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第二章 シルフェリアとの別れとイリスの覚悟

67話 「魔王の恐怖」

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ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!
悲鳴が木霊となり四方八方から聞こえてくる。

「だーーーーー!!うるっせええええ!!」

《うおおお?エグいな魔王!血も涙もねえ!》

《きも?!きもいぞ魔王!魔王はスプラッタ好きなのか?》

《怖?!魔王怖?!魔王はサディストか?友達になりたくねえ?!》

おい・・・ディスリ過ぎやせんか?ベヒモス君達・・・
いや、これは儂もドン引きだわ、ここまでの威力があるとはなぁ・・・
こんなのそうそう使う技で無かったから忘れておったわい。

あっ・・・・これ追加効果で燃えるんだった・・・

「ああああああーーー?!抜いてくれ!あ・・・ああああああ?!
ぎゃああああああああ?!?!」
ゴオオオオオオオオオオ・・・ゴルド兵の肩を貫いた「影槍」が黒炎に変わる。

「ぐわああああ!!くそおおおおお!!」

5000本の「影槍」が一斉に黒炎に変わると情け容赦無く周囲の枯葉や草に燃え移りスキル範囲が火炎の地獄絵図になる。

ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
ゴオオオオオオオオオオオ!!ギャアアアアアアアア!!!!!ゴオオオオオオオ!!!
先程より5倍増しの悲鳴と空気が焼かれる酷い騒音が発生する。

「だーーーーーー?!だからうるせえっつってんだろ!!」

確かにうるさい!
原生林に燃え移った炎が死んだ者、生きた者、等しく焼き尽くしていく・・・
範囲効果内に居た者はほとんど動く事も出来ずに絶命して行くのだ。
「耐火」スキルを持っている者はひたすらに耐えてこの地獄が終わるの待っている。

《これは酷え?!魔王が酷え!!!》

《ドン引きだ!魔王にドン引きだ!》

《無理!絶対に友達になるの無理!!》

高位存在であるベヒモス達が目の前の惨状を見て恐怖に慄いてる・・・

うん!これはディスられても仕方ないわな。
儂も長く生きて来たがここまで酷い光景はあまり見た事が無いからのう。
この技は暫く封印しようそうしよう。

炎で熱せられた大気が雨雲とぶつかって雨を降らせる、助かった?と思うのは早い。
中途半端に降った雨が水蒸気となって更に火傷を負わせるのだ。

「クソ!蒸気には「耐火」スキルが効かないのか?!」

ふむ、これ以上の延焼は原生林がダメになるな。

「よし!マクシム君!これ以上の延焼を防ぐ為に早急にまだ燃えて無い外周の木を薙ぎ払ってくれたまえ」

「簡単言うなぁ、バルドル・・・ブツブツブツ」
ブチブチ文句を言うマクシム君だが仕事はしっかりやる男だ。
燃え移りそうな場所の木々をスッパンスッパンと斬り倒して行く。

儂?魔導士の儂が消化活動をやると多分悪化する。
儂はドッカーーーン魔法が得意で繊細な魔法は苦手なのじゃ。

その後はマクシム君の大活躍で火は8時間後に全て鎮火した。
余りの惨状が気の毒に思ったのか鎮火作業だけでゴルド兵には手を掛けずに戻って来た。
途中からベヒモス君達も鎮火作業を手伝ってくれた。

「終わったぜ、バルドル」

「はい、お疲れ様でした」

儂の「影の支配者」を使った攻撃でゴルド王国軍兵士7万人中、約5万5千人が死亡したのだった。

「ハアハアハア・・・クソ・・・身体が動かない。誰か水、水をくれ」

「そんなモン全部蒸発しちまったよ・・・」

魔力の炎で焼かれても生き残った「耐火」のスキル持ちの者達も無傷の者はおらず、この環境下での生存は困難を極めるだろう。

よろしい後は、ほっといても勝手にゴルド軍は瓦解するだろう
撤退するとしようか。

こうして南の大陸に上陸したゴルド軍は魔王バルドルの一撃で事実上全滅したのだった。

《うーむ・・・やっぱりイリス達がせっせと作っている爆弾とか要塞砲での科学技術では、魔力が強いこの世界での魔法技術に変わるゲームチェンジャーにはなり得ないな。
科学はとても面白い技術なのだが・・・》

