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8話/12話

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「ちょっと、その姿でどこへ行くのよ勇者!? 国への報告は!?」
「そういうのは真面目な聖女に任せるよ。それじゃあ、元気でね」

 状況の確認がひと通り終わると、ローランドは旅の仲間である剣士の男と共に消えてしまった。しかも剣士の太腕に自分の腕を回しながら。恋する乙女のようにウットリとした表情を浮かべていたし、あれは完全にメスの顔だった。


「まぁ、アイツ……前からそのケがあったしなぁ」

 そう、実はこの勇者は元々、男が好きだったのだ。
 旅の道中でも、しょっちゅう私に隠れてイチャイチャしていたし。
 まぁ私も過酷な旅の清涼剤として楽し……息抜きだと思って見逃していたのよね。

「だけど本気で駆け落ちしちゃうなんて……」

 本来なら、魔王討伐のあとは私と勇者で結ばれる予定だった。
 それが国王の命令だったし、英雄の血を次代に残すのが重要な役目でもあったから。


「どうしよう。みんなから、なんて言われるか……」

 取り敢えず、私は国に帰ろう。
 まったくもう、どうしてこうなっちゃったんだか。
 魔王が消え、魔物や仲間の居なくなった独りぼっちの帰り道を、私は溜め息交じりに歩いた。

 ――そして。

「なんということだ、聖女よ」
「それでは子孫を残す役目が果たせないではないか」

 帰国後すぐに呪いについて王や教会のトップに報告すると、私はカンカンに怒られた。

 魔王討伐という最大の役目は果たしたんだから、もう少し労ってくれてもいいのに。私だってこんなことにならなければ、旅のあとは悠々自適にグータラな生活を送る算段だったんだからね。


「聖女よ。悪いがこの事実を世に伝えることはできん。お主は辺境にある教会で、残りの生涯をひっそりと暮らせ」

 この呪いについては王や教会のトップだけが知ることとなり、緘口令かんこうれいが敷かれた。聖女は魔王討伐で勇者共々深手を負い、地方の教会で静養しているということになったのだ。

 よって本来なら開催されるはずだった凱旋パレードも中止。世界が平和になったにもかかわらず、私たちが表に出ることは一切なかったから、二人とも戦死したのではと噂が出るほどだった。


「魔王の奴~! ほんっとに厄介な呪いを掛けてくれたわね」

 偉い人たちの命令に逆らうこともできず、私は言われたとおり辺境にある教会へと向かうことになった。

 嫁に行っても聖女の血を残せないのだから仕方がない。だったら日中に致せと言われたらそれまでなのだが、なにせ1日の半分がオッサンなのである。どうしたってそっちの姿が脳裏に浮かんで、立つモノも立たなくなってしまうと言われた。


「嫁とベッドに入ったらオジサンになってた……なんて許されるわけも無いし」

 結果的に見れば魔王の思惑通りである。
 運が良ければ勇者(美少女)が子孫を残すかもしれないが、肝心のソイツは行方不明。しかも日中は美少女に変身中なので余計に探しにくい。

「でもまぁ、国のお金で死ぬまで暮らせるんならまぁいっか」

 聖女だとバレるとマズいので、日中は教会の懺悔ざんげ室で働くことになった。

 相手も自分も顔を直接会わせることも無いので、板越しに相談に乗っていればいいのは都合が良かった。こんな辺境ではそこまで熱心な信徒も居ないし、ほとんどの時間は本を読みながらまったりと暮らしていた。
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