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第三章 マリーアントワネット
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結局その日は何事もなく、天童さんはそのうち仕事があるからと勝手気ままに店を出て行った。そうして報告とばかりに二階へ、今日も無事平和に終わりましたと伝えにいくことに。
「結衣くん、申し訳ありませんでした」
相変わらず、ほだか先生の体調は悪いままだった。食欲がないとのことだったので、今日はなにも作っていない。紅麗亜ちゃんの件については、言う気もしなかった。
「ではほだか先生、また明日」
ほだか先生は立てた片膝に肘をつけて、窓際に座ったまま「ええ、また明日」と憂鬱そうな横顔。目線は窓の向こうへ。
雨は、未だ忙しなく降り続けている──
「薫」
「え?」
「いえ、薫はちゃんと帰りましたかと、気になりまして」
「ああ、天童さんならいつも通り、一人さっさと帰って行きましたよ。あの人も、ほんと変わりませんよね」
「そうでしたか。それなら良かった」
ほだか先生は薄く笑った。今日一番の、それは安堵に満ちた表情だった。本当に、ほだか先生は天童さんのことが好きなのだろう。もちろん、友達という意味で。
「あ、そう言えば聞きましたよ。天童さん、美容師を目指してるそうですね」それに──「来年、国家試験に合格したらここで働くとも聞きましたけど、本当ですか?」
「……一応、そのつもりです」
「やっぱり、そうだったんですねえ」
ほだか先生と天童さん、そこにわたし。一体どんな雰囲気になるんだろうか~って考えてみたけれど、それ結局いつもと同じだ。変わらない日常。穏やかな日々。仮にも変化があるとすれば……もしも天童さんがここで働くことになったら、わたしはどうなるのかな? さすがに三人もいらないだろうし、ましてやわたしはなにもできないわけですし。
ま、そのときはその時だろう。別に会えなくなるわけじゃないし、わたしがお客さまに戻るだけの話。遊びに行くことだってできるのだから。やっぱりほら、なにも変わらない。変わらない日常、穏やかな日々だ。
「楽しくなるといいですね」
笑って頷くほだか先生。この笑顔も、きっと変わらないはずだ。幾分ほだか先生の顔色が良くなった気がしたので、本日は大人しく帰ることにした。時刻は午後8時前。頃合いである。店を出て、深沢駅へ。モノレールに乗った。その途中にも雨が止んだようで、大船駅に着く頃には誰も傘をさしてはいなかった。ちょうど良い。この流れで、もう一度喫茶店に寄ってみるか──と。
「ゆ、結衣!?」「如月!?」
「あ、ははは……ご無沙汰しております」
タイミングが良いのか悪いのか、ちょうど店から出てきたマッチョ系男子小山さん(29)、これは相変わらず。その隣に並ぶは、まるで別人みたいな髪をはやした店長(42)だ。二人とも早上がりなのだろうか。それにしても、犬猿の仲で有名だった彼らの組み合わせは些か意外だった。しかも、腕なんか組んじゃって……それはさすがにやり過ぎでしょ。
わたしたちは見つめ固まったまま、しばらく動かない。ただ店長は突然我に返ったのか、小山さんから腕を離し「こほんっ」と咳払いをした。しかも、なぜか顔が真っ赤だった。そんな店長を見ては、改めて思わされる。本当に別人みたいだ。それは髪が生えて若返って見えることにしてもそうだし、それに髪がなかっただけで店長はなかなかに美形な顔立ちをしている。「これでも昔はモテていた」という店長の自慢話も、今では納得かもしれない。
一方で肩を震わせる小山さんは、わたしのことを睨みつけてくる。しかも、こっちはなぜか涙目だった。意味が分からない。
「やっと、気持ちに整理をつけたばかりだってのに。結衣、お前ってやつは……」
「?」
「俺が、どんなに苦しんだと思ってるんだ!」
「!?」
小山さんが怒声を発する。鼻息を荒くさせて、かなり興奮している。店長が慌てて宥めようとするが、聞き耳すら持たない様子だ。
「俺はこの通り、今では幸せにやっている! それが今更なんだってんだ!? そうやって俺の心を弄んで、まさか楽しんでいるのか!?」
「おい小山っ、そのくらいに」
「なっ、店長! なんであんたはいつもそうなんだ!? 俺の気持ちも知らないで……」
あんたなんか、もう知らない! ──関係をこじらせ癇癪を起こした彼女みたく叫んだ小山さんは、目尻から極玉の涙の粒を垂らしながら駅の方へと走り去っていった。「なんだぁ?」と、周囲の目線がとにかく痛い。いや、ほんとになんなのこれ?
