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第七章 幻の都
638 取引
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久しぶりに英雄殿が俺達の部屋を訪れた。
ファラリア嬢のことだけでなく、例の富国公の後始末で飛び回っていたらしい。
そして何がどうなったのか、その後始末の過程で、ファラリア嬢が英雄殿の正式な補佐官に任命されたとのことだった。
久々の英雄殿はどこか心ここにあらずという雰囲気である。
傍にはぴしっとした服装のファラリア嬢がいた。
ファラリア嬢は黒髪に緑の瞳で、細身ですらっと背が高い。
パッと見るだけでも知的な印象を受ける。
そんな彼女が、男物の服装をしているので、何やら独特の魅力があった。
「正確に言うと男ものではないのです。交渉官の礼服には男性用のものしかないので、それを私に合うように仕立ててもらいました」
そこで言葉を切ってにっこりと笑う。
「私の仕事はエンデさまの苦手な交渉と報告が主になるので、ひと目でそれとわかるようないでたちがいいだろうということになりまして。それと旅をするのにドレスは不自由ですから」
「なるほど、合理的だな」
俺としてはそう言うしかない。
英雄殿が何か夢でも見せられているのでは? というような表情のまま固まっているのを気の毒に思うだけだ。
なに、すぐに慣れるさ。
「それで、この度、こちらに伺ったのは、ご報告もあるのですが、イマルからご事情を聞いたからです」
イマルというのは大公家の次男にして末っ子のことだ。
ずっとここに入り浸っていたのを叱られたんじゃなければいいが。
「こちらをお受け取りください」
「これは?」
ファラリア嬢は、なにやら厳重に封をした書状を手渡して来た。
「幻の都の迷宮探索許可証です」
「おお!」
これはありがたい。
迷宮幻の都の探索許可証は、通常は迷宮のある都市で活動している実績ある冒険者のみに与えられるものだ。
俺としては勇者の立場を使ったごり押しで入るつもりだったが、よけいな摩擦は少ないほうがいい。
ちゃんと手続きが出来るのなら、それに越したことはないのだ。
そして、ファラリア嬢は、次に勇者に直接向き直ると、そばに控えさせていた使用人から大きな箱を受け取って、それをテーブルの上に置く。
「勇者殿にはこれを」
勇者は無言でその箱を開く。
すると、そこには一本の見事なロングソードが収められていた。
柄の装飾も見事だし、鞘も美しい。
それでいて華美な印象はなく、鮮やかな炎のようなイメージの剣だった。
「これは?」
勇者がいぶかしむような声を上げる。
「迷宮の最奥に挑むにしても、剣がないままという訳にはいきませんでしょう? これは、伝説クラスの剣と並べられてしまうと見劣りするかもしれませんが、当代随一の鍛冶師と呼ばれる大地人が鍛えた剣だと聞いています。実はぶっちゃけてしまうと、我が家をつけ狙った前当主から家を引き継いで、現当主となった者からの付け届けなんですけどね。見ていると腹立たしくなるので地下に放り込まれていたものです」
由来を聞いて思わず俺達はファラリア嬢を注視してしまった。
英雄殿が片手で顔を覆う。
「とは言え、剣に罪がある訳ではないので、勇者さまに使っていただけるのなら、私達も憂いがなくなってホッとするのですが。もらっていただけますか?」
お嬢さん、ぶっちゃけすぎです。
しかしなるほど。
名工の手になる剣となれば、小さな砦ぐらいの価値があると聞いたことがある。
そんなものをホイホイ貰う訳にはいかないが、由来を聞けば、大公家の人々が手元に置きたくない気持ちも理解出来た。
つまり遠慮する必要のない品物という訳だ。
勇者は無言で剣を鞘から引き抜いた。
おい、いきなり剣を抜く奴があるか! 警護の兵でもいたら取り押さえられても文句が言えないところだぞ。
「なるほど。いい剣だ。魔法紋に似せた加工がしてあるな」
「まぁ、そうなのですか?」
ファラリア嬢が驚いたように言う。
全然確かめたりしてないんだな。
気持ちはわかるが。
勇者が軽く魔力を込めたのがわかる。
だから、いきなり人の家のなかで魔法を使うな!
勇者の魔力が剣の柄に触れると、渦を巻くように変質した。
瞬時に、剣身が真っ赤に染まる。
「おお……」
英雄殿が息を呑む。
これは、勇者は魔力をそのまま流しただけなのに、炎、いや、熱を発する魔法が発動しているのか?
「この剣があると料理に便利そうだな」
「……勇者」
俺は残念な相手を見る目で勇者を見た。
お前、言うにことかいてそれか。
そもそもお前、料理なんざ作らないだろうが!
