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第7話:今だけは笑顔で過ごしたい
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「カナリア、目が覚めたのだね。どうだい?気分は、少し楽になったかい?」
目を覚ますと、目の前にはアルト様の姿が。
私、いつの間にか眠ってしまっていたのね。ふと窓の外を見ると、日が沈みかけていた。こんな時間まで眠っていただなんて、さすがにマズイ。
「申し訳ございません、私…」
「急いで起き上がらなくてもいいし、謝らなくてもいいのだよ。僕は君が体調を押してまで王宮に来てくれたのが嬉しいんだ。そうだ、今日は王宮に泊っていくといい。あまり動かない方がいいだろうし。早速公爵家には使いを出しておくよ」
「待って下さい、アルト様。あなた様の看病のお陰で、すっかり体調も戻りましたので、家に帰ります。また明日、参りますから」
本当はアルト様と一緒にいると、心が苦しくて体調が悪化するのだが、そんな事は口が裂けても言えない。
「そう言ってまた、僕の傍を離れるつもりなのだろう?もう二度と僕は、カナリアに会えない時間を過ごすなんて嫌なんだ。とにかく今日は、王宮に泊ってもらうからね。すぐに公爵家に使いを出してくれ」
「かしこまりました」
「お待ちください、私はやはり家に帰りたい…」
「カナリア、そんなに僕から離れたいのかい?僕はずっと、カナリアと一緒にいたいのに…どうしてだい?」
悲しそうな顔で、アルト様が呟いている。お願い、そんな顔をしないで。私だって、ずっとあなたと一緒にいたい。でも、それは叶わない夢なのよ。
近い将来あなたを失うと分かっているからこそ、アルト様と一緒にいるのが辛い。いっその事、このまま婚約を解消出来たら、どんなに私の心は楽になるだろう。
でも、そんな事は出来ないのだ。
「カナリア、どうして泣いているのだい?頼む、泣かないでくれ。僕は君の涙なんて見たくない。カナリア、君が好きなお茶とお菓子だよ。他には何がいいかな?」
必死にアルト様が動いてくれている。私の為に、こんなにも必死に動いてくれている姿を見ていたら、たとえお別れが来るとわかっていても、私がしなければいけない事は、ただ1つだけ。
「アルト様、ごめんなさい。ちょっと悲しい事を思い出してしまって。もう大丈夫ですわ」
たとえ私の心がボロボロに壊れてしまっても、アルト様が幸せならそれで構わない。私がカナリアとして転生してしまった時から、既に私の進む道は決まっていたのだから。
彼の幸せの為なら、何でもしよう。その為にも、今はアルト様の傍にいると決めたのだから。
「そうだったのだね。わかったよ、それじゃあ、一緒に夕食を食べよう。そうだ、2人でゆっくり食べられる様に、今日はこの部屋に夕食を運ばせるよ。すぐに準備をしてくれるかい?」
アルト様が嬉しそうに、近くにいた使用人たちに指示を出している。あんなに嬉しそうな顔をして。アルト様ったら…
彼を見ていると、つい微笑んでしまう。
「なんだかカナリア、嬉しそうな顔をしているね。カナリアが嬉しそうにしていると、僕も嬉しいよ」
そう言うと、それはそれは素敵な笑顔を見せてくれたのだ。私はこの笑顔を守りたい。それに…たとえ後少しで、アルト様を奪われてしまうとしても、それまでの間は、彼と一緒にいたい。
彼には笑顔でいて欲しい。そしてアルト様とシャーラ様が結ばれた暁には、私は彼らの前から姿を消そう。でもそれまでは、アルト様と笑顔で過ごしたい。
「アルト様、今日も美味しそうなお食事が沢山ありますわね。沢山食べましょう」
「そうだね、いっぱい食べよう。このサラダ、カナリアの好物だろう?たくさん食べて。そうだ、僕が食べさせてあげるね。野菜だけでは力が出ないだろう。お肉も食べて」
「ありがとうございます、ではアルト様には、このステーキを」
