生贄の姫と黄昏の国

宵待 ふた

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Episode.1 目覚めた先

◇11

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「──それでお嬢さんは、海から落ちることになった、と」
「はい。ですから、王国の方は私を死んだものとしているはずです」
「…お姫様に…そんな壮絶なことが……」
「……」

ティアシェの「姫ではない」宣言を受けたセラは、どういう事かと狼狽えながらも彼女の世話をし、その後の夕食を取る為にシュバルツとフィズが集まった場で、セラが説明を求めた。

そしてかくかくしかじか、自分の生い立ちやこれまでの事を所々端折りながら説明をしたのである。

因みに上の会話は、フィス、ティアシェ、セラ、シュバルツの順番である。セラは目元を赤くし涙ぐみ、フィスは難しい顔、シュバルツは変わらず無表情だったが、時折ピクリと眉が動いた。

「ルシフェンと言えば、十一年前に女王が亡くなって政治の主権が王に変わってからというもの、どうも司教が出しゃばっていましたからね。それのせいかもしれませんね」
「そんな事になってるんじゃ、近い内にコトが起こりますかねぇ」

はぁ、とフィスとセラが溜息を吐く。そこで、これまでずっと無言だったシュバルツがぽつりと零す。

「すでに起きている」
「「え」」
「先程、黒竜から伝えられた。平民達が反乱を起こしているらしい」

フィスが若干慌てた様子で使用人を呼び、指示を飛ばす。一瞬場が騒然とするが、すぐに落ち着きを取り戻した。
その間、ティアシェは思考の世界に沈んでいた。十一年前に女王が亡くなっていたなんて、知りもしなかった。

…そういえば、その前後だっただろうか。メアリが、外の世界へと連れ出そうとしてくれたのは。

__メアリもアマーリエも、今はどこで、何をしているのでしょう。

反乱。それはきっと、平和的なものではないのだろう。血が流れ、武器や怒号が飛び交う、良くないもののはず。
そんな中で、あの二人は暮らしているのだろうか。
……それとも、もう。

そこで、意識がふと違うものに移る。視線を感じたのだ。
落としていた顔を上げると、シュバルツがこちらを見ていた。深紅の瞳と視線が交わる。

「気になるか」

端的に問われ、首を傾げる。

「世話になっていたという二人の行方が、気になるか」

その言葉に、ティアシェは軽く目を見開く。まるで、心を読んでいたかのような発言だったからである。
彼女の表情を見て、シュバルツは目を細めた。

「調べておこう」

その声色は決して不機嫌なものではなく、どこか優しさが隠れているような気がした。
そんな彼に、ティアシェはまた小さく礼を述べたのだった。
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