「ふふふ。お話に聞いた通り、勇者さまは変わった御方ですね」
ファラリア嬢、素直にバカと言ってくれてもいいんだぞ?
「わかった。もらっておこう。どうせあの愚か者の不祥事に対する口封じだろう? だが、魔物に関することは大聖堂に報告するぞ」
「そのようなことは……もちろん、魔物を利用しようとしたことは、国からも大聖堂に報告させていただきます」
「どうせ政治的なことは勇者や大聖堂の管轄外だから、そっちに任せるしかないんだがな。いい加減に処理するようなら、引っ掻き回してやろうと思っていた」
「ふふっ、そのおっしゃりようだと、お任せくださるおつもりになられたのですね。ご信頼を裏切らないようにいたします」
勇者の暴言に動じることもなく、ファラリア嬢はうやうやしく礼をすると、未だ何やら戸惑っている風の英雄殿を伴って部屋を後にした。
「あ、出立する前にもう一度お食事をご一緒したいと父が」
扉を閉める前に、ファラリア嬢がひょこっと顔を出して付け加える。
そして、返事を聞く前に扉を閉めて行ってしまったようだ。
あの調子なら、英雄殿も、今後はきっと活動しやすくなるだろうな。
「で、本当のところ、どうなんだ、その剣」
「師匠はわかっただろ? ほんの少し魔力を通しただけで灼熱を帯びたぞ。どうも込める魔力によって段階的に魔法が解除されていくように出来ているようだ。これを作ったのはとんでもない鍛冶師だな。魔法紋は神の盟約が刻むもので、人間には再現出来ない。それを部分的とは言え、この剣を作った者は再現している」
「そんな凄いものをもらってしまってよかったのか?」
「大公家にとって、俺達から受けた借りがそれだけ大きかったってことだ。この剣一本で負い目がなくなるなら、お互いにとっていいことだろ」
なるほど、案外いろいろ考えているんだな。
貴族同士の貸し借りというのは重いものだと聞いたことがあるが、そういうものなんだろう。
ただ、あのお嬢さんの言ったことも本当だと感じた。
どれほどいいものであっても、仇の家からの貢ぎ物など見たくはないだろうし、とは言え、剣自体には何の罪もないからな。
この剣にとってもこれでよかったのかもしれん。
ファラリア嬢のことだけでなく、例の富国公の後始末で飛び回っていたらしい。
そして何がどうなったのか、その後始末の過程で、ファラリア嬢が英雄殿の正式な補佐官に任命されたとのことだった。
久々の英雄殿はどこか心ここにあらずという雰囲気である。
傍にはぴしっとした服装のファラリア嬢がいた。
ファラリア嬢は黒髪に緑の瞳で、細身ですらっと背が高い。
パッと見るだけでも知的な印象を受ける。
そんな彼女が、男物の服装をしているので、何やら独特の魅力があった。
「正確に言うと男ものではないのです。交渉官の礼服には男性用のものしかないので、それを私に合うように仕立ててもらいました」
そこで言葉を切ってにっこりと笑う。
「私の仕事はエンデさまの苦手な交渉と報告が主になるので、ひと目でそれとわかるようないでたちがいいだろうということになりまして。それと旅をするのにドレスは不自由ですから」
「なるほど、合理的だな」
俺としてはそう言うしかない。
英雄殿が何か夢でも見せられているのでは? というような表情のまま固まっているのを気の毒に思うだけだ。
なに、すぐに慣れるさ。
「それで、この度、こちらに伺ったのは、ご報告もあるのですが、イマルからご事情を聞いたからです」
イマルというのは大公家の次男にして末っ子のことだ。
ずっとここに入り浸っていたのを叱られたんじゃなければいいが。
「こちらをお受け取りください」
「これは?」
ファラリア嬢は、なにやら厳重に封をした書状を手渡して来た。
「幻の都の迷宮探索許可証です」
「おお!」
これはありがたい。
迷宮幻の都の探索許可証は、通常は迷宮のある都市で活動している実績ある冒険者のみに与えられるものだ。
俺としては勇者の立場を使ったごり押しで入るつもりだったが、よけいな摩擦は少ないほうがいい。
ちゃんと手続きが出来るのなら、それに越したことはないのだ。
そして、ファラリア嬢は、次に勇者に直接向き直ると、そばに控えさせていた使用人から大きな箱を受け取って、それをテーブルの上に置く。
「勇者殿にはこれを」
勇者は無言でその箱を開く。
すると、そこには一本の見事なロングソードが収められていた。
柄の装飾も見事だし、鞘も美しい。
