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第5章
第2話 俺は、バンキス=トールだ!
しおりを挟む「で、結局あの魔物の軍勢は何だったんだろうか…」
ふと冷静になってみて、俺はそんな一抹の疑問に首を傾げていた。
あれ程の軍勢がこの大地に進行してきているなんて普通じゃあり得ない。魔王軍と冒険者達が過激な争いを繰り広げている中央大陸ならまだしも、こんな辺鄙な場所であれ程の魔物達を拝めるなんてどうにかしている。
と、そんな俺の疑問に応えてくれたのは意外や意外にもビルマで、
「あれ、この大地にいるとされるゴッド様とやらを葬ろうと現魔王が送り込んだ精鋭軍隊やよ?」
なんて、耳にしたくない事をスラスラと応えてくれたのは意外や意外にもビルマだった。
「ビ、ビルマ…今なんて?」
「だから、さっきの魔王軍の精鋭軍隊。何でも現魔王が大切にしていたレッドドラゴンを潰したゴッド様っていうファンキーな奴を抹殺するべくこの地に派遣されたみたいやよ?」
「え、ええええ!?」
緊急事態発生。
つまり何だ!?俺はその魔物の精鋭軍隊を消し炭にしてしまったわけか!?いかん!何て事をしてしまったんだ俺は!?魔王に喧嘩売っちゃってわけ!?
「うわぁああ…最悪だぁああ…」
今更時を巻き戻す事なんていくら俺でもできやしないがもしも本物の神様とやらがいるなら巻き戻してくれ!お願いだから!
「どうしてバンキス落ち込む?」
「いや、俺はまたまた取り返しのつかない事をしてしまったんだよ…レッドドラゴンに続き、まさか魔王お抱えの精鋭軍隊を一体残らず駆逐してしまったわけだから…ああ!俺の冒険スローライフが崩れてしまうかもしれない!?」
「ん?じゃあそのゴッド様っていうのは…もしかして、バンキスの事?」
「……いや違うとも言えるし、そうとも言える。てか待て、何でお前がそんな事知っている?ま、まさか今のは冗談か!?冗談なんだな!?そうなんだな!?」
「いや本当やよ。だってほらウチ、これあるし」
と、ビルマは例の地上の様子が見れるという魔法の手鏡を取り出した。その手鏡を見てしまった手前、「そう言えばそうだった…」とは真実を受け入れる他ない。
「ウチ、仮にも元魔王やし、魔王軍の動きはずっと見てた。だからわかる。あれは間違いなく魔王軍。そしてバンキスが消し炭したのも魔王軍。そういうこと。バンキスマジやばいってこと」
だそうだ。
「はぁ…でもじゃあこれからどうすっかなぁ…」
「魔王軍と、戦う?」
「却下」
「じゃあ、今すぐこの地を離れたら?」
「まぁそうするのが妥当だなぁ…って、何で?」
「だって、あれ」
そう言って、ビルマはカルママルク街のある方角を指差した。一体全体どういうことだと目を凝らして見て、俺はその意味を悟る。
「あ、あれは!?」
マルシャとルクスとガイル…それと、
「あれ、魔王軍の誇る最高戦力の一角やね。魔王軍には古来より魔王を支える[六王眷属]ってのがいて、」
「ろ、六王眷属!?」
禍々しい呼び名だなぁおい…
「で、あれは六王眷属の一人、魔王軍随一の魔剣士とは謳われている[魔剣豪ガイスト=バスタード]やね。あいつ一人でさっきバンキスが消した精鋭軍隊ね10倍ぐらいの戦力はあるよ。あいつまだ生きとったんやね、ウチあいつマジ嫌い」
「で、何で俺の愉快な仲間達がそんな聞くからにヤバそーな奴と熾烈な争いを繰り広げているのかという件について…」
「さぁ?冒険者だから、違う」
「違わない。けど、あいつら冒険者辞めた筈じゃねーのかよ!?」
ただそうは言っておいて、あれは間違いなく俺の仲間達だった。
一人はマルシャ=クレーヌと言って伝説の勇者ハイトリックうんたらかんたら様の血を引く少女で、今は何故か丸太をぶん回して闘っていらっしゃる…てか何で丸太!?
「ヒィーハァーッ!!どうした魔物ぉお!?そんなんじゃ私は殺れねぇえええぞゴラァああああッ!!」
と、耳を澄ませば荒々しいマルシャの雄叫びが聞こえてくるではないか。この時ばかりは人知を超越し切った聴力を恨んだね。聞きたくなかったよほんと。
で、お次は?
「貴方は死にます!いや死刑!死刑死刑死刑!死にたくなかったらこのパワーストーンでも喰らえええ!!!!」
と、何故か死の宣告を繰り返す占い師となった筈のルクスだ。全身からものすっごい雷を放っている。また何故か石コロを投げている。ほんと理解不能。
で、最後は?
「この野郎ぉおおお!!よくも私の人生無茶苦茶にしてくれたなぁああああああ!!ぞぉおおおおいッ!!!」
マジで何の事言ってんだかよく分からん変な奴。魔王軍から冒険者へ、そしてアイドルへと転向した人物設定が破綻しているガイルその人だ。
そんなトチ狂った少女達と真っ向から対峙するは今しがたビルマから聞いた六王眷属とか言う魔剣豪ガイスト=バスタードとやらで、
「ぶははははははははッ!!やるな冒険者達よ!!この我に楯突くとはいい度胸だッ!それが蛮勇である事を思い知らせてくれるわッ!!」
と、魔王軍らしい悪っぽい台詞を吐いていた。そして、
「てかガイル様、ほんといい加減にして下さいよ!?」
とも、困ったようにはそう言っている。
うん、どいつもこいつも舐めてんのか?
