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10 神様の演奏会

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 ホームグラウンドという死の陸上十種競技を終え、俺はタイタンの指揮棒を手に入れた。
 今の俺なら、目を瞑ったって金メダルを取れる気がする。

 調子に乗って何度もやっていたら、気付いたらゼウスポイントも五万ポイントも溜まっていた。これだけあれば今日の昼食は豪華にいけるな。


「さて、苦労してゲットしたこの指揮棒だが……」
「はい!! さっそく試してみましょう、ナユタ様!!」


 オーケストラの指揮者のように、俺は指揮棒を構え……


「……どうしたらいいんだ、コレ?」
「ナユタ様、そういうのは先に聞いてくださいません? テンポが悪くなるんですよ、こういうのは」
「すみません……」


 そう言われても、学校の合唱コンクールとかでしか実際に見たことが無いんだ。
 棒を持って適当にブンブン振るだけじゃダメ? やっぱりダメだよな……。


「本当に音楽のリズムに乗ってやるわけじゃありません。大事なのは創造する『イメージ』ですよ!!」
「いめーじ??」
「イメージです!!」


 アイいわく、起こしたい現象を思い描きながら、この棒で指揮をすればいいらしい。


「とはいえ、最初は雰囲気が大事ですね。分かりました。私が一曲弾きますから、それに合わせてこの辺りの土地を平らにしてみてください」
「え? 弾くって……どっから出てきたの、そのヴァイオリン」


 アイはメイド服のスカートに手を突っ込むと、そこから一ちょうのヴァイオリンを取り出した。
 相変わらずの異次元な空間となっているが……アイはニッコリと笑って誤魔化している。たぶん、触れてはイケナイ部分なのだろう。


「では、僭越ながらコンマスを私が務めさせていただきます。ナユタ様は何となくで良いので、イメージだけはしっかりと持って指揮棒を振ってくださいませ」
「なぁ、コンマス……ってなんだ?」
「コンサートマスターの略です。今回で言えば、指揮者の代わりみたいなものですね」
「そ、そうなのか。分かった、やってみるよ」


 アイを創造した時に俺の知識を吸収したとか言っていたけど、俺なんかの頭脳はとっくに越えている気がする。俺も知らなかった地球の知識に加えて、この星の事やゼウスメーカーといった神のことまで知り尽くしている。

 まぁアシスタントとしてはこれ以上ないほどの有能なので、俺としては非常に助かっているのだが。……あれ? 俺が神にならなくてもコイツがなればいいんじゃないか?


「ナユタ様?」
「あ、あぁ。すまない……では、いくぞ」


 たぶん、アイなりの理由があるのだろう。とにかく、今はこの二人だけの演奏会を始めるとしよう。


『~♪』

「……すげぇな」


 たった一音だけで、アイの演奏技術の素晴らしさを理解してしまった。
 指揮棒を持つ俺の手が、彼女の演奏するメロディーに乗って勝手に動き出す。
 ゆったりとした旋律、それでいて心に響くような重厚な音たちがとても気持ちいい。


「っと、イメージだったな。まずはフラットにする感じで……」


 そう思った時には、アイの演奏も少し変わって来た。
 まるで春の長閑な青々とした平原で、お弁当を持ってピクニックに来たような優しい曲調。

 色とりどりの花が咲き、蝶が楽しそうに舞い踊る。川のせせらぎが聴こえ、太陽の暖かな日差しを浴びながら原っぱに寝そべるような……。


「ナユタ様、さすがです。思い描いたイメージの通りになりましたね?」
「え……?」


 いつの間にか目を瞑ったまま夢中で指揮棒を振っていたようだった。

 アイに声を掛けられ、目を開ける。
 そこには、まさに想像した通りの美しい平原が広がっていた。



「うーん。さすがにこれは、アイに誘導されただけな気がするんだけど」


 俺はただ、ほぼ無意識にイメージしただけだしなぁ。
 地面を均すだけのつもりが、まさかここまで緑豊かな大地になるだなんて思ってもいなかったし。

 だけどアイは俺の腕をとって、すごいすごいとブンブンと振って喜んでいる。一緒にアイの胸もたゆんたゆんと……あっ、睨まれた。


「違いますよ? これは私の演奏にインスピレーションを得て、ナユタ様が創造したのです。ですから私はあくまでもイメージのサポートをしただけですよ」


 逆再生のようにヴァイオリンを再びメイド服のスカートの中へと収納しながら、アイはつとめて冷静な声でそう言った。この子は凄く俺を褒めてくれるんだが、甘やかされ過ぎてこのまま俺はダメな人間になりそうだ。

 いやいや、ここはちゃんと自律せねば。
 俺にはこの世界をマトモに暮らせる環境にするっつー、使命があるのだから。


「ふふふ。そういう謙虚なところ、私は大好きですよ?」
「あんまり煽てるなよ。ここにはまだ登る木なんて無いんだからな」


 神でも煽てりゃ天に昇るってな。


 ともかく、これで大地の作り方は何となく分かった。
 あとはこれを広げていく作業が必要なんだが……。

 この果てしない大地を俺ひとりで耕さなきゃならんのか!?


