30年待たされた異世界転移

明之 想

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第3章 救出編

智と時と魔法を司るもの 4


 しかし、こいつ……。

 この空間に突然現れたダブルヘッド。
 俺を視認した途端、俺の前で仰向けに横たわってしまった。
 その上、腹まで見せている。

 それは服従するという意志なのか?

 これはやはり、あのダブルヘッドなんだろうな。

 ……。

 すっかり忘れていたが、こいつを追うことも俺の目的だったんだよなぁ。

「それで、私はどうすればよろしいのでしょうか?」

 こいつが俺の知っているダブルヘッドだとしても、トトメリウス様が俺に何を望んでいるのかは分からない。

『其方に服従したいと言っておるのじゃ』

 やっぱり、そうなのか。

 でもさ、俺が殺しかけたんだよな、こいつ。
 それに、俺から逃げただろ。

 なぜ、今になって服従したいと思うんだ。
 どうしてそうなった?

「この個体は私が殺しかけたダブルヘッドですよね?」

『そうじゃの』

「それなのに、私に服従したいと?」

『そういうことじゃ』

「このダブルヘッドは一度私から逃げたのですよ。それなのに、どうしてなのでしょう?」

『此奴、強きものに従いたいと言っておる』

 それなら、なぜ逃げたんだ。

「……」

 まあ、あの時あの場にとどまっていたら、間違いなく命はなかっただろうが。

『とにかく、其方に従いたいという強い意志を持っておるわ』

「そうですか……」

 こうなると、トトメリウス様からの話だからなぁ。

「ちなみに、このダブルヘッドはトトメリウス様の眷属なのですか?」

『いいや、ただ吾の領域に棲むだけのものじゃな』

 領域に棲むものを保護しているのか。

 うん?
 ということは。

「私が地下大空洞で倒した魔物たちも、トトメリウス様の保護下にあるのでしょうか?」

 沢山始末してしまったんだけど……。

『保護しておる訳ではないのう』

「ですが」

『ふむ、其方が気にすることではない。人と魔物の生殺は世の常じゃ。そもそも、人も魔物も吾と特別な関係にはない。人は人らしく、魔物は魔物らしく生きれば良いだけじゃ。小さきものの縁など吾が関知することではないからの』

 よかった。
 大空洞内で魔物を殺した責任をとれ、なんて言われたら大変なことになるところだ。

「では、このダブルヘッドだけをなぜ?」

 特別視するのか?

『其方が吾の前に現れたからじゃ』

 それだけ?

『此奴の服従したいという強い思いもひとつの理由じゃな』

「……」

『それに、なかなか可愛いかろう』

「……」

『其方、こやつの主になってはどうじゃ』

 本当に?
 俺がこのダブルヘッドを飼うと?

 信じられないことだが……。
 神様が言うのだから、そういうことだよな。

 しかし、困った。
 服従するといっても、こんな目立つ魔物をどうしたらいいのか。

 それに、このダブルヘッドはシアやアルたちを襲っている。
 それはなぁ……。

 かといって、神様の提案を断るのも難しいし。

 とはいえ、やはり……。

「このような大きな魔物を連れ歩く訳にも行きません、他の者に害を及ぼすかもしれませんので……」

 俺の手には余るんですよ。

『問題はそれだけか』

「……はい」

 何だか嫌な予感がする。

『なら問題はない。ほれ』

 そう言って、右手から眩いばかりの光が放射され、光が収まったあとには。

「……」

 目の前には、小型犬並みの大きさのダブルヘッドがいた。
 相変らずこちらに腹を向けて尻尾を振っている。

「クーン」

「か、可愛い」

 セレス様まで。

 いや、まあね。
 こうなってしまうと、見た目には可愛いのだけれど。

『これで完全に別物じゃ。外見も問題なかろう』

「まあ……」

 外見どころか、中身も今までとはもう別物だということか。
 それなら、まあ……。

『其方との間に主従の契りも結んでおいたからの。其方の意に反することはできぬし、言いつけも必ず守る。ほれ、何か命じてみよ』

 何か命じろって、何を?
 口に出せばいいのか?

「……立ちなさい」

 ダブルヘッドに向けてそう言うと、尻尾を振りながら嬉しそうに立ち上がった。

「……」

『口に出す必要はないぞ』

「分かりました」

 今度は心の中でダブルヘッドに向かって、お座りと念じる。

 いや、まてよ。

 この世界の魔物にお座りが通じるのか?
 なんていう疑問が浮かぶ間もないほどの素早い動作で、ダブルヘッドがお座りをしていた。

「……」

 もう、言葉もないな。

『問題無かろう』

「ですが、私が不在の間は」

『他の者に命令権を預ければ良いだけじゃ。そうじゃな、その娘で試してみると良い』

 命令権を譲るって、口で言えばいいのか。

「セレスに命令権を譲る」

 ダブルヘッドに向かってそう伝えると、ダブルヘッドが頷いた。

「セレス、何か命じてみて」

「分かったわ」

 ワクワクしたような顔でダブルヘッドに対するセレス様。

「お腹を出して私に撫でられなさい」

 なんだ、その命令は。

「クゥン、クーン」

 と思ったけれど。
 ダブルヘッドはセレス様の前で躊躇なく仰向けになり、されるがまま。

「なんて可愛いの! コーキさん、この仔を預かりましょう」

「……」

 セレス様、ほだされるのが早過ぎるぞ。
 さっき登場した時は、怯えていたじゃないか。

『そやつには吾から力を与えておいたので、そこらの魔物に劣ることもなかろう。さらに吾の領域と其方のもとを自由に転移する力も授けておいた。不要な時は、こちらに戻せば良いじゃろう』

 そんなことも簡単にできるのか。
 さすが神様だ。

 というか、トトメリウス様、このダブルヘッドに肩入れしすぎでしょ。
 もちろん、口には出せないけれど。

『これで問題無いようじゃの』

「……はい」

 まあ、神様にここまでされたら断れないよな。
 セレスさんも乗り気だし。

『好し、これで話はすべて終わりじゃ。と、それもついでじゃな。ほれ』

 トトメリウス様の手から放射された光の粒が俺の左肩に注ぎ。

『確かめてみるがよい』

「これは!」

 左肩にあった黒炎の火傷痕が綺麗に消失していた。


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