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第13話 仕事/放送
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「あの……」
クイズ番組の収録後、他の出演者が全てはけてからマネージャーと共にプロデューサーさんに声をかけた。
「すみませんでした。あのシーン……カット、ですよね?」
俺が頭を下げると、プロデューサーさんやADさん、カメラマンさん、周りのほとんどのスタッフの人たちが同情の視線を向けてくれた。
「あぁ、あれは使えないよ。その前のセクハラシーンから土下座まで全カットするから大丈夫」
「そうですよね……どうせカットになるのに、面倒なことをしました。すみません」
「いやいや、アオくんは上手くやってくれたよ。ありがとう。でも、次からは台本の台詞だけでいいから」
「はい、すみませんでした」
「いや、まぁ……アオくんが正しいんだけどね? とにかく、うまくやってよ」
「すみません……」
笑いながらも念を押してくるプロデューサーさんに、「すみません」しか言えなかった。
芸能界で上手くやるのは得意なはずなのに。わかっているはずなのに。
だめだな。
もっと強かにならないと。
俺には、俳優業を頑張って、人気俳優でいるしか価値が無いんだから。
◆
「ちょうど時間だよね。アオくんの番組観ようよ」
翌週、伊月さんの家に行って食事がすんだころ、ちょうどあのクイズバラエティが放送される時間だった。
「え、は、はずかしい……ので」
「録画予約もしているけど、初めてバラエティのMCをするアオくんが観られるなんて、ファンとしてはリアタイしないわけにはいかないよ」
伊月さんは本当に楽しそうで、純粋な俺のファンとしての言葉に思えた。
……伊月さんのお陰でとれた仕事だし、嫌とは言えないか。
「先に言っておきますけど、たぶん、上手くできていないですよ?」
「何でも上手くできちゃうアオくんの新たな一面が見られるなんて最高だよ」
伊月さんの笑顔に覚悟を決めて、ソファに並んでテレビを眺めた。
「……」
「へぇー……」
伊月さんは俺が画面に映るたびに、なにか口にするたびに、少し前のめりになって目を輝かせて画面を見つめていた。
ファンらしい反応で、素直に嬉しい。それに前半は、あまり目立たないだけでまぁまぁ悪くはない。
でも、後半はひどかった。
「……」
「……?」
上手くやったつもりなのに、笑顔が張り付いている。
テンポが悪いところもあった。
カメラに抜かれていることに気付かずに台本に思い切り視線を落としているところもあった。
伊月さんも少しだけ不思議そうな顔になっている。
芸能人じゃなくても気付くよね。折角の初MCなのにな。
きっとネットにも「俳優がMCは畑違い」「ただのお飾り」「いる意味ある?」「視聴率のための顔要因」とか書かれるんだろうな。
次回、挽回できればいいんだけど……
「面白かった! レギュラー放送になるのが楽しみだね」
次の番組に切り替わった瞬間、伊月さんは笑顔を向けてくれるけど……
「アオくん、すごく緊張していたね。ドラマとバラエティでは勝手が違うんだ?」
「あ、はは、そうですね。すみません。折角、伊月さんにもらったお仕事なのに……上手くできなくて」
笑ってごまかしたけど、伊月さんは優しい笑顔のまま首を傾げる。
「なんで謝るの? 新鮮でかわいいよ。視聴者もだんだんアオくんが慣れていくのを観るのが楽しいんじゃないかな?」
「そうだといいんですが……」
演技だって、最初から上手かったわけではない。
練習して徐々に上手くなった。でも、それは児童劇団にいた頃で、デビューの際にはある程度上手い状態だったから……そういう「成長枠」みたいな見られ方をされるイメージが湧かない。
それに、一度気に食わないことをしてしまった俺を、次回以降、嶋北さんがどうするか……
「……」
「ん?」
一瞬。
一瞬、ずるい考えが浮かぶ。
伊月さんに相談すれば、スポンサーの権限で司会を……
「アオくん?」
「あの……」
……いや、それは違うか。
枕営業のようにチャンスをもらうのはともかく、自分の失敗をカバーして欲しい、誰かを引きずり降ろして欲しい……それは……違うか。
「やっぱり恥ずかしいので、今日の放送は俺が上手くなるまで見返さないで欲しいなって」
「えー……明日、十回は見返そうと思ったのに? でも、アオくんが上手くなるために頑張るっていう決意のあらわれだよね? えらいなぁ。慣れないお仕事も頑張って、本当にえらいね、アオくん」
伊月さんが優しく俺の頭を撫でてくれて……ほっとした。