記憶が戻る前と変わらない風景。あの頃の私は、アルト様と過ごす時間が当たり前で、このままずっと続くと思っていた。でも…今ならわかる。アルト様と過ごす時間は、当たり前なんかじゃ決してない事を。
とても貴重で、大切な時間なのだ。だからこそ、大切にしないといけない。
「アルト様、さすがにもうお腹いっぱいですわ」
「もういいのかい?あまり食べていないじゃないか?」
「熱を出してから、まだ食欲が戻らなくて…でも、今日はずいぶんたくさん食べましたわ」
これでもたくさん食べた方なのだ。そもそも私は、お酒が飲みたい…なんて事は言えない。
「そうなのだね、分かったよ。それじゃあ、この後ゆっくりお茶にしよう。それから夜は、一緒に寝ようね。もう僕は、一秒だってカナリアと離れたくないから」
そう言ってアルト様が嬉しそうに微笑んでいる。
「アルト様が望むのなら、そうさせていただきます…」
「失礼いたします。殿下、その…」
和やかな空気の中やって来たのは、アルト様の専属執事だ。アルト様の耳元で、何かささやいている。
「カナリア、ちょっと僕は用事が出来たら、少し席を外すね。すぐに戻って来るから」
私を抱きしめ、おでこに口づけをすると、足早に去って行った。多分、お父様とお兄様たちが迎えに来たのだろう。なんだかそんな気がした。
案の定…
「カナリア、こんなところに閉じ込められて。可哀そうに、さあ、一緒に帰ろう」
「殿下、カナリアを王宮に閉じ込めようとするだなんて、何を考えているのですか?カナリアはまだ公爵家の人間なのです。王宮に泊らせるなんて、勝手な事をされては困ります」
「婚約自体白紙に戻す事だって、あるかもしれません。とにかくカナリアは連れて帰りますので」
「カナリアは僕の婚約者ですよ!それに婚約を白紙に戻す事なんて、絶対にありえません。今日王宮に泊る事は、カナリアの同意の元です。それなのに、勝手に乗り込んできて!今日はお帰り下さい」
乗り込んできたお父様とお兄様たち、アルト様が激しい言い争いが始まった。そして結局私は、そのままお父様とお兄様たちに連れられ、屋敷に戻る事になったのだった。
※次回、アルト視点です。
よろしくお願いしますm(__)m
目を覚ますと、目の前にはアルト様の姿が。
私、いつの間にか眠ってしまっていたのね。ふと窓の外を見ると、日が沈みかけていた。こんな時間まで眠っていただなんて、さすがにマズイ。
「申し訳ございません、私…」
「急いで起き上がらなくてもいいし、謝らなくてもいいのだよ。僕は君が体調を押してまで王宮に来てくれたのが嬉しいんだ。そうだ、今日は王宮に泊っていくといい。あまり動かない方がいいだろうし。早速公爵家には使いを出しておくよ」
「待って下さい、アルト様。あなた様の看病のお陰で、すっかり体調も戻りましたので、家に帰ります。また明日、参りますから」
本当はアルト様と一緒にいると、心が苦しくて体調が悪化するのだが、そんな事は口が裂けても言えない。
「そう言ってまた、僕の傍を離れるつもりなのだろう?もう二度と僕は、カナリアに会えない時間を過ごすなんて嫌なんだ。とにかく今日は、王宮に泊ってもらうからね。すぐに公爵家に使いを出してくれ」
「かしこまりました」
「お待ちください、私はやはり家に帰りたい…」
「カナリア、そんなに僕から離れたいのかい?僕はずっと、カナリアと一緒にいたいのに…どうしてだい?」
悲しそうな顔で、アルト様が呟いている。お願い、そんな顔をしないで。私だって、ずっとあなたと一緒にいたい。でも、それは叶わない夢なのよ。
近い将来あなたを失うと分かっているからこそ、アルト様と一緒にいるのが辛い。いっその事、このまま婚約を解消出来たら、どんなに私の心は楽になるだろう。
でも、そんな事は出来ないのだ。
「カナリア、どうして泣いているのだい?頼む、泣かないでくれ。僕は君の涙なんて見たくない。カナリア、君が好きなお茶とお菓子だよ。他には何がいいかな?」
必死にアルト様が動いてくれている。私の為に、こんなにも必死に動いてくれている姿を見ていたら、たとえお別れが来るとわかっていても、私がしなければいけない事は、ただ1つだけ。
