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第5話 美人姉妹と始める同居生活

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 大木姉妹が住むにあたって、必要な物資は追々揃えていくことになった。

 高校二年生の美結は年頃の女の子だし、いろいろと物入りだろう。俺の家に向かう道すがら、取り合えず街のスーパーで買い出しを済ませることにする。


 とは言っても、男の俺には女性のことなんてまるで分からない。だからほとんど買い物は優花任せだ。ただ、それでも問題があったわけで――。


「わ、分かったよ……そんな捨てられた子猫みたいな顔で俺を見るなって」

 煙草でも吸いながら車で待機していようとしたら、美結が目を潤ませながら俺を見つめてきたのだ。どうやらこの姉妹、金欠過ぎて満足に買い物もできないらしい。

 しょうがないので俺が金を出してやることにしたのだが、今度は優花が罪悪感で涙目になってしまった。

 挙句の果てに、姉妹でお金を受け取るかどうかのケンカが勃発。優花の給料から前借りするという形にして、半ば無理やり万札を握らせたのだが……。


「やりましたよ、ユッキーお兄さん! 合い挽き肉の大量パックが半額! これでハンバーグがたくさん作れますよ!」

「こら、美結。駐車場で大声を出さないの!」

 一時間近く待っても帰ってこないので、心配になって様子を見に行こうとしたらこの有様である。美結ちゃんは満面の笑みを浮かべながら、両手に大量のエコバッグを持って帰ってきた。

 ちなみに俺が姉妹に渡したのは二万円だったはずだ。その金額で、一体どれだけの量を買ってきたんだろうな?


「おい、美結ちゃんや?」

「はい、何ですか?」

「これでパーティでも開く気なのかな?」

 俺はパンパンに膨れ上がったエコバッグを一つ開けてみる。するとそこには、これまた大量に詰め込まれたキャベツ、玉ねぎ、ニンジンなどの野菜類が入っていた。


「えっと、それはですね……」

「……」

 指摘を受けた美結ちゃんは、バツが悪そうに視線を逸らす。


「ほ、本当はもっと安く済むはずだったんですよ! なのに美結ったら、特売品だからって調子に……」

「なっ!? お姉ちゃんだって、大はしゃぎでタイムセールのお魚をカゴに入れてたじゃん!!」

「うっ……で、でも私が選んだのは干物だもん! 冷凍すればずっと長持ちするでしょう!?」

 荷物を持ったまま、俺の目の前で二人は言い争いを始めてしまう。確かにタイムセールは、つい夢中になっちゃうよなぁ。

 でもな、限度ってものがあるだろう? 俺も一人暮らしをしているから、これが買い過ぎだってことは容易に想像がつく。


「おいおい。三人分だとしても、軽く二週間分はあるじゃねーか。まさか渡した金を全部、食料品に使っちまったんじゃないだろうな?」

「あ、あはは……」

「ごめんなさい、小仏さん」

 ジト目で睨むと、さすがにやり過ぎたと自覚したのか、大木姉妹は素直に頭を下げた。


「はぁ……まあいいや。次からは気をつけろよ」

「はい! 分かりました」

「了解でーす!」

 うん、立ち直りが早いのはいいことだ。……が。なんだか不安だな。次回は俺が同行して、財布の紐を固く結んでおく必要がありそうだ。



「ふぅ、やっと着いたか」

「疲れました~」

 色々あったが、ようやく我が家へと帰ってくることができた。荷物を家の中に置くと、大木姉妹はリビングのソファーの上でぐったりと伸びていた。

 くつろぐは全く構わない。だが二人とも、スカートの裾を気にしないのはどうかと思うぞ?


「あ、見てお姉ちゃん! 今週発売の漫画があるよ!」

「キャー!! こっちには新作のゲームもあるわ! 私、過去作からずっとやってたの!」

 二人のテンションが上がり始める。やっぱり女子といったところか、娯楽用品を見ると自然と気持ちが高ぶるらしい。


「その辺にある物は好きに使ってもらって構わないが、あんまり散らかすなよ?」

 買い物の件もある。念の為、俺は二人に釘を刺しておく。


「分かってますって!」

「任せてください!」

 しかし、彼女達の耳にはあまり届いていないようだった。まぁ下手に緊張されるよりかは良いか。

 部屋の片付けがあるから、適当に休んでいるよう二人に告げると、俺はリビングを後にした。


「――にしても、案外馴染むのが早かったな」

 一通り生活できる環境を整えてからリビングに戻ってくると、彼女たちはテレビの前で仲良く居眠りをしていた。

 遊び疲れたのか、それとも気疲れしたのか。あまりにも無防備すぎて、見ているこちらの方がハラハラしてしまう。

 ……今後は俺がこの姉妹の保護者代わりになるわけだが、果たして大丈夫だろうか? 