それでいて華美な印象はなく、鮮やかな炎のようなイメージの剣だった。
「これは?」
勇者がいぶかしむような声を上げる。
「迷宮の最奥に挑むにしても、剣がないままという訳にはいきませんでしょう? これは、伝説クラスの剣と並べられてしまうと見劣りするかもしれませんが、当代随一の鍛冶師と呼ばれる大地人が鍛えた剣だと聞いています。実はぶっちゃけてしまうと、我が家をつけ狙った前当主から家を引き継いで、現当主となった者からの付け届けなんですけどね。見ていると腹立たしくなるので地下に放り込まれていたものです」
由来を聞いて思わず俺達はファラリア嬢を注視してしまった。
英雄殿が片手で顔を覆う。
「とは言え、剣に罪がある訳ではないので、勇者さまに使っていただけるのなら、私達も憂いがなくなってホッとするのですが。もらっていただけますか?」
お嬢さん、ぶっちゃけすぎです。
しかしなるほど。
名工の手になる剣となれば、小さな砦ぐらいの価値があると聞いたことがある。
そんなものをホイホイ貰う訳にはいかないが、由来を聞けば、大公家の人々が手元に置きたくない気持ちも理解出来た。
つまり遠慮する必要のない品物という訳だ。
勇者は無言で剣を鞘から引き抜いた。
おい、いきなり剣を抜く奴があるか! 警護の兵でもいたら取り押さえられても文句が言えないところだぞ。
「なるほど。いい剣だ。魔法紋に似せた加工がしてあるな」
「まぁ、そうなのですか?」
ファラリア嬢が驚いたように言う。
全然確かめたりしてないんだな。
気持ちはわかるが。
勇者が軽く魔力を込めたのがわかる。
だから、いきなり人の家のなかで魔法を使うな!
勇者の魔力が剣の柄に触れると、渦を巻くように変質した。
瞬時に、剣身が真っ赤に染まる。
「おお……」
英雄殿が息を呑む。
これは、勇者は魔力をそのまま流しただけなのに、炎、いや、熱を発する魔法が発動しているのか?
「この剣があると料理に便利そうだな」
「……勇者」
俺は残念な相手を見る目で勇者を見た。
お前、言うにことかいてそれか。
そもそもお前、料理なんざ作らないだろうが!
「ふふふ。お話に聞いた通り、勇者さまは変わった御方ですね」
ファラリア嬢、素直にバカと言ってくれてもいいんだぞ?
「わかった。もらっておこう。どうせあの愚か者の不祥事に対する口封じだろう? だが、魔物に関することは大聖堂に報告するぞ」
「そのようなことは……もちろん、魔物を利用しようとしたことは、国からも大聖堂に報告させていただきます」
「どうせ政治的なことは勇者や大聖堂の管轄外だから、そっちに任せるしかないんだがな。いい加減に処理するようなら、引っ掻き回してやろうと思っていた」
「ふふっ、そのおっしゃりようだと、お任せくださるおつもりになられたのですね。ご信頼を裏切らないようにいたします」
勇者の暴言に動じることもなく、ファラリア嬢はうやうやしく礼をすると、未だ何やら戸惑っている風の英雄殿を伴って部屋を後にした。
「あ、出立する前にもう一度お食事をご一緒したいと父が」
扉を閉める前に、ファラリア嬢がひょこっと顔を出して付け加える。
そして、返事を聞く前に扉を閉めて行ってしまったようだ。
あの調子なら、英雄殿も、今後はきっと活動しやすくなるだろうな。
「で、本当のところ、どうなんだ、その剣」
「師匠はわかっただろ? ほんの少し魔力を通しただけで灼熱を帯びたぞ。どうも込める魔力によって段階的に魔法が解除されていくように出来ているようだ。これを作ったのはとんでもない鍛冶師だな。魔法紋は神の盟約が刻むもので、人間には再現出来ない。それを部分的とは言え、この剣を作った者は再現している」
「そんな凄いものをもらってしまってよかったのか?」
「大公家にとって、俺達から受けた借りがそれだけ大きかったってことだ。この剣一本で負い目がなくなるなら、お互いにとっていいことだろ」
なるほど、案外いろいろ考えているんだな。
貴族同士の貸し借りというのは重いものだと聞いたことがあるが、そういうものなんだろう。
ただ、あのお嬢さんの言ったことも本当だと感じた。
どれほどいいものであっても、仇の家からの貢ぎ物など見たくはないだろうし、とは言え、剣自体には何の罪もないからな。
この剣にとってもこれでよかったのかもしれん。
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