勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
463 / 885
第六章 その祈り、届かなくとも……

568 騎士団との合流

しおりを挟む
 さて、どこかへと行ってしまった若葉をいつまでも気にしてはいられない。
 俺たちの目が届かない場所に行ったとしても人間を襲うことはないだろうと思えるぐらいには信頼もある。
 まぁこのまま家まで帰ってくれると一番ありがたいんだがな。

 大物を倒した俺たちは、まずメルリルの結界を解除して、魔物が集中している場所を探ってもらった。
 魔物というよりも移動する魔力濃度の高い場所だ。

「ダスター、魔物は無秩序に森から出ている訳ではないみたい。同じ方向に向かってる」
「ということはその方向に何かがあるということか」
「そう、思う。風の精霊メイスでは魔力の流れしかわからないから詳しくはなんとも言えないけど」

 メルリルに方向とだいたいの距離を教えてもらい、(残念ながら距離は風の感覚と人間の感覚では違いすぎてわからなかった)その場所をフォルテに探ってもらうことにした。

「とりあえずはミュリアたちと合流だな」

 勇者の言葉にうなずいた。
 大物二体は倒したものの、小物の魔物まだまだ森から溢れている。
 倒せるものは倒しながら聖女の結界に辿り着く。

 聖女の結界は目で見えるものではないが、魔力を見ようとすると、空中に不思議な文様が浮かんでいるのが確認出来る。
 結界のなかでは先ほどの騎士たちが隊を二つに分けて、一隊が周囲の魔物と戦っている間、もう一隊が休憩して、一定の時間が経ったら交代するという感じで戦いを続けているようだった。
 すっかり長期戦の構えだ。

 よくよく見れば、騎士団の頑張っていた場所は、メルリルが確認してくれた魔物が向かっている場所と森の中間地点であり、魔物の足止めには効果的なポイントと言えた。
 早々にこのポイントを確認して陣取ったのなら指揮官はなかなか優秀なのではないだろうか。

「無事か、ミュリア」
「勇者さま!」

 勇者の呼びかけに聖女が嬉しそうに答える。
 うん、まだあまり疲弊はしていないな。
 むしろ聖女の隣で周囲の騎士たちににらみをきかせているモンクのほうがちょっとお疲れのようだ。

「おおっ! 勇者さまだ! 我らの救世主よ!」
「やった! これで助かるぞ!」

 などと騎士たちから歓声が上がる。

「お前たち気を抜くな! 小物と言えども魔物が一匹でも民の居住する街へと入れば被害は甚大なるぞ! 戦え!」
「はっ!」

 指揮官の喝に、一瞬浮足立った騎士たちも自分の役割を果たすべく魔物へと攻撃をしかける。
 具体的には盾で壁を作り、その間から剣や槍を突き出すみたいな戦法だ。
 堅実な戦い方だが、残念ながら人間を想定した戦法なので、跳躍力のある魔物や羽のある魔物は取りこぼしている。

 とはいえ、騎士団の隊長さんらしき人は魔物を人里に絶対入れないみたいに言っているが、人里にひっそりと棲み付いている魔物もいなくはないんだよな。
 そういう魔物が害を及ぼさないように調整するのが冒険者の役割の一つではある。
 人の住む街などではそういった冒険者がこの異常事態に対処していると信じたいところだ。

 勇者は周囲の視線も構わず、騎士団の隊長らしき指揮官のところへと行くと、「事情を話せ」と詰め寄った。
 その指揮官は何やら葛藤の末、口を開く。

「はっ、勇者殿。ことが起こったのは先日の未明のことでした。大森林近くに住まう民が辺境伯の砦の一つに駆け込みまして。森から魔物が溢れたと、ひどい傷でした。本来魔物の処理は我らの仕事ではありもうせぬ。しかも今、我が国は少々難しい事態に陥っておりまして……」

 戦のことは話せないのか言葉を濁す。

「お前たちが大公国に謀られて追い詰められているのは聞いている。続けろ」
「おお、何もかもお見通しでありましたか。……それで、砦の責任者である伯の御子息は、手持ちで動かせる戦力である我ら先遣隊を派遣し、同時に近くの街の冒険者ギルドへと布告を出したのです」
「なるほど。それで、お前たちはここでどのくらい粘っているのだ?」
「はっ、到着してから日が落ち、日が昇るほどに」

 それほど時間が経っても本隊が来ることもなく、冒険者も来ないとなると……。

「おそらく街が襲われているな」

 俺の言葉に勇者に現状を報告していた指揮官が振り向く。
 そして俺の姿に違和感を覚えたのか、顔をしかめた。

「むっ? 貴様、依頼を受けた冒険者か?」
「いえ、俺はその勇者さまの従者です」
「なるほど。よいか、従者は主の話に割り込んではならぬ。勇者さまが慈悲深いお方であるからそのような無礼を放置しているのであろうが、付け上がってはならぬぞ」

 多分この指揮官は悪い人じゃないんだろう。
 いきなり叱責したり殴ったりせずにまずは言葉で諭してくるあたり、寛容な人物なんだなと思った。

「黙れ。し……あの冒険者は経験豊富だ。魔物に関して素人も同然のお前たちがむしろ伏して教えを乞うべき人物なのだぞ」
「これは勇者殿、異なことを! 身分の差というものはこの世界の秩序を保つことわりです。それを軽々しく破ってはなりませぬ。そういった考えは混乱を呼び込むものです」
「はっ、今現在混乱を呼び込んでいるのは貴君の国ではないか。陛下が若年で経験が浅いこの時期こそ、臣下が全力で支えるべきとき。それを内乱を起こし、果ては大国に付け込まれる。おおかた身分の低い者の進言を聞くことも出来ぬぼんくら揃いだったのだろうよ」
「なんと! そのような暴言、いくら勇者殿であろうと聞き捨てなりませぬ!」
「それならどうするのだ? 俺を斬ると? 今がどのようなときであるか頭にないのか? 愚かだな」

 うわああ、勇者が煽りまくっている。
 今そういうときじゃないって、お前自身が言ってるじゃねえか。
 全く仕方ない奴だな。

「勇者さま、ここはお控えを。聖者さまから民を守ることに尽力して欲しいと言われたことをお忘れか? 騎士殿、差し出口申し訳ありませんでした。ですが今は勇者さまのおっしゃったように通常の場面ではありません。民を守ってこその騎士ではありませんか?」
「むう」

 勇者が口を尖らせる。
 そういうところがまだ子どもっぽいって言うんだよ。
 指揮官は俺をぎろりと見たが、やがてうなずいた。

「貴様に言われる筋ではないわ! と、言いたいところではあるが。ここは私が引くべきであろう。確かに緊急のときに平時のことわりで動く者は愚か。勇者殿、申し訳ありませぬ」
「俺ではない。この者、ダスターの言葉に耳を傾けよ。彼はただの冒険者ではない。多くの者を救いし英雄と呼ばれし者だぞ」

 ちょ、お前、いきなり何をぶっこんで来るんだ。
 確かに師匠呼びはしなかったが、それはそれでダメだろうが!
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる

グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。 『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。 2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。  主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。