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第3章 戦争の幕開け
第11話 それぞれの思い
しおりを挟むあれから一週間が過ぎた。
デイトナの宣戦布告はやはりと言って世界を混乱させた。手の込んだ悪戯だと勘違いする者もいれば、事態の重さに翻弄される者と、またそれ以外にもそれはそれは様々な世論が飛び交っていった。
ただ世界がどうであれ、デイトナ達の世界征服は滞りなく進み、近隣諸国の大体は制圧が完了していた。軍隊を悉く潰していくデイトナ達の快進撃は止まることを知らず、常日頃から軍の弾圧に苦しめられた人々はいつしか、白き竜を従えたデイトナ達を[天龍の遣い]とは崇め始めていた…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その日、朝日が昇り始めた早朝にもとある他国の侵略を開始した。[ルスタチア王国]の近隣諸国の中では一番の勢力を誇るとされていたその国でさえ、制圧に然程時間は掛からなかった。
今はその帰り道。僕とルーシェはアヴァロンに跨って帰路へと戻る。今日はアブゾーブとマントはお留守であり、久々のルーシェとアヴァロンだけの外出である。
あまりの敵の呆気なさに拍子抜けしてしまったのか、憂鬱そうな顔色を浮かべるルーシェに僕は尋ねた。
「何だい、不服そうじゃないか?」
「別にそんなことはありませんよ?ただ…あまりの人間共の脆弱さには呆れるばかりです」
「そりゃあ竜王の遺伝子を引き継いでいるルーシェと比べたらそうだろうよ。人間は弱い。一人じゃ何もできない。そんなものさ」
「それ、皮肉に聞こえるんですが?」
そう言って、不敵な笑みを浮かべるルーシェ。
「皮肉って?」
「だって、私はその脆弱な人間に負けてこの場にいるのですよ?」
「ああ、そういうこと」
つまりルーシェは、僕に敗北したことについて、言っているのだろう。
確かに僕は人間でありながらルーシェを破った。ただそれについて言えば僕がルーシェが破った時、僕は既に人間でありながら竜の遺伝子を体に移植した後である。
「それは違うよルーシェ。あの時、僕は既に[ミラージュ・ロストエイジ]の細胞を移植させていた。要するにだ、僕は最早人間じゃなかった」
「分かってますよそんなこと。ただそれにしたって純粋なる竜王の血統の私を倒したデイトナ様が非凡でなかったことは間違いありません。大体ですよ、竜王に意識を乗っとられないだけでもデイトナ様は化け物です」
「ふふ、まさかルーシェに化け物もの呼ばわりされる日が来ようとはね…」
「だって違いないでしょう?」
「……全くだ」
僕は素直に認めた。
「ではルーシェ…同じ化け物同士として、頼みたいことがあるんだ」
「却下します」
「おい、まだ何も言ってないじゃないか?」
「言わなくても分かります。だってどうせロクな事がじゃないって決まってるんですもの」
ルーシェは可笑しそうに笑いながらそう言った。その笑みはやけに晴れやかそうに見えた。
「でもまぁ…聞いとく聞いておいてあげますよ。これでもデイトナ様は私のご主人ですからね」
「これでもが余計だぞ?ふん、まぁいいけどさ…」
今は聞いてくれるだけもマシだと考えよう、そう思った。
「ルーシェ、もしもの時は…僕を頼む」
「……」
ルーシェは無言で僕を見た。その時のルーシェの顔とは何とも言えない程に穏やかそうで、また複雑そうである。
そのままルーシェは僕からアヴァロンへと視線を逸らすと、薄っすらと笑みをこぼして、呟くように言った。
「考えておきます」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「天龍の遣いか…うん、悪くない響きだぜ」
「満更でもなさそうですね」
「はは、マント、お前もな?」
拠点となりつつある[ルスタチア王国]の城下町にはある隠れ家で二人、アブゾーブとマントの笑い声が響き渡った。
この日、お留守番となった二人は上機嫌そうには昼間から酒を酌み交わしていた。そんな折にも、巷で自分たちが[天龍の遣い]と呼ばれ神格化されていることの話題に触れて、誇らしく仕方がない様子であった。
「やっぱりすげーな、あいつら…」
「ええ、全くです」
「これで良かったかなんてまだ分かんねーが、あのまま[ゾロマンティス軍]にいたら、こんな気持ちを味わうこともなかったんだろうなぁ…」
と、しみじみとした雰囲気を醸し出してアブゾーブは本音を明かした。
というのも万年、アブゾーブは[ゾロマンティス軍]の戦士として闘う以外の生き方を知らなかった。幼い頃から命のやり取りにばかり晒されてきたアブゾーブにそういった感情が一切湧かなかったからである。
だからこそ、まさか自分が人々から畏敬の眼差しで見られているだなんて想像もしていなかったのだった。
「本当ですね…僕自身夢をみているのではないかと時たま不安になります」