この日はこのままイチャイチャして、セックスになだれ込んで、いつものように翌日マンションを後にした。
クイズ番組の収録後、他の出演者が全てはけてからマネージャーと共にプロデューサーさんに声をかけた。
「すみませんでした。あのシーン……カット、ですよね?」
俺が頭を下げると、プロデューサーさんやADさん、カメラマンさん、周りのほとんどのスタッフの人たちが同情の視線を向けてくれた。
「あぁ、あれは使えないよ。その前のセクハラシーンから土下座まで全カットするから大丈夫」
「そうですよね……どうせカットになるのに、面倒なことをしました。すみません」
「いやいや、アオくんは上手くやってくれたよ。ありがとう。でも、次からは台本の台詞だけでいいから」
「はい、すみませんでした」
「いや、まぁ……アオくんが正しいんだけどね? とにかく、うまくやってよ」
「すみません……」
笑いながらも念を押してくるプロデューサーさんに、「すみません」しか言えなかった。
芸能界で上手くやるのは得意なはずなのに。わかっているはずなのに。
だめだな。
もっと強かにならないと。
俺には、俳優業を頑張って、人気俳優でいるしか価値が無いんだから。
◆
「ちょうど時間だよね。アオくんの番組観ようよ」
翌週、伊月さんの家に行って食事がすんだころ、ちょうどあのクイズバラエティが放送される時間だった。
「え、は、はずかしい……ので」
「録画予約もしているけど、初めてバラエティのMCをするアオくんが観られるなんて、ファンとしてはリアタイしないわけにはいかないよ」
伊月さんは本当に楽しそうで、純粋な俺のファンとしての言葉に思えた。
……伊月さんのお陰でとれた仕事だし、嫌とは言えないか。
「先に言っておきますけど、たぶん、上手くできていないですよ?」
「何でも上手くできちゃうアオくんの新たな一面が見られるなんて最高だよ」
伊月さんの笑顔に覚悟を決めて、ソファに並んでテレビを眺めた。
「……」
「へぇー……」
伊月さんは俺が画面に映るたびに、なにか口にするたびに、少し前のめりになって目を輝かせて画面を見つめていた。
ファンらしい反応で、素直に嬉しい。それに前半は、あまり目立たないだけでまぁまぁ悪くはない。
でも、後半はひどかった。
「……」
「……?」
上手くやったつもりなのに、笑顔が張り付いている。
テンポが悪いところもあった。
カメラに抜かれていることに気付かずに台本に思い切り視線を落としているところもあった。
伊月さんも少しだけ不思議そうな顔になっている。
芸能人じゃなくても気付くよね。折角の初MCなのにな。
きっとネットにも「俳優がMCは畑違い」「ただのお飾り」「いる意味ある?」「視聴率のための顔要因」とか書かれるんだろうな。
次回、挽回できればいいんだけど……
「面白かった! レギュラー放送になるのが楽しみだね」
次の番組に切り替わった瞬間、伊月さんは笑顔を向けてくれるけど……
「アオくん、すごく緊張していたね。ドラマとバラエティでは勝手が違うんだ?」
「あ、はは、そうですね。すみません。折角、伊月さんにもらったお仕事なのに……上手くできなくて」
笑ってごまかしたけど、伊月さんは優しい笑顔のまま首を傾げる。
「なんで謝るの? 新鮮でかわいいよ。視聴者もだんだんアオくんが慣れていくのを観るのが楽しいんじゃないかな?」
「そうだといいんですが……」
演技だって、最初から上手かったわけではない。
練習して徐々に上手くなった。でも、それは児童劇団にいた頃で、デビューの際にはある程度上手い状態だったから……そういう「成長枠」みたいな見られ方をされるイメージが湧かない。
それに、一度気に食わないことをしてしまった俺を、次回以降、嶋北さんがどうするか……
「……」
「ん?」
一瞬。
一瞬、ずるい考えが浮かぶ。
伊月さんに相談すれば、スポンサーの権限で司会を……
「アオくん?」
「あの……」
……いや、それは違うか。
枕営業のようにチャンスをもらうのはともかく、自分の失敗をカバーして欲しい、誰かを引きずり降ろして欲しい……それは……違うか。
「やっぱり恥ずかしいので、今日の放送は俺が上手くなるまで見返さないで欲しいなって」
「えー……明日、十回は見返そうと思ったのに? でも、アオくんが上手くなるために頑張るっていう決意のあらわれだよね? えらいなぁ。慣れないお仕事も頑張って、本当にえらいね、アオくん」
伊月さんが優しく俺の頭を撫でてくれて……ほっとした。
この日はこのままイチャイチャして、セックスになだれ込んで、いつものように翌日マンションを後にした。
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