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第4章 変わる世界と思い
第20話 天竜信徒
しおりを挟む宣戦布告から、実に二ヶ月が過ぎようとしていた。
デイトナ達の侵略は瞬く間には進行し、既に世界の半分はデイトナ戦線の征服下とあった。
その間に於いてもデイトナ達が組織を築くことはなかったが、デイトナ戦線を崇める熱狂的な信者が生まれ、彼等は[天竜信徒]と呼ばれ、世界各地で連日暴動を繰り広げていた。
実質、彼等[天竜信徒]はデイトナ戦線の実態のない兵隊として、[デイトナ戦線]の名を口に出しては暴れ回る。ついには[アークスター軍]と[ゾロマンティス軍]と世界各地でぶつかる程に。
そんな[天竜信徒]の勢いに押されて、いつしか両軍は敗走を重ねていくのだった…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
この日、デイトナ一行は大陸の中央には位置する世界一の商業国[ミリヤ]へとやってきていた。世界でも一番と呼ばれることもあって、街中には見渡す限りの人で覆われていた。また多種多様なる人種が入り乱れる。
[ミリヤ]は中立国ということもあって、実に平和なものだった。隣国では今もなお過激な戦争が行われていることを知らないとでも言うのか、異様な活気に満ち溢れている。
「平和なもんですね」
アヴァロン、ルーシェ、アブゾーブ、そして街中を並んで歩いたデイトナ一行の中で、そう口にしたのは先頭を歩くマントである。マントはまるで桃源郷にでもやってきたかのようには心躍らせているようである。
「何だマント、お前ここに来るのは初めてか?」
とアブゾーブはガハハと笑って、先ほど買ったばかりの鳥の胸焼きを豪快に齧り切った。
「ええ…その口振りだと、アブゾーブ様は来たことがあるのですか?」
「いや、ねぇけど」
「……そ、そうですか」
マントは呆れた顔を浮かべていた。
………
……
…
やたらと薄暗い路地裏へ入った矢先の事である、見るからに怪しい黒マントの男がデイトナ達の前に立ち塞がった。
「…お待ちしておりました」
男は低い声で言って、まじまじとはデイトナの顔を覗いていた。そして確認が終わったのか、「こちらへ」とは路地裏の奥へ。
「デイトナ様、彼が使いの者ですか?」
と、ルーシェが徐ろに訊いた。
「ああ、どうやらそうみたいだね」
「見るからに薄汚そうな奴でしたけど、本当に大丈夫ですか?」
「そんな言い方はよさないかルーシェ。彼等は僕の戦いに協力してくれる同士なんだからさ?」
「…白々しい言い方ですね。駒にしか思ってないでしょうに」
分かり切った様子ではルーシェは言った。
デイトナの目論見とは、どうやらルーシェには見透かされているようである。
彼等[天竜使徒]は僕等の代わりには勝手に紛争を起こしてくれる優秀な駒だ。最近ではデイトナ達が直接戦うことはなく、専ら[天竜信徒]と呼称される彼等が日夜争いに明け暮れていた。
別にデイトナが直接従えているわけではないのにも関わらず、どこからともなく現れた[天竜使徒]が争いを代行してくれている。これを優秀な駒とせず何と言うかーーーそれがデイトナの考えであった。ただ、それを口に出してしまう程デイトナも愚かではなかった。
「ルーシェ、くれぐれも彼等[天竜使徒]の前ではそのような口を叩かないでくれよ?」
「分かってますよそんなこと」
「ーーーつまりだ、デイトナはあいつら[天竜使徒]に近づくためにここに来たわけだな」
そう言ったのはアブゾーブ、ルーシェの横からニュッと顔を出しては尋ねた。
「そうだとも。このまま勝手に暴れてくれるのもいいけど、どうせ暴れてくれるのなら僕等の為に暴れてくれた方が助かるだろ?」
「違いねぇ。でも、よく連絡がついたな。[天竜使徒]に繋がりでもあったのか?」
疑問そうには言ったアブゾーブに対し、マントが手を挙げた。
「接触を図ったのは僕です。ちょっとした協力者がいたもので…といっても、味方呼べるほど信頼にたる人物じゃありませんので、くれぐれも油断だけはしないようにお願いします」
「何だそれ!俺はそんなの聞いてねーぞ!」
アブゾーブが口を尖らせては言った。そんなアブゾーブに対し、ルーシェはすかさず茶化すようには、
「何よあんた、妬いてるわけ?」
「は、はぁ!?んなわけねーだろ!?」
「そう?私には『俺様以外の関係なんて認めねーぞゴラァッ』って怒鳴ってる風には見えるんだけど?」
「そ、そうなのですかアブゾーブ様!?」
と、マントは目を輝かせてアブゾーブを見た。それは純粋なる喜びであり、心から尊敬しているアブゾーブにそこまで思われていると知って嬉しくて堪らない様子であった。
ただ、そんなマントの思いとは裏腹に、ルーシェは悪戯な笑みを浮かべてアブゾーブを流し見て、
「良かったじゃない、相思相愛で?」
「う、うるせーぞこの腐れ女!!」
[天竜使徒]の男に着いて歩く間、アブゾーブは終始、苛立ちを浮かべ続けていたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
[天竜使徒]に隠れ家に着いて最初、僕は一人とある部屋へと通されようとしていた。
「皆様はどうかこちらでお待ち下さい」
そう言って皆んなを別の部屋へと誘導させようとする[天竜使徒]の男に、アヴァロンは突っかかった。
「…デイトナを、もう一人にさせない」
革命軍との一件があってからと言うもの、アヴァロンは常には僕のそばを片時も離れようとはしなかった。