「バンキス、どうするの?」
不意にビルマが尋ねてきた。ただ正直言ってどうしようかと頭を悩ます俺は答えあぐねていた。
「どうしよう…むしろビルマ、俺どうしたらいい?」
「知らん」
「だよなぁ…」
「でも、このままじゃ、バンキスの仲間達、死ぬ」
え、
「マジで?」
「マジ。ガイストはああ見えてクソ強い」
いや見たまんま滅茶クソ強そうな件について。
「私もフルパワーじゃなきゃ倒せない。だから、今は無理。力に、なれない」
ビルマはションボリとそう言って肩を落とした。
「成る程な、さすが六王眷属とやらなだけはあるな…でも確かに、あいつら三人とまともにやり合ってるわけだし…」
「ガイスト、まだ本気だしてない。あいつ、マジ卑怯。相手が疲れた時に、本気だしてくる。ほんと、嫌い。死ねばいいのに」
と、何故かビルマはキレていた。
「あ、あいつと昔なんかあったのか?」
「うん。まだ私が魔王だった頃、マシュマロを買いに人間の街に行こうとしたら、」
いやいやいや魔王が何やってんの!?
「あいつ…ガイストが私を止めてきて、殺そうとしてきた。だから半殺しにしてやった、マジむかつく」
お前らの日常殺伐とし過ぎだろ!?世紀末かよ!?
「もう何の会話してんだかよく分かんねーよ俺…」
「で、どうするの、バンキス?」
「……そうだなぁ…」
「仲間、見捨てる?」
「……」
そんな言い方あんまりだろ?
それに、もうあいつらは仲間じゃない。そうさ、だってあいつらは冒険者を辞めたんだ。何故か今は闘ってるみたいだけどそんなん俺の知ったこっちゃねーしよ?
「ほんとに、それでいいの?」
「……」
いいに決まってる。そうが一番正しい選択だと俺は知っている。それは今までの旅路でよく理解している事じゃねーか、なぁ、俺よ?
迷う必要なんてないんだよ。このままあいつらを助ければまた波乱万丈の旅に逆戻り。いつ何時だって心休まる時間はない。毎日ヒヤヒヤしながら過ごさなければならないワケじゃないか。
それにグングニルの存在をこれ以上知られたら本当に大変な事になってしまう。あのガイストとかいう六王眷属を倒すには間違いなく俺のグングニルが必要だ。それってのはまた一歩非日常に近づくって、つまりはそういうことだろ?
ないないない、辞めだ辞めだ。このまま見て見ぬふりして逃げろバンキス。お前は賢い奴だ。逃げて逃げて逃げまくっていいんだよ。そうして最後に自分だけが美味しい思いが出来ればそれでいいじゃねーか?
そういう未来を、ずっと望んでたんじゃねーのかよ?
その為の魔槍グングニル、神より授かりし絶対的力。その魔槍を持つ者に揺るぎない勝利を。神にだけ持つ事を許されたそんな魔槍とは、俺の自由の為だけにある。つまり俺は神だ。何をしたっていい。この世界の神だから…
『誰を生かすも殺すも、俺の自由、なんだからよ』
「……」
「バンキス?」
「…なぁビルマ、お前から見た俺とは何だ?」
「どうしたの、いきなり」
「いいから答えてくれ。お前には俺が、どういう風に映る?」
そんな俺の問い掛けに、ビルマはゆっくりと口を開いて、
「…神、だとは思いたいけど、やっぱり、バンキスはバンキスやよ?馬鹿そうで、実際に馬鹿で、でも、優しくて、強い、そんな冒険者、バンキス!」
ニッコリと笑って、そう言うのだ。
「ウチ、そんなバンキス、大好きやよ?」
「……はは、言ってくれんな?俺をロリコンにでもするつもりか?」
「だからウチ、ロリじゃない!お姉さん!」
「はいはい、悪かった!そうだお前はお姉さんだった!」
「…ふん、思ってないくせに」
ビルマはほっぺたをプクッと膨らませた。やっぱどっからどう見ても幼女、圧倒的幼女だ。
でも、俺が助けた、一人の人間でもある。俺のグングニルが役に立つ事を証明してくれた人間なのだ。だから…
「ビルマ、俺はまた過ちを犯す。それは多分、すごく良くない事だ。それでも俺は…グングニルを、俺の力を使おうって、そう思う。そんな俺は間違っていると思うか?」
「……全然?」
「はは、だよな」
答えは決した。
俺はグングニルを握りしめる。神の力を手に、今一度だけ、この力を放つ。
例えそれが過ちであっても。
だって俺は、
「ビルマ、俺ちょっくら行ってくるわ。だからここでお別れ、今度は捕まんなよ?」
「…うん、分かってる。ありがとうバンキス…ばいばい」
だって俺は!
「バンキス!」
「ん?」
「……またね!いつか!また!」
「おう!またな!」
俺はッ!!
「待ってろお前らぁああああああああああ!!!」
俺は、冒険者バンキス=トールだから!!
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