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第18話:アペルピスィ王国から使者がやって来ました

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アダム様に全てを話してから、随分と心が軽くなった。あの日以来、お母様に貰ったネックレスもずっと付けている。本当は戸棚にしまおうと思ったのだが、私が戸棚にネックレスをしまう姿を見たアダム様が

「そんなに大切な物なら、ずっと身に着けておいた方がいいんじゃないのかい?」

そうアドバイスをくれたのだ。確かに万が一泥棒が入って盗まれでもしたら大変だものね。アダム様のアドバイス通り、普段は見えない様に服の中にしまっておく事にしたのだ。

心が随分軽くなった私とは裏腹に、あの日以降時折真剣な顔で考え込むことが増えたアダム様。もしかして、私が国家反逆罪で失脚したダィーサウ元公爵家の娘だからかしら?

でも、アダム様はそんな事を気にする人ではないわ。そう言えばアダム様もアペルピスィ王国出身と言っていたわね。それにアペルピスィ王国の王子は、2人共黒髪だと聞いた事がある。

アダム様も黒い髪。名前も…って、王子の名前って何だったかしら?正直覚えていない。駄目だわ、私は何を考えているのかしら?そもそもアペルピスィ王国の王子が、こんなところにいる訳がないわよね。それも大けがをして。

私ったらどうかしているわ。とにかく、結婚式まで後2ヶ月も無いのだ。早くウエディングドレスを完成させないとね。そう思い、ウエディングドレスを仕上げていく。後少しで完成だ。

ふと窓の外を見ると、既に薄暗くなっていた。大変だわ、もうすぐアダム様が帰って来る!急いで食事の準備をする。

「ただいま、フローラ」

アダム様が帰って来た。どうしよう、まだご飯が出来ていないのに。とにかくお出迎えをしないと!そう思い急いで玄関に向かい、そのまま抱き着いた。今日もかなり寒かったようで、体が冷えている。

「お帰りなさい。実はまだご飯が出来ていなくて。少し暖炉の前で待っていて下さいますか?」

「それなら俺も手伝うよ。手を洗ったらすぐに台所に向かうから」

そう言って急いで手を洗いに行ったアダム様。私の誕生日以降、料理を手伝ってくれるアダム様。本当にアダム様は良い旦那様になりそうね。

手を洗い終わったアダム様と一緒に料理を完成させ、2人で食べる。その時だった。

コンコン
誰かがドアを叩いたのだ。こんな時間に誰かが訪ねて来るなんて…それもこんなに雪の多い時期に…

「フローラ、俺が出るから君はここで待っていてくれ」

アダム様も不審に思ったのか、警戒しながら玄関へと向かった。ゆっくりドアを開けると

「殿下、ご無事だったのですね。良かったです!」

物凄い勢いで男性たち4人が部屋に押し入って来た。その瞬間、10年前の記憶が蘇る。恐怖からその場にしゃがみ込んでしまった。

「フローラ、大丈夫かい?おい、フローラが怯えている!人の家に勝手に入って来ないでくれ!」

私を抱きしめ、男性たちを怒鳴りつけるアダム様。1人の男性がゆっくりと私たちの方に近付いて来た。

「あなた様は…まさか…ダィーサウ元公爵家のご令嬢ですか?」

ダィーサウ元公爵家…この人は私の事を知っている!そう思った瞬間咄嗟に

「殺さないで下さい!私はただ、この国でひっそりと生きて来ただけなのです。あなた達の国を、どうこうしようとは考えておりません。どうか、どうかそっとしておいてください」

10年前の光景が頭をよぎり、完全にパニックになってしまった。もしかしたら、ダィーサウ元公爵家の人間が生きていたと知り、私を抹殺しに来たのかもしれない。そう思ったのだ。

「まさかフローラを殺しに来たのか!それなら俺が相手になる!」

アダム様が近くに置いてあったナイフを手に取った時だった。

「いえ…違います!!誤解です!とにかく皆様落ち着いて下さい!私は殿下、あなた様を探しに来ただけです。ふと女性を見たら、ダィーサウ元公爵夫人にあまりにも似ておりましたので、そうかなっと思っただけでございます」

必死に訴える男性。そう言えばこの男性、さっきからアダム様の事を殿下と呼んでいた。まさか…

「アダム様は、アペルピスィ王国の王子様なのですか?」

ポツリとそう問いかけた。

「ああ…俺はアペルピスィ王国で第一王子、アダム・オヴ・アペルピスィ。君から全てを奪った男の息子だ…」

俯きながら苦しそうにそう言ったアダム様。やっぱり…

「アダム様、何となく分かっていましたわ。あなた様はもしかしたら、アペルピスィ王国の王子様ではないのかと…」

元々高貴な身分だと思っていた事、髪の色、それに家の紋章を見てダィーサウ元公爵家の家紋だと言い当てた事。でも…どうしても認めたくなかったのだ…

「フローラ、隠していてごめん。でも話したら、フローラが離れていくのではないかと思ったんだ!俺は王位なんて興味がない!フローラさえいてくれたら、何も要らないんだ」

「アダム様…」

私を見つめるまっすぐな瞳には、嘘偽りなど一切感じない。彼は全てを捨てて、私の側にいてくれようとしていたのだろう。

「コホン。お取込み中の所恐れ入りますが、私にも話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

割って入って来たのは、さっきの男性だ。

「君たちも聞いていただろう?俺はもう王宮には戻らない。そもそも、俺がいなくなってハリソンが次の王太子、ダリアがハリソンの婚約者で話は付いているのだろう?それならそれでいい。とにかく帰ってくれ!」

そう言って男性たちを追い返そうとするアダム様。

「お待ちください、アダム様!私は彼らの話を聞きたいです。それに私があなたを発見した時、命に関わるほどの大けがをしておりました。一体アダム様の身に何が起こったのですか?」

あの日のアダム様は絶望に満ちていた。王太子でもあるアダム様が、どうしてあんな目をしていたのか知りたかったのだ。

「分かったよ、あの日何が起こったのか話をしよう」

そう言うと私を椅子に座らせたアダム様は、ゆっくりと話し始めたのであった。
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