「まぁ、なんとかなるだろ……それよりも、そろそろ晩飯の準備に取り掛からなきゃだな」

 気付けば窓の外は真っ暗になっていた。時計を見ればもう夜の7時をとうに過ぎている。明日も仕事があるし、さっさと作らねば。


「アタシも手伝うよ~! 料理なら得意だしね♪」

 俺がキッチンに向かおうとすると、背後から声が聞こえてきた。振り返ると、そこにはエプロン姿の美結ちゃんが立っていた。


「ん? 悪い、起こしちまったか?」

「ううん、ユッキーお兄さんのことを待ってたの」

「俺のことを?」

「そう、お腹ペコペコで待てなかったから」

 グゥという可愛らしい音が鳴り、美結は少し恥ずかしげにお腹を押さえた。それがなんだかおかしくて、俺の口元が思わず緩んでしまう。

 本当にこの子は、姉と違って素直で人懐っこい性格をしているようだ。


「分かった。じゃあ一緒に作るか。何が食べたい?」

「やったー! アタシ、チーズが入ったハンバーグが食べたいです!」

 美結は両手を上げて喜んだあとで、期待の眼差しを向けてくる。

 まるで子供のような純粋さに、思わず頬が緩んでしまう。それにしても、なんというか……。

「(なんだか、妹ができたみたいだな)」

 そんなことを思いながら、俺は冷蔵庫から必要な材料を取り出していく。


「あ、あれ? すみません、いつの間にか寝ちゃってたみたいで……」

 キッチンが騒がしかったのか、隣のリビングで寝ていた優花まで起きてきた。まだ眠気が覚めないのか、目を擦りながら欠伸をしている。


「あぁ、いいよいいよ。今日は色々あったんだから、ゆっくり休んどけ」

「いえいえ、そんなわけには!」

「やめときなよ! お姉ちゃんが料理なんてしたら、せっかくの食材が駄目になっちゃう!」

 両腕でバッテンを作りながら、姉をキッチンから追い出そうとする美結ちゃん。そこまで言わんでも、と俺は優花をフォローしたのだが……。


「お姉ちゃんは致命的に料理ができないの。だから家ではアタシがいつもやっていたんですよ!」

 ――だそうだ。優花もその自覚があるのか、口をワナワナと震わせていたが、やがて観念したのか大人しく引き下がった。

 しょんぼりと肩を落とし、恨めしそうに俺たちを見つめる優花。その姿があまりにも可哀想だったので、俺は彼女にお風呂に入るよう背中を押しておいた。


「さてと、じゃあ作っていくか」

 まずは下準備だ。ひき肉をボウルに入れてよく練り合わせる。そしてそこにパン粉や卵を入れ、さらに混ぜていく。


「――よし、こんなもんかな」

「わー、美味しそう!」

「こらこら、つまみ食いをするんじゃないぞ?」

「えへへ、バレたかー。って、生肉を食べるわけがないじゃん!」

 本当にノリがいいなこの子。本当にあの優花の妹なのか?


「はい、玉ねぎを炒めておいたから使ってね!」

「おぉ~、気が利くね! 助かるよ……ってすごく丁寧に処理されてるし」

 美結ちゃんが手渡してくれたボウルには、下準備がされた玉ねぎが入っていた。同じ大きさでみじん切りがされているおかげで、均等に熱が通っている。

 彼女が普段から料理をしていたっていうのは本当だったみたいだ。俺はそれを練ったひき肉と混ぜ、ハンバーグの種を作る。


「あとはチーズを挟んで焼くだけだが……アイツはもう風呂から上がったかな?」

「たぶん部屋に戻ってると思いますよ。残りはアタシがやっておくので、ユッキーお兄さんはお姉ちゃんの様子を見てきてくれますか?」

「了解」

 べ、別に覗きたいとかやましい気持ちは無いぞ!?

 初めての家で勝手が分からないだろうし、俺が行った方が良いと判断しただけだ。

 俺は美結ちゃんに言われた通り、キッチンを出て優花の元へと向かった。


「おーい、メシの準備ができたぞ……って、アイツはどこにいったんだ?」

 風呂の電気が消えていることを確認してから部屋に向かったのだが、そこに優花の姿は無かった。


「なんだ? トイレにでも行ったのか?」

 仕方なく家の中を探し歩いていると、なぜか俺の部屋から光が漏れていることに気付いた。おかしいな、扉を閉め忘れたかな……。


 ドアノブに手を伸ばすと、部屋の中に人影が見えた。

 まさかとは思うが、泥棒とかじゃないよな? 俺は恐る恐る中の様子を窺う。


 ――するとそこには、バスタオルをまとった優花の姿があった。
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