アブゾーブ同様に、マントも今の自分に驚きを隠せないといった様子で言った。
「なぁ時にマント、おめぇはどうしてデイトナに従う事を選んだんだ?」
「…どうしたんですか急に?」
「いや、俺が知っているマントならあの時死を選ぶだろうと思ってたからな…だってお前、誰かに服従すんの嫌いだろ?」
「……アブゾーブ様には、僕はそう見えましたか?」
「ああ、もちろんだ」
アブゾーブは確信めいた口調で答えると、酒ジョッキを一気に飲み干して、
「何年お前の事見てると思ってんだ、分からねーわけねーだろ?」
と、豪快な笑い声をあげた。
そんなアブゾーブを見て、マントは胸を締め付けられるような思いで一杯だった。
「アブゾーブ様には全てお見通しのようですね…」
「ったりめーだ!お前のことなら何だって知ってる!!」
「やはり、アブゾーブ様で良かった。僕の選択は間違っていなかったんだ…」
消え入るようにはそう呟いたマントに対し、アブゾーブはやはりと言いたげな顔色では口を開いた。
「…俺のため、やっぱりそうだったんだな、マント?」
「ええ、そうです」
あの時、デイトナに服従を誓うか死ぬかの選択を迫られた時にも、マントの思いは既に固まっていた。
他者の服従を嫌うマントが、初めて忠誠を誓った主人こそがアブゾーブであり、アブゾーブとならばいつの日か世界征服も夢ではないといつも考えていた。夢、と言うよりも願望に近いのかーーーマントはアブゾーブに、この世を統べる王たる器を見ていたのだ。
故にマントはあの時、デイトナの元に着く道ーーアブゾーブが生きれる未来を選んだ。
親兄弟もいなければ心を許せる友もいない…そんなマントにとって、唯一の大切な繋がりであるアブゾーブの命こそが全てであったからこそ、アブゾーブの生きられる未来を選んだんだのだ。
「怒っていますか?」
恐る恐るマントはアブゾーブを見つめて言った。
「怒る?何故?」
「いや、アブゾーブ様の自尊心に傷をつけてしまったのではないかと…そう思いましてーー
と、マントが言いかけた時だった。
「馬鹿野郎…俺の為を思って決断したお前を怒る理由がどこにあるってんだ。俺の自尊心?馬鹿言ってんじゃねーよ…俺みたいな闘うことにしか能のない奴にそんな大層なもんあるわけねーだろが」
アブゾーブは寂しそうな瞳をマントに向けてそう言った。
「あ、アブゾーブ様…」
「俺がお前に求めてんのはな、そんな薄っぺらいもんじゃねーんだよ…なぁマントよ、俺はお前を最高の相棒だと認めてんだ。だからさ、俺の自尊心がどうだとか…そんなどうだっていいことをいちいち気にしないでほしんだ…」
アブゾーブはそんな言葉の後、シクシク涙を流し始めた。
そのアブゾーブの姿を見て、マントもまた涙した。それは部下である自分をこんなにまで信頼してくれているアブゾーブに心をうたれ、様々な感情が渦巻き、やはりアブゾーブを信じてこれまでついてきたことの正しさを改めて実感したからだった。
「……結局、僕はアブゾーブ様の為だと言いつつも、その本心はただアブゾーブ様を失いたくないという僕のエゴだったからに過ぎなかったのかもしれません…僕は…何て愚かなんだ…」
「……ありがとよマント。お前がそこまで俺を慕ってくれてんの、すっげー嬉しいよ。だけどな、二度目はねーからな?」
アブゾーブはマントの頭をクシャクシャと荒く撫でた。
マントはそんなアブゾーブの優しさに触れて、嗚咽を漏らして泣き続けるのだった…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
デイトナ達が隠れ家に着いた矢先だった。
「え、何あれ…」
隠れ家を中をこっそりと覗くルーシェがボソリと呟いた。
ルーシェの瞳に、泣きじゃくるマントを慰めるようには寄り添うアブゾーブが映っていた。その異様な光景にルーシェの目は奪われる。
その時のルーシェとは、彼等に何があって今の状況になったのかは分からないにしろ、妙に興奮していたのは確かだった。
「ん、どうかしたの?」
「い、いや…どうかしてるっちゃどうかしてますけど…」
「何だよ、僕にも見せてよ」
「だ、駄目ですデイトナ様、見ない方がいいです」
「な、何でだよ!?」
「子供には早い…危ない香りがするからです」
「危ない香り?何だよそれ、余計に気になるじゃないか!?」
「絶対に駄目です。私には目の保養になりますが、デイトナ様には些か理解し難い世界がこの隠れ家が巻き起こっているかもしれないのです!」
「は、はぁ!?意味分からないんだけど!」
デイトナは無理やり覗こうと顔を出すが、
「こら馬鹿王子!やめてください!」
ルーシェはデイトナの頭を殴って阻止した。
「な、何でぶつのさ!?」
「駄目なもの駄目だからです!」
結局、デイトナはアヴァロンと二人空へと戻っていった。
「なぁアヴァロン?中で何があってたんだろうね?」
「………サァ?」
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