生贄の姫と黄昏の国

宵待 ふた

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Episode.1 目覚めた先

◇10

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結局、どちらも何も話すことなく城に着いた。
乗っていた黒竜にお礼を告げ、飛び去るのを見送るとティアシェはまたシュバルツに抱き上げられる。

どうやら、城の中もこれで移動するつもりらしい。

流石に、これは不味いのではなかろうか。
そう思って、後ろにいるフィスを見るが苦笑いで返された。

どうやらこのまま、らしい。

めげずにセラの方にも視線を向けてみる。
なぜか親指を立てて、にこにこされた。
「最高です」との事。何がでしょう?と疑問に思うものの、それ以上何を言うでもなくただ明るく笑っているだけだった。

……どうやらこのまま、らしい。

その間もシュバルツはティアシェを抱き上げたまま進んでおり、城の中にいる使用人達に驚きの目を向けられる。
大勢の視線に晒された事が無かった彼女は、使用人とすれ違うたびに身を固くし、そして視線を浴びてもピクリとも表情を変えないシュバルツを見上げ、力を緩めるを繰り返す。

ごくたまに、背中に回った手が彼女を宥める様にふわりと動くので、次第に身体の力は抜けていった。

「陛下、この後なんですけど…」

大勢の視線に慣れてきた頃、後ろにいたフィスが声を掛けてきた。歩きながら次の予定や時間をフィスがサラサラと説明していく。
シュバルツがそれに一言二言返すと、フィスは「そのように」と締めくくり、何かの準備をするのか慌ただしく去っていった。

フィスが立ち去ると、シュバルツは歩みを止めティアシェを静かに降ろした。

「ここがお前の部屋になる。何かあれば言って欲しい」
「私の部屋、ですか」
「そうだ。……服は用意してある。着替えてくると良い」

ソレよりは動きやすいものを幾つか頼んでおいた、と。

その言葉に自分の格好を見下ろして、頷いた。
海に落ちた時のドレスのままである。まだ本調子ではない現在、少し動きにくいと感じるものだ。

こんなに世話になっていいのだろうか。

頷いたはいいものの不安になったが、着替えて来いと言った本人は用が済んだとばかりに自分の部屋へ戻ってしまっている。

「それじゃあ、お部屋を案内させていただきますね。あ、着替えもお手伝いします!」
「…えぇ、お願いします」

にぱっと笑って、いつの間にか近くに立っていたセラは元気よくティアシェを案内した。
ぴょこぴょこと歩く彼女はどうやら喋ることが好きなようで、お姫様、お姫様、と沢山話してくる。
それにティアシェは相槌を打ちながら、セラの話に耳を傾けた。

「──ってことがあったんです。どう思いますお姫様、ふふっ、面白いでしょっ?」
「…セラ様、あの、」
「はい!何でしょう?」
「私の事はティアシェと、呼んで頂いて構いません。私はもう、あの国の姫ではないのです」
「……へ?」

目を丸くしたセラに、ティアシェはやっと言えた、と小さく息を吐いた。
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