいたが、そのまま馬車に乗り込んだ。私ったら、本当に駄目ね。お父様の前で、涙を流してしまうだなんて。
“王妃たるもの、いついかなる時でも、人前で涙を流してはいけません”
そう常々教育係に言われてきたのに。でも、私が王妃になる事はないのだから、もう泣いてもいいのかしら?
あんなに辛い王妃教育も必死に耐えて来たのに…結局無意味だったのね。馬車から王都の街並みを見渡す。すると、真っ青な海が見えた。あの海にアルト様は身投げをなさるのね。そして私自身も…でも、そんな未来にはさせないわ。
嫌な事があった時は、日本酒をグイっと飲みたいところだけれど、生憎この国には日本酒はない。ワインならあるが、年齢的に飲めないのだ。
そういえばこの国には、私の大好きなサラミがあるわ。それもとてもぶっといやつが。私はあまりああいう肉肉しいのは好きではなかったが、前世の記憶が戻った今、無性に食べたい。
大好きなアルト様を、諦めないといけないのだ。その上、2人が恋仲になるまで、私は彼の婚約者を演じ続けないといけない。決して報われることがない思いを抱えながら、彼の傍にいないといけないだなんて…私ってどれだけ可哀そうなのかしら。
そんな可哀そうな私が、好きな物を好きなだけ食べて何が悪いのよ。そうよ、これからはお菓子だってジュースだってお肉だって、好きなだけ食べてやるわ。私は前世では食べる事が大好きだったのだ。
そうだわ、アルト様と婚約解消をした暁には、世界中を回ろう。前世では色々な国を回ったもの。今世でも、色々な国を見たい。それくらいしても、きっと罰は当たらないだろう。
なんだか少しだけ心が軽くなった。くよくよしていても、仕方がないものね。
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