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第10話:エヴァン様に謝罪されました

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翌日、いつもの様に馬車に乗り込み、学院を目指す。学院に着き馬車を降りると、沢山の令息に囲まれた。

「ルーナ嬢、これ良かったらどうぞ」

「おい、抜け駆けはよせ。カバン、俺が持ってあげるよ」

「そっちこそ抜け駆けするなよ。ここのケーキ、王都で有名らしいんだ。よかったらお昼に一緒に食べないかい?」

一気に話しかけてくる令息たち。急にこんな風に迫られても困るわ。どうしよう…

そう思っていた時だった。

「君たち、ルーナ嬢が困っているよ。それに学院には贈り物などは持ってくるべきではない」

やって来たのは、アイザック殿下だ。さすがに第二王子の登場に、皆が一歩下がった。

「アイザック殿下、おはようございます」

「おはよう、ルーナ嬢。それにしても、すごい人気だね。さあ、これ以上ルーナ嬢が令息たちに絡まれたら大変だからね。僕が教室まで送ってあげるよ」

アイザック殿下が私の手を取り、歩き出した。

「アイザック殿下、お気遣いありがとうございます。でも、私は大丈夫ですわ。それに3年の教室と2年の教室は棟が違いますし…」

「僕の事は気にしなくていいよ。少しでも君と一緒にいたいんだ」

そう言うと、にっこり微笑んでくれたアイザック殿下。殿下がそう言ってくれているのに、このまま断る何て悪い気がして、結局送ってもらう事になった。

「殿下、わざわざ送って頂き、ありがとうございます」

「僕の事は気にしないで。それよりルーナ嬢はすごい人気だね。ライバルも多そうだ。僕も頑張らないとね。それじゃあ」

アイザック殿下が笑顔で手を振って去っていく。本当にお優しい方だ。

「おはよう、ルーナ。アイザック殿下と登校だなんて、ルーナもすみに置けないわね」

エマが私に話しかけてきた。もう、私をからかって。

「馬車を降りたところで、沢山の令息に囲まれてしまって。それで、アイザック殿下が助けてくれたのよ。もう、からかわないで」

「まあ、そうだったのね。あなたの人気、凄まじいものね…またナタリー様がヒステリックにならないといいけれど…」

エマが遠い目をしている。確かにナタリー様の怒りに触れると面倒だ。辺りを見渡すと、まだナタリー様は来ていない。

その後はエマや他の令嬢たちが私の傍にずっといてくれたので、特に問題なく過ごせた。ただ…私の事が気に入らないナタリー様は、ものすごい勢いで睨んでいたが…

気にしない様にしておこう。

翌日も、その翌日も、令息たちに追い回された。そんな日々を送る事1ヶ月ちょっと。さすがにもう疲れてきた。

今日も令息たちをうまく撒き、エマと一緒に校門を目指す。

「本当に男どもときたら、どれだけルーナが好きなのよ。ねえ、ルーナ、せっかくだから、今日は家に来ない?王都で人気のパティシエがお菓子を作りに来てくれているの」

「まあ、それは素敵ね。ぜひ行くわ」

そんな話をしているうちに、校門までやって来た。でも次の瞬間、つい足が止まった。

そう、なぜか家の馬車の前に、エヴァン様がいたのだ。どうして家の馬車の前に、エヴァン様がいるの?

私に気が付いたエヴァン様が、まっすぐこちらにやって来た。エヴァン様に気が付いたエマが、私を庇う様にして立ち、エヴァン様を睨みつけている。

「ルーナ、待ち伏せなんてしてごめん。でも、どうしても君と話しがしたかったんだ。少しだけいいかな?」

私と話がしたい?一体何の話があると言うのだろう。

「エヴァン様、今更何を話すと言うのですか?私はもうあなた様と話すことなどありません。どうかもう、私に関わらないで下さい」

家族や友人のお陰で、なんとか前に進もうとしている時に、これ以上心を引っ掻き回さないでほしい。とにかくもう、エヴァン様とは関わりたくはないのだ。

そんな思いから、エヴァン様を無視して、馬車に乗り込もうとしたのだが…

「ルーナ、ほんの少しだけでいい。頼む、話をさせてくれ」

必死に頭を下げるエヴァン様。その姿を見たら、これ以上断れないじゃない。

「エマ、少しだけ付き合ってくれるかしら?」

エマの方を見て、そう伝えた。すると、ゆっくりと頷いてくれた。

「エヴァン様、さすがに2人きりで話をするのは無理です。エマも一緒でもよろしいですか?」

「ああ、もちろんだ。それじゃあ、テラスにでも行こう」

心底ほっとした表情のエヴァン様と一緒に、テラスへと向かう。私の隣には、エマが寄り添ってくれている。本当にこういう時、心強い友人だ。

テラスに着くと、一番一目に付きにくい場所に座る。それにしても、1年もの間私を無視し続けていたくせに、今更何の話があると言うのかしら?そう思っていると…

「ルーナ、まずは一方的に婚約破棄をした事、そしてこの1年、君につらく当たった事を謝らせてくれ。本当にすまなかった」

深々と頭を下げるエヴァン様。

「謝罪は分かりました。でも、もう過ぎた事ですので、私は気にしておりませんわ。きっと私にも悪いところがあったのでしょう。ですから、もう気にしないで下さい」

そう伝え、その場を去ろうとしたのだが。

「ルーナ、待って。エヴァン様、どうして急にルーナに謝ろうと思ったのですか?あなた様はこの1年、どれだけルーナがあなた様に話しかけても無視してきましたよね。それなのに、どうして今頃?」

確かにエマが言う通り、どうして急に謝ろうと思ったのだろう。エマに促され、一旦席に付いた。

「僕は…騙されていたんだ…あの女に…」

あの女?騙された?一体何を言っているのだろう。
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