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第2章 エンノア編
宴 1
しおりを挟む異能についての話が終わった後、エンノアの皆さんが俺のために開いてくれた宴は、それはもう盛大なものだった。
前回はゼミアさん宅での食事会だったのだが、今回は広場にわざわざ宴会場を設営し、エンノアの子供も老人も全員参加で俺のことを歓迎してくれたんだよ。
「コーキさん、楽しんでいますか」
ゼミアさんのもとを離れ、俺の傍らにやって来たフォルディさん。
「ええ、こうして皆さんと一緒に食事ができて楽しいですよ」
「それは良かった」
今は、最初に振る舞われた料理をいただき一段落ついたところだ。
続いて、広場の中央ではブラッドウルフのもも肉が骨付きのまま直火で豪快に焼かれている。
みんな思い思いの場所に腰を下ろし歓談しながら肉が焼かれるのを待っているという状況。
病で寝込んでいた人たちも今は元気に宴に参加しており、食も進んでいるようだ。
その姿を見ていると、やはり嬉しいものがある。
頑張って良かったと、心からそう思えるな。
「今焼いているブラッドウルフのもも肉も美味しいですよ」
「なかなか大胆な料理ですね」
これは骨付きというか、脚をそのまま焼いている。
ちょっと野趣にあふれ過ぎているんじゃないかと思うくらいだ。
「まあ、そうですよね」
それでも、周りの人々は期待に満ちた目で調理を見守っている。
「ああやって調理することに意味があるんでしょうね?」
「はい。エンノアでは、ブラッドウルフに限らないのですが、その時手に入る最高の肉を直火で焼くというのは、最高のおもてなし料理とされているんです。といっても、このブラッドウルフはコーキさんが倒したものですから、我々がご馳走になっているようなものなんですけどね」
すみませんと頭を下げてくれる。
「いえ、私ひとりなら、きっとブラッドウルフを持て余してしまいましたから、こうして調理していただいて助かります」
こんなに大きな魔物をひとりで処理できるわけがない。
せいぜい、一部を持ち帰るくらいだ。
エンノアの人々に受け取ってもらわなかったら、残りは廃棄することになっていただろう。
「確かに、大きいですもんね」
俺が仕留めた2頭はともに体長3メートルを超えていた。
そんなブラッドウルフの脚だ。
当然、それなりの大きさになっている。
今焼いているのは8本の脚だが、これだけでも相当な量になるだろう。
「でも、こんなに大きなブラッドウルフをあっという間に倒すなんて、コーキ様は凄い人です」
ユーリアさんが俺とフォルディさんの間にやって来た。
「ユーリア、調理を手伝わなくていいのかい?」
「もうほとんど終わったから、自由にしていいって」
さっきまで1メートルはあるだろうもも肉の面倒を見ていたもんな。
「お疲れさまです。どうぞ、ユーリアさんも座ってください」
「ありがとうございます」
俺とフォルディさんの間に腰を下ろすユーリアさん。
「そこに座ると、ボクが話せないぞ」
「兄さまはもう充分話したでしょ」
「……」
「ホント、あの時は凄かったです。ブラッドウルフを剣で倒して、魔法でも圧倒するんですから」
「ユーリアは剣や魔法のことなんて良く分かってないだろ」
「では、兄さまはコーキ様の腕は大したことがないとでも言うのですか」
兄さまと呼んでいるが、ユーリアさんとフォルディさんは兄妹ではない。
兄と妹のように育ったから、そう呼んでいるんだそうだ。
「なっ、そんなこと言ってないだろ。思ってもいないぞ。何を言うんだお前は。すみません、コーキさん」
「はは、いいですよ、そんなこと」
「とにかく、コーキ様は凄いんです。わたしがコーキ様の傍にいることができるのなら、剣と魔法を教えてもらいたいくらいですよ」
「また、無茶を言う」
「機会があれば、少しお教えしましょうか」
エンノアを訪れた時に、少しくらいなら教えてもいい。
まっ、ユーリアさんも本気ではないんだろうけど。
「ええ、本当ですか! 嬉しい!」
茶色の大きな目を輝かせながら手を叩いている。
「ユーリア……」
「私も魔法を教えていただきたいです」
アデリナさんもやって来た。
「コーキ様、どうでしょうか?」
「まあ、機会があれば……」
「もう、アデリナさんより先に私が教えてもらうんですよ」
「ふふ、そうね」
病床に伏している時ですらそうだったが、アデリナさんは落ち着いた大人の女性といった雰囲気を持っている。元気いっぱいのユーリアさんとは対照的だ。
17歳のユーリアさんに対しアデリナさんは25歳だから、当然か。
「それより、体調の方は問題ないですか」
「コーキ様のおかげで、ほら、もうこんなに元気です」
そう言って、その場で1回転する。
「まだ病み上がりなのですから、無理はしないでくださいね」
「はい、お気遣いありがとうございます」
「アデリナさん、わたしは見せてもらえなかったけど、コーキ様の治癒魔法も凄かったんですよね」
「ええ、それはもう凄かったわよ」
「攻撃魔法も治癒魔法も凄いなんて、やっぱり、わたし魔法を教えて欲しいです」
「エンノアに来た時に、少し教えますよ」
「少しだけですかぁ」
そうそう教えることはできないからな。
頻繁にエンノアに来るわけでもないし。
というか、本気で学ぶつもりなのか、ユーリアさん。
そうなると、話は変わってくるんだけど。
俺の魔法は自己流だから、この世界の人にきっちり教える自信はないぞ。
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