「如月、一度店の中へ。いいから」
「は、はぁ……」
状況はよく分からなったけれど、ひとまずは店長の背に続き元職場の店内へと入った。レジにいるのは見たことのない若い女の子。新しいバイトの子だろうか。紅麗亜ちゃんの姿はなかった。そのままバックルームへと連れて行かれた。懐かしい。一ヶ月ぶりだ。最後は店長と言い争って、そのまま終わったんだよね。
店長はバックルーム奥のデスクに腰かけ、はぁと重たいため息を吐いた。また頭に手をあてて、クシャクシャと髪を掻き乱す。唖然とする。店長と目があった。
「勘違いするな、ヅラじゃない。埋め込み式って言ってな、結構高かったんだぞ」
そうらしい。わたしは「はぁ」と気の抜けた返事しかできなかった。もういろんなことがいっぺんに振りかかってきたので、なにがなんだかさっぱり理解不能だった。
「まずは如月、先に謝っておきたい。あの時はその、悪かったな。紅麗亜から聞いたよ。あいつを、庇ってくれたんだってな」
これも意外だった。あの偏屈だった店長が、自分から頭を下げてきたのだ。一体、この一ヶ月間の内になにがあったというのだろうか。そんなわたしの疑問を察してくれたみたく、店長は自ずとここ一ヶ月のことについてを語り始めた。
「如月が辞めた後、それは酷いもんでな。店が全く回らないんだ。言い方は悪いかもしれないが、如月はただのアルバイター。俺はそんな風に思っていたし、それまではアルバイトが一人辞めたところで、なにも変化はなかったんだが……」
わたしが辞めた後のことについて、つまりはこういうことだ──スタッフ間で常日頃から募り積もっていた店長に対する不満が、わたしを辞めさせたことにより爆発。一時期は店を閉めないといけないかもしれないと思わされるレベルの、結構なボイコットが発生しかけた。
「さすがにマズイと思ってな、みんなの前で土下座したよ。恥、なんてものはなかったな。そのくらい必死だったんだ。それからだよ、俺が気持ちを改めたのは」
それから、店長は誠意を示すためにフロアに立つようになった。最初はパフォーマンスのつもりで、本気ではなかったらしい。ただそんなことで仕事をこなせるほど、喫茶店業界も甘くはない。
店長が実際にフロアに立っていた十数年前と比べて、店の形態もだいぶ変わった。それはシステムにしても、客層にしても。案の定、店長は上手くやれなかった。「ざまぁみろ」とスタッフたちに嘲笑われ、何度も退職を考えたらしい。その頃にも、だったみたいだ。店長と小山さんの中で、なにかが変わり始めた。
「俺と小山の仲が悪かったのは、如月がよく知っていると思う。俺自身、小山には絶対に嫌われていると思っていたしな。恨まれても仕方がない。それなのにだ。小山、あいつは……こんな最低な俺を、見捨てないでくれたんだ」
小山さんは、なんだかんだ言いながらも店長のサポートへ回り始めた。小山さん曰く「あんたのそんな姿は見たくない」とのことらしい。そう言えば、小山さんがこの喫茶店で働き始めて今年で10年目だ。大学生のときにアルバイトとして入り、そのまま正社員になったと聞いたことがある。店長がここに赴任したのも、確か同じくらいだったはず。人情が芽生えたとしても、不思議ではない。
不思議なのは、そこじゃなかった。
「俺と小山が付き合いはじめたのは、それからだよ……俺はこの通り、生まれ変わったんだ」
「いやいや、どうしてそうなるんですか!?」
「どうしたもこうしたも、そうなったんだから仕方ないだろ。俺も小山も自分の気持ちに気付いてなかっただけで、蓋を開けてみればそういうことだったんだよ。俺たちは素直になって、本当の愛に目覚めたんだ。だから如月……俺の言いたいこと、分かるだろ? まだみんなには内緒にしているが、そういうことなんだ」
もはやカオス過ぎてついていけない。