というわけで、一度言い出したら聞かないアヴァロンは僕に着いてきた。僕とアヴァロンはとある一室へ、皆は別部屋へと移される。
皆との別れ際、背後からルーシェの声が聞こえた。
「何かあった時は…」
そう言いかけて、僕が振り返った時には既にルーシェは別部屋へと入っていった後だった。ただ最後まで聞かなくても何と言おうとしてたか分かり切っていただけに、僕は「お互いね」とは、独り言のようには呟いた。
部屋に入って、そこら薄暗いランプの灯りだけが頼りの不気味な部屋であった。真昼間だというのにカーテンを締め切り、完全には外部との繋がりを絶っているかのようである。
「お待たせしました。教祖」
しばらくして、そんなセリフと共に一人の女性が姿を現した。先ほどの[天竜使徒]の男同様に黒いマントに身を包み、浅くフードを被る、紫色の髪のーーーランプの灯りに照らされた女性の整った顔立ちが僕の目に映し出されていた。
「教祖?おいおい、僕は別に君らの教祖になったつもりはないけど?」
そう言った僕に対し、その女性は薄っすらと笑みを浮かばせて、
「まぁそう邪険にしないで下さい」
続けて、
「私の名は[ボイス・リボンズ]。[天竜使徒]のリーダーをやっているものです」
「リーダー?つまり今世界各地で起きてる暴動の全ては貴女の命令で?」
「いえいえ、そうじゃありません。リーダーと言っても、私はただの飾り物、いわば[天竜使徒]の発足を呼びかけた言い出しっぺであり、だから一応はリーダーという扱いなのです。大元を辿れば[天竜の遣い]であるあなた方と、そして教祖デイトナ様の存在こそが我々の指針なのです」
リボンズは流暢には語って、目線を僕からアヴァロンへと移した。
「それで教祖、こちらの女性は?」
「ああ、彼女はアヴァロン。僕の付き人のような者さ。ほらアヴァロン、リボンズさんに挨拶を」
と、アヴァロンの肩に手を置いたーー次の瞬間、アヴァロンは唐突に僕の体を抱き寄せては僕の頰に自身の頰を擦り付けて、
「……デイトナは私のもの…」
そう言って、きつくリボンズを睨みつけた。どうやら何か勘違いしているらしい。
「おやおや、ただの付き人ではないようですね。教祖、それならそうと早く言ってくれれば良いものを…」
リボンズはやれやれといった様子では肩をすくめ鼻息を漏らした。いけない、完全に勘違いされている。
「あ、アヴァロン、今はよさないか…」
「…じゃあ後で?」
「そう、後で」
「…約束?」
「ああ、約束だ」
僕がアヴァロンの頭を撫でると、
「…指切り」
アヴァロンは頰を紅潮させては俯いて、そう呟いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
僕らは椅子に腰つかせ、話し合いを始めた。といっても、最初はリボンズからの質問責めで、僕らが何者なのか、どうして伝説の竜王の一角とされる[時渡りの混沌の始祖竜ーー白竜]と同じ白銀色の竜を従えているのかとか、そんな辺りを一方的には問いただされた。
もちろん素直に答えるわけもなく、そういった諸々を教えることしなかった。代わりといって、僕は、
「これは神より授かりし偉大なる力である。それを口で説明することはできないし、何よりそれを人間風情が理解しようなどとは些か傲慢が過ぎるのでは?」
と、凄みをだしては答えた。
「た、確かにその通りですね。失礼いたしました…」
リボンズは頭を深く下げた。どうやら僕の適当な言葉がかなり効いたらしい。
「頭を上げてくれリボンズ。今日はそんなものを拝みにきたのではない」
「そ、そうでした。では、まずは我々[天竜使徒]の現状況についてですが…」
リボンズはすぐ様態度を切り替えて、真剣な眼差しを浮かべた。
「世界各地で起きている[天竜使徒]と各軍との戦ですが、今のところ攻勢に傾いています。というのも、[天竜使徒]に続々と志願者が増えており、数で軍を勝り始めているのです」
「ほう、凄いじゃないか」
素直に感心していた。というのも、まさかこんな展開になるとはかつての僕は想像もついていなかったのだ。
それからリボンズは[天竜使徒]の活躍についてをツラツラと述べ、その理念などを熱く語っていた。僕はその間一切口を口を挟むことはせず、さも感心しているかのようには頭をウンウンと頷かせ、
徐にリボンズの手を掴むと、力強く握って、
「君ら[天竜使徒]の活躍は僕らの耳にもちゃんと届いていてね、今日この場に貴女達を呼んだのはその事をねぎらいたかったからなんだ」
という、嘘を口にした。本当を言えばどんな組織なのか気になって確かめにきたのであって、もしも僕らの戦いに乗じて名声を上げようとしている輩であったら始末しようと考えていたのである。
ただそれもどうやら僕の思い過ごしのようであった。そのことがリボンズの言葉からひしひしと伝わったのである。
そして、僕にはとある考えが浮上し始めていた。
「時にリボンズ、この[ミリヤ]にはどれくらいの[天竜使徒]が集まっているんだい?」
「数にして500。皆、教祖を一目見ようとこの地に集まった[天竜使徒]の幹部達であります」
「ふふ、そうか。だったら、[天竜の遣い]として、挨拶しないわけにもいかないな…」
「えっと、つまり…」
リボンズは口籠った。そして、上目を向けてはゆっくりと口を開いた。
「教祖、皆の前に立ってくれるのですか?」
そう言ったリボンズに対し、僕は「ああ」と一言、ニヤリと笑っては答えた。
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