勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
232 / 885
第五章 破滅を招くもの

337 迷宮跡~最悪?との遭遇~

しおりを挟む
 ほとんど人の背丈ほどもある草を倒して道を作りながら進む。
 気ばかり焦るが、奥歯を噛み締めて気持ちを落ち着かせた。
 本来は迷宮跡だから魔力がないはずの場所だが、現在ここはドラゴンの魔力で満ちている。
 何か理由があるのか、砂浴び場で感じたほどの濃密さはないが、全身が地面に押し付けられるような圧迫感が常に押し寄せて来ていた。
 倒した草を踏みつけていると、ズルズルと足元で何かが動く感触があり、ぱっと飛び退く。
 見ると黄緑色のツタがまるで蛇のようにゆっくりと動いている。植物の魔物だろう。
 幸いなことに俺たちを獲物と見定めた訳ではないらしい。
 聖女の魔法が効果を発揮しているようだ。
 振動を感じて獲物を探してツルを伸ばして来たと思われた。
 感覚で動いているなら絡みついて来る可能性がある。切っておいたほうがいい。
 俺は「星降りの剣」を抜くと、すっぱりとそのツタを切断した。

「大丈夫か?」

 止まったついでに後ろの様子を確認する。
 メルリルは平気そうでにこっと笑ってくれたが、勇者から後ろはすでに辛そうだ。
 歩きにくい上に周囲は見えないし、その上ドラゴンの魔力がプレッシャーとしてのしかかって来るのだから仕方のない話だろう。

「師匠が草を倒してくれるから楽だ」

 勇者が汗を拭きながら言った。
 全員まだ体力はありそうだ。
 メルリルは寸前までは真っ青になって震えていたが、周囲を草で囲まれると顔色がよくなって元気になった。

「ドラゴンの魔力があるのでたいしたことは出来ないけど、ダスターが触れた草に道を開けるようにお願いしてみる?」
「目立ったりしないか?」
精霊メイスは自然な存在だから特に気にされることはないの」
「頼む」
「はい。ごめんなさい。もっと早く思いつけばよかった」
「いや、ドラゴンの気に当てられていたんだろ。だいぶ回復してくれただけでもありがたい」

 俺の言葉に自分が担がれていたのを思い出したのか、ちょっと恥ずかしそうな顔をしたが、すぐにかすかな声で唄を口ずさむ。
 すると、俺が行きたいと思って手を触れた草が自然にぺしゃりと倒れた。
 これはありがたいな。
 楽になった分進む速度が上がる。
 と、ドドドドドドと、地面が揺れた。

「ち、まずい。魔物の群れだ。ミュリア、守護の壁を作ってくれ」
「はい。神と愛し子に堅牢なるゆりかごを」

 聖女の魔法が半ドーム状の目に見えない壁を作る。
 壁が完成した瞬間、俺の背丈の倍ぐらい、いや、もっとありそうな大角の群れが現れた。
 俺たちなど目にも止めずに走り抜けて行く。
 聖女の作った守護の壁に押しのけられた大角は不思議そうな顔をしながらも、壁を避けて先へと進む。
 地面が上下に激しく揺れて立っていられない。

「ぐっ、障壁が間に合わなかったら潰されていたぞ。さすが師匠」

 勇者が蒼白な顔で群れの移動を見送る。
 
「ミュリアがいなければどうにもならなかったな」

 俺の手柄じゃなくって聖女のおかげだぞ、聖女を褒めろ。
 しかし、この大角でかいな。
 そうだ、大角と言えば、勇者たちが死にかけた原因だったな。
 そして白いドラゴンのあの日のご飯か。
 少し思い出して思わず笑いがこぼれる。

「どうしたの?」

 メルリルが不思議そうに俺の顔を見た。

「いや、ちょっと思い出してな。……ん、振動が減って来たな。そろそろ終わるか」

 地面の振動が収まり、周囲の草全てをなぎ倒して大角の群れが通り過ぎて行った。
 おかげですっかり見晴らしがよくなってしまった。
 草漕ぎをしなくてよくなったのはいいが、目立つ。
 認識されにくいとわかってはいるが、障害物のないところを移動するのは精神的にキツイ。
 聖女の張った障壁を解除してもらって急いで移動する。
 大人数人で囲んでやっと幹全部を囲えるぐらい大きな巨木が生えている場所を目指して移動していると、大角の群れの後ろからのっそりと、大きな猫のような魔物が姿を現した。
 あ、顔が猛禽類だ。
 
「うへぇ、グリフォンだ」
「グリフォン?」
「ああっと、この大陸にはいないとされている魔物だ。南のほうにある大きな火山島にいるという与太話だったんだがな。いるんだなぁ」

 ここに来て、冒険者の与太話が現実であることを二つも確かめることになった。
 正直知らないままでいたかったな。
 勇者はポカーンと口を開いてその魔物を見た。

「なかなか強そうだな」
「まぁ強いんじゃないか? ドラゴンよりは弱いんだろうけどな」

 おそらくはドラゴンが南の島から持って来たんだろうが、どんでもないな。
 下手すると元の迷宮よりも危険な場所になっていないか、ここ。
 そのグリフォンはイライラしたように地面を掻いていた。
 そして周囲をギョロギョロと見回す。
 ふと、俺たちのほうへと視線を向けて、何かを考えるように首をかしげる。
 背中がすっと冷たくなった。
 もし見つかったらこいつと戦う羽目になる。
 そうすると当然俺たちの存在は露見して、下手するとドラゴンを呼び寄せてしまうのだ。
 冗談ではない。
 俺たちは彫像にでもなったように巨木の影で固まる。
 グリフォンはしばし空中の匂いを嗅ぐような様子を見せていたが、やがて諦めたのか大角が向かった方へ走り出した。
 ふうっと、大きな息を吐く。
 木の皮に張り付いたような指を外して、先へ進もうと後ろを向いた。

「キャウ!」
「キュウ?」
「ギャウン?」
「ピャ?」

 なんかいる。
 デカイが、本来の姿を考えると小さい?

「し、師匠、フォルテが話しかけている相手……」
「言うな、現実を認めたくない」
「ドラゴンですね」

 せっかく勇者の言葉を遮ったのに、聖女があっさりと暴露してしまう。
 ああ、厄介ごとだ。
 というか、フォルテなにやってんだよ。
 そこにいたのは濡れた若葉のような色をしたドラゴンの子どもだった。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。