その後も店長は小山さんへの愛を語るが、果てしなくどうでも良かった。話は右から左へ。そしてようやく話に一段落ついたのか、店長は改まって言ってきた。
「如月、お前には本当に感謝している。そして、謝りたいんだ。俺が気付けなかっただけで、この店にとって如月がどれだけ大事な存在だったかということを思い知らされた。みんなが言っていたよ……如月がいた頃は、店が楽しかったってさ」
「えっと、そうなんですか?」
「ああ。みんな、口には出さないだけで、如月のことを大事に思っていたようだ。大事なものは、失って初めて気付かされる……俺たちは、それを如月から学んだんだ」
と、しみじみ語る店長。「惜しい人を亡くしました」みたいに言わないでくれるかな……でも、そうだなぁ。正味な話、わたしはこのバイト先で時給が高いとか安いとかを気にしたことはない。もちろんお金は大事だったけれど、でも一番大事だったのは人間関係だ。店長とはいろいろと揉めたが、周りのスタッフたちとはうまくやっていたし、わたしも楽しかった。だから、そんなスタッフみんなに必要とされていたことを知れて、素直に嬉しかった。胸に、じーんと暖かい感情が流れてくる。
そして、店長は真理に辿り着いたようである。
「ここで働く全員が、俺のファミリーだ! 俺はようやく、それに気付いたんだ!」
さすがにそれは誇張し過ぎじゃないかな? 悪いことではないと思うけれど……。
「だから如月、頼みがある。俺は、もうこれ以上同じ過ちを繰り返したくない。大事なファミリーを……救ってやりたいんだ」
話の角度180度くらい曲がる。店長は言った。
「紅麗亜のことについてなんだが──」
「結衣くん、申し訳ありませんでした」
相変わらず、ほだか先生の体調は悪いままだった。食欲がないとのことだったので、今日はなにも作っていない。紅麗亜ちゃんの件については、言う気もしなかった。
「ではほだか先生、また明日」
ほだか先生は立てた片膝に肘をつけて、窓際に座ったまま「ええ、また明日」と憂鬱そうな横顔。目線は窓の向こうへ。
雨は、未だ忙しなく降り続けている──
「薫」
「え?」
「いえ、薫はちゃんと帰りましたかと、気になりまして」
「ああ、天童さんならいつも通り、一人さっさと帰って行きましたよ。あの人も、ほんと変わりませんよね」
「そうでしたか。それなら良かった」
ほだか先生は薄く笑った。今日一番の、それは安堵に満ちた表情だった。本当に、ほだか先生は天童さんのことが好きなのだろう。もちろん、友達という意味で。
「あ、そう言えば聞きましたよ。天童さん、美容師を目指してるそうですね」それに──「来年、国家試験に合格したらここで働くとも聞きましたけど、本当ですか?」
「……一応、そのつもりです」
「やっぱり、そうだったんですねえ」
ほだか先生と天童さん、そこにわたし。一体どんな雰囲気になるんだろうか~って考えてみたけれど、それ結局いつもと同じだ。変わらない日常。穏やかな日々。仮にも変化があるとすれば……もしも天童さんがここで働くことになったら、わたしはどうなるのかな? さすがに三人もいらないだろうし、ましてやわたしはなにもできないわけですし。
ま、そのときはその時だろう。別に会えなくなるわけじゃないし、わたしがお客さまに戻るだけの話。遊びに行くことだってできるのだから。やっぱりほら、なにも変わらない。変わらない日常、穏やかな日々だ。
「楽しくなるといいですね」
笑って頷くほだか先生。この笑顔も、きっと変わらないはずだ。幾分ほだか先生の顔色が良くなった気がしたので、本日は大人しく帰ることにした。時刻は午後8時前。頃合いである。店を出て、深沢駅へ。モノレールに乗った。その途中にも雨が止んだようで、大船駅に着く頃には誰も傘をさしてはいなかった。ちょうど良い。この流れで、もう一度喫茶店に寄ってみるか──と。
