無能と蔑まれ敵国に送られた私、故郷の料理を振る舞ったら『食の聖女』と呼ばれ皇帝陛下に溺愛されています~今さら返せと言われても、もう遅いです!

夏見ナイ

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第95話:最高の答え

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「……毎日、君の料理が食べたい」

その最後の、あまりにも彼らしい一言。

それはどんな甘い愛の言葉よりも、私の心の一番柔らかい場所にすとんと落ちてきた。

ああ、そうだ。

私たちの始まりはそうだった。

腹を空かせた彼と、一杯のスープ。

皇帝でも聖女でもない。ただの腹ぺこな男の子と、料理好きな女の子。

それが私たちの原点。

そしてこれからも、それは決して変わらないのだ。

私が皇后になったとしても。私がどんなに偉大な存在だと周りから言われたとしても。

この人の前では、私はただ彼の空腹を満たしてあげたいと願う一人の料理人なのだ。

その事実がたまらなく愛おしかった。

私の全ての迷いは綺麗に消え去っていた。

私はゆっくりと涙で濡れた頬を手の甲で拭った。そして、しゃくり上げるのをぐっと堪え、ひざまずく彼を真っ直ぐに見つめ返した。

私の唇に、いつの間にか満開の太陽のような笑顔が咲いていた。

私は私の魂からの答えを告げた。

その声は涙で少しだけ震えていたけれど。でも、今までにないほど力強く、そして幸せな響きを持っていた。

「はい、喜んで!」

その快活な返事。

それは会場にいる誰もが予想していなかった、あまりにも私らしい答えだった。

一瞬きょとんとした顔をしたレオン様の蒼い瞳が、次の瞬間、安堵とそしてどうしようもないほどの愛おしさにくしゃりと細められた。

私は続ける。

これはただの承諾ではない。私の未来への宣誓布告だ。

「ですが陛下。覚悟はよろしいですか?」

私が悪戯っぽくそう問いかけると、彼は幸せそうにこくりと頷いた。

「私の料理は安くはありませんよ」

私は胸を張って高らかに宣言した。

「私の料理であなたと、そしてこの国に生きる全ての人々を、世界で一番幸せにしてみせます!」

聖女として、そして未来の皇后としての私の生涯をかけた誓いの言葉。

その答えを聞いた瞬間。

レオンハルトはもう感情を抑えることができなかった。

彼は勢いよく立ち上がると、私の体をその腕の中に強く、強く抱きしめた。

「……ありがとう、アリア」

私の耳元で、彼の震える声が囁かれた。

「ありがとう……。俺の光…」

その心からの言葉に、私は彼の胸の中で何度も何度も幸せに頷いた。

一瞬の静寂。

そして次の瞬間。

『太陽の間』は、建国以来聞いたこともないほどの爆発的な歓声と拍手の嵐に包まれた。

ワアアアアアアアアッ!

貴族も使節団も身分も国籍も関係ない。誰もが立ち上がり、手を叩き、指笛を鳴らし、この世界で一番幸せな二人の誕生を心の底から祝福していた。

「姫ーーーッ! 陛下ーーーッ! おめでとうございますぞーーーッ!」

ギルバート様はもはや人目もはばからず、その巨体を震わせ滝のような涙を流して号泣していた。

エリオット様は静かに、しかしその口元には満足げな兄のような優しい笑みを浮かべて拍手を送っていた。

そして、皇太后ヴィクロリア様は。

その威厳に満ちた瞳を慈愛に細め、そっと目元をハンカチで押さえていた。

レオン様はゆっくりと私を解放すると、懐から一つの小さなベルベットの箱を取り出した。

その蓋を開けると、中には夜空の星をそのまま閉じ込めたかのような、大きな青い宝石が輝く指輪が収められていた。

「これは代々、ガルディナの皇后に受け継がれてきたものだ」

彼はその指輪をそっと取り出すと。

私の左手の薬指にゆっくりとはめてくれた。

ひんやりとした金属の感触。それは私の新たな運命の重さ。

そして何よりも彼の愛の証。

指輪は、まるで最初からそこにあったかのように私の指にぴったりと収まった。

そのあまりにも美しい光景に、会場の歓声はさらに大きくなる。

そして誰かが叫んだ。

「キスを! 誓いのキスを!」

その声は瞬く間に会場全体のコールとなった。

「キスを! キスを! キスを!」

その熱狂的なコールに、私の顔は茹でダコのように真っ赤になった。

レオン様は少しだけ困ったように笑うと。

「……民の声には応えねばな」

そう囁いた。

そして彼は私の頬にそっと手を添えると。

その唇を優しく私の唇に重ねた。

あの夜の湖畔での初めての口づけとは違う。

これは世界中の人々の前で交わされる永遠の愛の誓い。

その瞬間。

王城の鐘がゴーン、ゴーンと高らかに鳴り響き始めた。

その鐘の音は帝都全土へ、そして帝国全土へと響き渡り、聖女アリアと皇帝レオンハルトの婚約という最高の吉報を、全ての人々に告げ知らせた。

帝国中が歓喜に沸いた。

私の最高の答えは私と彼だけでなく、この国そのものを幸せな未来へと導く始まりの合図となったのだ。
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