30年待たされた異世界転移

明之 想

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第3章 救出編

転送 1

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 黒炎による火傷痕が……。

 ここ数日、ずっと悩まされていたあの傷が消えている。

「ありがとうございます」

『ふむ、よいよい』

 これはもう、本当にトトメリウス様には頭が上がらないな。

『では、送ってやろう。どこが良いかの』

「少しお待ちください。セレス、あれから20日以上経過していますが、テポレン山の麓でも問題ないですよね」

「ええ、それで良いわ」

「では、テポレン山の麓。常夜の森との境界の手前、その山中でお願いします」

 転送時、そこに誰かいたら大変だからな。

『其方ら、勘違いしておるようじゃな』

「はい? と言いますと?」

『吾が領域に、其方の世の時間など存在せぬぞ』

 時間が存在しない!
 まさか、時が経過していないということ?

 本当に?

 時を司る神様だから、あり得る?

「ということは、20日も経過していないということですか」

『其方らが吾の領域に入ってからは、そちらの世界の時は経過しておらぬ』

 そうだったのか……。

 なら、あちらではまだ初日の夜前。
 信じがたいことだが、トトメリウス様が言うのだから間違いないのだろう。

「トトメリウス様、理解いたしました」

『ふむ』

「それでは、そろそろ、お願いいたしたいのですが」

『そうじゃな。此度は無聊を慰めるひと時になったぞ』

「とんでもございません。こちらこそ、ありがとうございました」

『ふむ。では、行くがよい。また、会うこともあろう』

 神様の言葉と共に、ひときわ濃い靄が俺たちを包み込む。

 次の瞬間。

「……」

 常夜の森の手前に存在する木々の合間に俺たちはいた。

「コーキさん、ここは?」

「テポレン山の麓付近のようですね」

「本当なのね」

 トトメリウス様の力を疑っていた訳ではないのだが、やはりこうして転送が現実になると少なからず驚いてしまう。その思いは、セレス様も俺も同じだ。

「ええ」

 周り茂る樹々、その合間から下方を見下ろすと見覚えのあるテポレンの麓らしきものが窺える。

 間違いないな。

 トトメリウス様の力によって、俺たちはテポレン山の麓まで転送されたようだ。
 となると、時間も初日の日暮れ前。

「コーキさん、これ現実よね。私たち戻れたのね。よかった、本当に良かった」

 俺の傍らでは、セレス様が喜びと安堵で脚の力が抜けたのか、脱力したように地面に座り込んでいる。

「よかった……」

 まあ、そうなるよなぁ。
 一時は俺に殺してくれと頼むほど追い詰められていたのだから。
 感無量だろう。

 そのまま数分ほど経過。
 日暮れまではまだ少し余裕があるとはいえ、そろそろ下りる準備をしたい。

 準備というのは話し合いのことだ。
 ヴァーン、ギリオン、シア、アルと合流したら、セレス様とゆっくり話をする機会もなかなかないだろうから。

「セレス、下山の前に少し話があるのですが」

「私も。もう色々なことがあり過ぎて混乱してしまって」

 逃亡して、遭難して、彷徨って、死にたくなって、神様に会って、恩恵を貰って、転送されて……。

 混乱して当然だよ。

「何から話したら……。この仔はどうしましょ? 停滞の緩和って何なの? シアは近くにいるのかしら? トトメリウス様の加護って? 異世界ってどういうこと? コーキさんは異世界人なの?」

 うん、軽いパニック状態だな。

「セレス、少し落ち着いて。ひとつずつ整理して話そうか」

「うん、そうね。ひとつずつ。でも、異世界人って何?」

 そうだよなぁ。
 やっぱり、それが引っかかるよな。

 まあ、それについては、あとで話すよ。
 秘密にしたかったけれど、トトメリウス様にあそこまではっきり言われるとさ。
 どうしようもないよな。

「それはあとで話すから。まずは、このダブルヘッドについて話そうか」

「分かったわ」

「まずは、お前」

 ダブルヘッドに言葉をかけてみる。
 こちらを凝視しているな。

「言葉が理解できるのか?」

 トトメリウス様の神域では、口に出さずともこちらの考えが通じていた。
 とするなら、当然言葉も理解できるはず。

「ワン」

 ひと鳴きして頭を下げる。
 その鳴き声……。

 ホント、鳴き声といい動作といい、まるで犬だな。
 でもまあ、通じてはいるようだ。
 それでは。

「お前の意志をこちらに伝達はできないのか?」

「クゥーン」

 今度は悲しそうに左右に頭を振る。
 会話や念話的なものは無理か。
 それでも、可否、是非を知るだけなら、その動作で充分だな。

「かわいい……」

 セレス様、こいつに夢中だな。
 確かに、愛らしいけどさ。
 頭が2つあるからなぁ。



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