無能と蔑まれ敵国に送られた私、故郷の料理を振る舞ったら『食の聖女』と呼ばれ皇帝陛下に溺愛されています~今さら返せと言われても、もう遅いです!

夏見ナイ

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第94話:世界一のプロポーズ

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ひざまずく皇帝。

その歴史的な光景を前に、時間は永遠に引き伸ばされたかのようにゆっくりと流れた。

レオンハルトは、私の震える手をその両手で大切そうに包み込んだ。そして、その蒼い瞳で私の魂の一番深い場所を射抜くかのように、真っ直ぐに見つめた。

彼の唇がゆっくりと開かれる。

静まり返った『太陽の間』に、彼の愛の言葉が響き渡った。

「アリア・フォン・リンドブルム」

その声は、もはや皇帝の威厳を帯びたものではなかった。ただ、一人の男の緊張と決意、そしてありったけの愛情が込められた、少しだけ震える声だった。

「初めて君のスープを飲んだ日。俺の凍てついていた世界は色を取り戻した」

彼は、私たちの出会いから語り始めた。

「君の作る温かい料理は、俺が忘れていた生きる喜びを思い出させてくれた。君の屈託のない笑顔は、俺の孤独な心に光を灯してくれた」

彼の言葉の一つ一つが、私と彼の二人だけの、大切な思い出の扉を開いていく。

「俺は君と出会って初めて知った。誰かを守りたいと。誰かのために生きたいと。心の底からそう願う、この温かい感情を」

会場にいる誰もが息をすることも忘れ、ただ彼の告白に聞き入っていた。それは皇帝が臣下に行う演説ではない。一人の男が愛する女に捧げる、最も美しい恋の詩だった。

「俺は君に何も与えることができない無力な男だ。君は聖女として、すでに民の敬愛をその一身に集めている。君は英雄として、この国の歴史にその名を永遠に刻んだ」

「そんなことは…」

私がか細い声で否定しようとするのを、彼は優しい視線で制した。

「だが、それでも。俺は君に与えたいものがある。俺がこの世界で唯一、君にだけ捧げることができる、たった一つのものを」

彼は私の手を自らの胸へと導いた。彼の力強い心臓の鼓動が、私の手のひらに、とくん、とくんと伝わってくる。

「俺の、未来の全てだ」

その言葉に、私の瞳から一筋、熱い涙がこぼれ落ちた。

そして彼は告げた。

世界中のどんな甘い言葉よりも甘く。
世界中のどんな宝石よりも輝かしく。
世界中のどんな誓いよりも永遠の響きを持つ、その言葉を。

「アリア・フォン・リンドブルム。俺の妻となり、この国の皇后になってほしい」

そのあまりにも真っ直ぐな求婚の言葉。

私の涙腺は完全に決壊した。

ぽろぽろと大粒の涙が次から次へと溢れ出して止まらない。

彼はそんな私を愛おしそうに見つめながら、少しだけ悪戯っぽく笑った。

そして、こう付け加えたのだ。

「……毎日、君の料理が食べたい」

その一言。

その、どこまでも彼らしい、不器用で食いしん坊な愛の言葉。

それが私の心の最後の扉を開け放った。

ああ、この人だ。

私が生涯をかけて愛し、支え、そしてその胃袋を満たし続けてあげたいと、心の底から願う人は。

この世界で一番不器用で優しくて、そして愛おしい、私の皇帝陛下。

私はもう迷わなかった。

私は涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、最高の満開の笑顔で彼を見つめ返した。

そして、私の魂からの答えを告げた。
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