「いえ、そこは安心してください。ナユタ様の神レベルと世界レベルが上がればゼウスメーカーの拡張機能が使えるようになりますので」
「拡張機能?」
「はい。神の瞳ゴッドアイズというマップアプリを開いてください」


 ふむふむ、神の瞳か。それじゃあ、言われたとおりにやってみよう。
 スマホを開き、ゼウスメーカーの中にある内部アプリを起動する。

 この星の球体を眼球に見立てたロード画面が終わり、クルクルと回る地球儀みたいな映像が始まった。


「その回っているのが、今私たちが居るこの星の全体マップです」
「へぇ……こうしてみると、本当に地球みたいだな」


 青い海の中に陸地があり、ゆっくりと自転している。

 ただし地球と違うのは、大陸が一つしかないということ。島もいくつか点在しているが、大きな陸地は赤道上にあるものしかなかった。
 といってもこの大陸は本当に広すぎて、端から端まで行くとしたらどれだけの時間を要するかも想像できない。



「その星に刺さっているピンが、今私たちが居る現在地です。そこをタップしてみてください」
「お、大陸の右端にいるのか……よし、タップしたぞ」


 ピンを叩くと、マップがギュイーンと一気に拡大され、マス目が振られた海岸線のマップが表示された。

 確かに海岸の形が今俺たちが居る場所と一緒だ。なにより、一か所だけ緑色になっている。これがさっき俺が平原にした区域だろう。


「右上にスタンプのマークがありますよね? そのアイコンでコピーアンドペーストができます。試しにやってみますか?」
「おう、やってみる!」


 ペッタンペッタンするハンコみたいなマークを選択し、コピー元となる平原がある緑のマスをタップする。

 するとスタンプが緑色になった。
 多分これでコピーだな。次はペーストをしよう。



「取り敢えず隣りのマスにしてみるか……ペーストっと」


 隣接するマスをタップした途端、茶色かったマスが緑に変わった。



「おお……コレは便利だな!!」
「そうでしょう、そうでしょう??」


 スマホから大地に視線を移すと、そこには最初に作ったのと同じ草原が更に倍になって広がっていた。コピペは上手くいったらしい。


「これがあれば、大陸中を一面の花畑にすることも出来そうだな!!」
「えっ、ナユタ様!?」


 調子に乗った俺は、猛スピードでペタペタ、ペタペタと緑の平原を拡張していく。
 どんどん緑になっていく大地。

 ふふふ、やっとこの神の力の凄さが楽しくなってきたぞ。


「……あれ? コピペが出来なくなったぞ。やり過ぎて壊れたか?」


 と思ったら、いくら茶色のマスをタップしても緑にならなくなってしまった。……なんでだ?

 理由を聞こうと思ってアイを見ると、まるでゴミでも見るかのようなジト目でこちらを見つめていた。


「え……あの、アイ……さん?」
「ナユタ様。私は貴方様は賢い、と思っておりましたが、どうやら調子に乗るとオバカになってしまうようですね」
「え? え??」


 少し冷静になってスマホの画面を見てみると、さっきまであったはずのゼウスポイントがゼロになっていた。あ、あれ? おかしいな??


「おかしいな、じゃありませんよ!! どうしてくれるんですか、ナユタ様! 五万ポイントが! 私のお昼が買えなくなっちゃったじゃありませんかぁ!!」
「あっ……」


 えっと、つまりこのコピペにもゼウスポイントが必要だったわけ……なのか?


「当たり前です!! 水源のエネルギーも、環境の維持だってゼウスポイントが必要だって言ったじゃないですか! 基本的にどの機能にも使われるって少し考えれば分かるじゃないですかぁ! なんで!! 一面お花畑にしちゃったんですか! 頭の中までお花畑なんですか!! もうっ!!」
「し、しまったぁああ!!!!」


 アイに言われていた注意事項を、すっかり忘れてしまっていた。
 これではまた俺は生命維持すらままならなくなってしまう。


「す、すまんアイ……また頑張って貯めるから……!!」
「はやく!! 働いてきてください!!」


 まるで大事な預金をギャンブルに使いこんでしまったダメ夫のように俺はペコペコと謝ると、再び陸上競技場へと走って向かうのだった。




 ◇現在のデータ◇
 日付:二日目

 神レベル:Ⅱ
 世界レベル:Ⅱ
 身体データ:身体能力レベルⅣ
 環境:デフォルトモード(二六℃、晴れ、空気正常)【残り二九日】
 設備:噴水型水源(停止中)
 人:アイ
 所持物:スマホ、スーツ、買い物袋、鞄
 ゼウスポイント:五〇〇〇〇→〇pt


 To_be_continued....





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