「ゆ、結衣!?」「如月!?」
「あ、ははは……ご無沙汰しております」
タイミングが良いのか悪いのか、ちょうど店から出てきたマッチョ系男子小山さん(29)、これは相変わらず。その隣に並ぶは、まるで別人みたいな髪をはやした店長(42)だ。二人とも早上がりなのだろうか。それにしても、犬猿の仲で有名だった彼らの組み合わせは些か意外だった。しかも、腕なんか組んじゃって……それはさすがにやり過ぎでしょ。
わたしたちは見つめ固まったまま、しばらく動かない。ただ店長は突然我に返ったのか、小山さんから腕を離し「こほんっ」と咳払いをした。しかも、なぜか顔が真っ赤だった。そんな店長を見ては、改めて思わされる。本当に別人みたいだ。それは髪が生えて若返って見えることにしてもそうだし、それに髪がなかっただけで店長はなかなかに美形な顔立ちをしている。「これでも昔はモテていた」という店長の自慢話も、今では納得かもしれない。
一方で肩を震わせる小山さんは、わたしのことを睨みつけてくる。しかも、こっちはなぜか涙目だった。意味が分からない。
「やっと、気持ちに整理をつけたばかりだってのに。結衣、お前ってやつは……」
「?」
「俺が、どんなに苦しんだと思ってるんだ!」
「!?」
小山さんが怒声を発する。鼻息を荒くさせて、かなり興奮している。店長が慌てて宥めようとするが、聞き耳すら持たない様子だ。
「俺はこの通り、今では幸せにやっている! それが今更なんだってんだ!? そうやって俺の心を弄んで、まさか楽しんでいるのか!?」
「おい小山っ、そのくらいに」
「なっ、店長! なんであんたはいつもそうなんだ!? 俺の気持ちも知らないで……」
あんたなんか、もう知らない! ──関係をこじらせ癇癪を起こした彼女みたく叫んだ小山さんは、目尻から極玉の涙の粒を垂らしながら駅の方へと走り去っていった。「なんだぁ?」と、周囲の目線がとにかく痛い。いや、ほんとになんなのこれ?
「如月、一度店の中へ。いいから」
「は、はぁ……」
状況はよく分からなったけれど、ひとまずは店長の背に続き元職場の店内へと入った。レジにいるのは見たことのない若い女の子。新しいバイトの子だろうか。紅麗亜ちゃんの姿はなかった。そのままバックルームへと連れて行かれた。懐かしい。一ヶ月ぶりだ。最後は店長と言い争って、そのまま終わったんだよね。
店長はバックルーム奥のデスクに腰かけ、はぁと重たいため息を吐いた。また頭に手をあてて、クシャクシャと髪を掻き乱す。唖然とする。店長と目があった。
「勘違いするな、ヅラじゃない。埋め込み式って言ってな、結構高かったんだぞ」
そうらしい。わたしは「はぁ」と気の抜けた返事しかできなかった。もういろんなことがいっぺんに振りかかってきたので、なにがなんだかさっぱり理解不能だった。
「まずは如月、先に謝っておきたい。あの時はその、悪かったな。紅麗亜から聞いたよ。あいつを、庇ってくれたんだってな」
これも意外だった。あの偏屈だった店長が、自分から頭を下げてきたのだ。一体、この一ヶ月間の内になにがあったというのだろうか。そんなわたしの疑問を察してくれたみたく、店長は自ずとここ一ヶ月のことについてを語り始めた。
「如月が辞めた後、それは酷いもんでな。店が全く回らないんだ。言い方は悪いかもしれないが、如月はただのアルバイター。俺はそんな風に思っていたし、それまではアルバイトが一人辞めたところで、なにも変化はなかったんだが……」
わたしが辞めた後のことについて、つまりはこういうことだ──スタッフ間で常日頃から募り積もっていた店長に対する不満が、わたしを辞めさせたことにより爆発。一時期は店を閉めないといけないかもしれないと思わされるレベルの、結構なボイコットが発生しかけた。