「アルト様、ごめんなさい。ちょっと悲しい事を思い出してしまって。もう大丈夫ですわ」
たとえ私の心がボロボロに壊れてしまっても、アルト様が幸せならそれで構わない。私がカナリアとして転生してしまった時から、既に私の進む道は決まっていたのだから。
彼の幸せの為なら、何でもしよう。その為にも、今はアルト様の傍にいると決めたのだから。
「そうだったのだね。わかったよ、それじゃあ、一緒に夕食を食べよう。そうだ、2人でゆっくり食べられる様に、今日はこの部屋に夕食を運ばせるよ。すぐに準備をしてくれるかい?」
アルト様が嬉しそうに、近くにいた使用人たちに指示を出している。あんなに嬉しそうな顔をして。アルト様ったら…
彼を見ていると、つい微笑んでしまう。
「なんだかカナリア、嬉しそうな顔をしているね。カナリアが嬉しそうにしていると、僕も嬉しいよ」
そう言うと、それはそれは素敵な笑顔を見せてくれたのだ。私はこの笑顔を守りたい。それに…たとえ後少しで、アルト様を奪われてしまうとしても、それまでの間は、彼と一緒にいたい。
彼には笑顔でいて欲しい。そしてアルト様とシャーラ様が結ばれた暁には、私は彼らの前から姿を消そう。でもそれまでは、アルト様と笑顔で過ごしたい。
「アルト様、今日も美味しそうなお食事が沢山ありますわね。沢山食べましょう」
「そうだね、いっぱい食べよう。このサラダ、カナリアの好物だろう?たくさん食べて。そうだ、僕が食べさせてあげるね。野菜だけでは力が出ないだろう。お肉も食べて」
「ありがとうございます、ではアルト様には、このステーキを」
記憶が戻る前と変わらない風景。あの頃の私は、アルト様と過ごす時間が当たり前で、このままずっと続くと思っていた。でも…今ならわかる。アルト様と過ごす時間は、当たり前なんかじゃ決してない事を。
とても貴重で、大切な時間なのだ。だからこそ、大切にしないといけない。
「アルト様、さすがにもうお腹いっぱいですわ」
「もういいのかい?あまり食べていないじゃないか?」
「熱を出してから、まだ食欲が戻らなくて…でも、今日はずいぶんたくさん食べましたわ」
これでもたくさん食べた方なのだ。そもそも私は、お酒が飲みたい…なんて事は言えない。
「そうなのだね、分かったよ。それじゃあ、この後ゆっくりお茶にしよう。それから夜は、一緒に寝ようね。もう僕は、一秒だってカナリアと離れたくないから」
そう言ってアルト様が嬉しそうに微笑んでいる。
「アルト様が望むのなら、そうさせていただきます…」
「失礼いたします。殿下、その…」
和やかな空気の中やって来たのは、アルト様の専属執事だ。アルト様の耳元で、何かささやいている。
「カナリア、ちょっと僕は用事が出来たら、少し席を外すね。すぐに戻って来るから」
私を抱きしめ、おでこに口づけをすると、足早に去って行った。多分、お父様とお兄様たちが迎えに来たのだろう。なんだかそんな気がした。
案の定…
「カナリア、こんなところに閉じ込められて。可哀そうに、さあ、一緒に帰ろう」
「殿下、カナリアを王宮に閉じ込めようとするだなんて、何を考えているのですか?カナリアはまだ公爵家の人間なのです。王宮に泊らせるなんて、勝手な事をされては困ります」
「婚約自体白紙に戻す事だって、あるかもしれません。とにかくカナリアは連れて帰りますので」
「カナリアは僕の婚約者ですよ!それに婚約を白紙に戻す事なんて、絶対にありえません。今日王宮に泊る事は、カナリアの同意の元です。それなのに、勝手に乗り込んできて!今日はお帰り下さい」
乗り込んできたお父様とお兄様たち、アルト様が激しい言い争いが始まった。そして結局私は、そのままお父様とお兄様たちに連れられ、屋敷に戻る事になったのだった。
※次回、アルト視点です。
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