「うんうん」と、魔法の絶大な威力を再確認した魔王バルドルだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「侯爵閣下!アレを?!」

「おおおおお?!何じゃあ?アレは??」

突然、儂達が20分前まで居た原生林から立ち昇った黒煙が大きさを増しつつ上空の雲にまで到達している・・・

「アレだけの広範囲の極大魔法じゃと?一体誰が・・・」

南の大陸一の魔導士と言えば魔王バルドルであろうな。
・・・・・・・魔王あっぶねえええ!!超怖えええ!!!やっべえええ!!
うん・・・今後、魔王バルドルとは戦わず話し合いで解決しよう。

「私達は閣下に救われました・・・」
伯爵が上空の黒煙を見上げて放心状態で呟く・・・良かったのう儂の言う事を聞いて。

「嫌な予感が当たりました・・・助かった」
僅か30分の飛び乗りで命を拾った傭兵団の団長の顔が引き攣っている。
正しく、一瞬の判断が生死を分けるとはこの事だろうな。

「疲れたわい、帆を上げて進路を西の大陸の我領地へと向けよ。
少ししか残っておらんが生存祝いで皆んなで酒盛りをするぞ」

そう言ってヘナヘナと床へ座り込む儂、伯爵も団長も同じ様に座ると兵士達も疲労と安堵のせいかドカドカと座り込む。

「ヴィグル帝国に行ったら、もう少し楽をしたいモンじゃな」

「ははは・・・全くです」

「ここまで来たら最後まで閣下に従いますよ」

そう言って伯爵と団長とで笑い合う、本当に生死を共した友じゃのう。
後に、この3人でゴルド王国の要塞を落としに行くのじゃが、それはまだ先の話しだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「酷え・・・」

貴族の指揮官に「貴様ら漁師なのだろう?魚を取ってこい!」と言われ筏に乗って沖に出た俺達・・・

筏では遠くには行けず沖から500mくらい出た所で魚を取っていたのだが・・・

ギャアアアアアアアア!!!悲鳴なのか雷鳴なのか分からない凄い音がして浜辺を見ると、浜辺に立ち俺達を監視していた指揮官に何か黒いヤツが下から刺さっている?

光の加減でそう見えるのか?と思っていたら指揮官から赤い血飛沫が出て来たのが見えた。
なんだ?!一体何が起こっているんだ?!

「遂に神様の天罰が下ったんだよ・・・」仲間の1人がボソリと呟く・・・

確かにアレは超常の何かの現象だ。
叫び声は駐留地の原生林全てからしている。

天罰か・・・そうかもな。

「ギャアアアアアアアア!!お前達!助けろ!私を助けるんだぁ!」
どうやら指揮官は足元の影から何かが突き出して肩と足を貫通して地面に縫い付けられているのか動けない様子だ。

「助けろって言われてもなぁ・・・」

「ああ・・・ここからじゃどうにもならんな」

当たり前だが村の仲間は指揮官を見捨てるつもりらしい。
そうだよな・・・俺達がアイツを殺す理由は有っても助ける理由なんてないモンな。

すると・・・

ゴオオオオオオオオオオオ!!!!!突然指揮官が炎に包まれた?!

「ギャアアアアアアアアぁああああーーーー!!!!」

ありゃダメだ助からんわ。
海の上まで黒煙が迫って来たから俺達はドンドン沖合に逃げる。

何時間か分からんが筏の上にいたら黒煙が少しずつ収まってきた。

「どうする?戻るのか?」

「あんな場所に戻っても仕方ないだろ?」

「じゃあ逃げるのか?」

「当然じゃねえか」

仮に生き残りが居た所で俺達が脱走した事が分かるヤツなどいないだろう。
とりあえず筏に乗りながら陸地沿いに北上するしかない。
こうして俺と仲間5人の計6人はゴルド軍から脱走した。

そして3日後に竜に乗った異様なほどに美しいハイエルフに捕まり龍騎士にされる事を俺達はまだ知らない。
何はともあれ、ゴルド軍を滅ぼしてくれた神様ありがとうございます。





「あ・・・「バルドル教」ってこうやって出来たんだね!私も入信しといたよ!」

「入信するんじゃねえ!!「イリス教」を作るぞコラァ!」
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