「さすがにマズイと思ってな、みんなの前で土下座したよ。恥、なんてものはなかったな。そのくらい必死だったんだ。それからだよ、俺が気持ちを改めたのは」
それから、店長は誠意を示すためにフロアに立つようになった。最初はパフォーマンスのつもりで、本気ではなかったらしい。ただそんなことで仕事をこなせるほど、喫茶店業界も甘くはない。
店長が実際にフロアに立っていた十数年前と比べて、店の形態もだいぶ変わった。それはシステムにしても、客層にしても。案の定、店長は上手くやれなかった。「ざまぁみろ」とスタッフたちに嘲笑われ、何度も退職を考えたらしい。その頃にも、だったみたいだ。店長と小山さんの中で、なにかが変わり始めた。
「俺と小山の仲が悪かったのは、如月がよく知っていると思う。俺自身、小山には絶対に嫌われていると思っていたしな。恨まれても仕方がない。それなのにだ。小山、あいつは……こんな最低な俺を、見捨てないでくれたんだ」
小山さんは、なんだかんだ言いながらも店長のサポートへ回り始めた。小山さん曰く「あんたのそんな姿は見たくない」とのことらしい。そう言えば、小山さんがこの喫茶店で働き始めて今年で10年目だ。大学生のときにアルバイトとして入り、そのまま正社員になったと聞いたことがある。店長がここに赴任したのも、確か同じくらいだったはず。人情が芽生えたとしても、不思議ではない。
不思議なのは、そこじゃなかった。
「俺と小山が付き合いはじめたのは、それからだよ……俺はこの通り、生まれ変わったんだ」
「いやいや、どうしてそうなるんですか!?」
「どうしたもこうしたも、そうなったんだから仕方ないだろ。俺も小山も自分の気持ちに気付いてなかっただけで、蓋を開けてみればそういうことだったんだよ。俺たちは素直になって、本当の愛に目覚めたんだ。だから如月……俺の言いたいこと、分かるだろ? まだみんなには内緒にしているが、そういうことなんだ」
もはやカオス過ぎてついていけない。
その後も店長は小山さんへの愛を語るが、果てしなくどうでも良かった。話は右から左へ。そしてようやく話に一段落ついたのか、店長は改まって言ってきた。
「如月、お前には本当に感謝している。そして、謝りたいんだ。俺が気付けなかっただけで、この店にとって如月がどれだけ大事な存在だったかということを思い知らされた。みんなが言っていたよ……如月がいた頃は、店が楽しかったってさ」
「えっと、そうなんですか?」
「ああ。みんな、口には出さないだけで、如月のことを大事に思っていたようだ。大事なものは、失って初めて気付かされる……俺たちは、それを如月から学んだんだ」
と、しみじみ語る店長。「惜しい人を亡くしました」みたいに言わないでくれるかな……でも、そうだなぁ。正味な話、わたしはこのバイト先で時給が高いとか安いとかを気にしたことはない。もちろんお金は大事だったけれど、でも一番大事だったのは人間関係だ。店長とはいろいろと揉めたが、周りのスタッフたちとはうまくやっていたし、わたしも楽しかった。だから、そんなスタッフみんなに必要とされていたことを知れて、素直に嬉しかった。胸に、じーんと暖かい感情が流れてくる。
そして、店長は真理に辿り着いたようである。
「ここで働く全員が、俺のファミリーだ! 俺はようやく、それに気付いたんだ!」
さすがにそれは誇張し過ぎじゃないかな? 悪いことではないと思うけれど……。
「だから如月、頼みがある。俺は、もうこれ以上同じ過ちを繰り返したくない。大事なファミリーを……救ってやりたいんだ」
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「紅麗亜のことについてなんだが──」
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