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9 これはデート?

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日曜日、両親は疲れているみたいで朝食も食べずにまだ眠っていた。
緋瞳ひとみお姉ちゃんは自分が出た番組をリビングのテレビでチェックしているし、水和子みわこお姉ちゃんはソファーに座り、コーヒーを飲みながら本を読んでいた。
私はと言えば、朝から忙しくて二人の食べた朝食の後片付けをして、洗濯を干して、昼食用に家族一人一人の皿に卵とツナのサンドイッチを作った。
デザートには昨日の夜に作っておいたミルク寒天に市販の甘いゆであずきをのせたものを冷蔵庫に用意してあるから、後はメモを書いておけば、わかるよね。
「みんなのお昼ご飯は用意したし、夕方には帰れるから大丈夫!」
何度も頭の中で今日のシミュレーションしただけあって、段取りはバッチリだった。
私にしたら、朝からいい仕事したなあ。
まだ少し早かったけれど、いつもの失敗を考えたら、ちょうどいいくらいだ。
壱哉いちやさんを待たせるわけにはいかない。
エプロンを外して、鏡の前でチェックした。
服は今日まで悩みに悩んだけど、結局、いつもの普段着より少しおしゃれかな?くらいに落ち着いてしまった。
それでも、スカートをはいたあたりに私の頑張りがあるよ。
白のパーカーと花柄のロングスカートにスニーカー、ショルダーバッグ、まだ学生感が抜けてないけど仕方ない。
玄関でスニーカーをはいていると、緋瞳お姉ちゃんが出かける私に気付いたみたいでリビングから顔を出した。
日奈子ひなこどこ行くの?」
「本屋にちょっと用事があって」
「そう。一人で?」
壱哉いちやさんと、その、約束していて」
言い出しにくい雰囲気だったけど、嘘をつくのもおかしい気がして、正直に言った。
「壱哉さんと?どうして?」
「し、仕事の本だから」
「一人で本くらい選べないの?図々しく日奈子が壱哉さんにお願いしたんじゃないでしょうね!」
「ちっ、違うよっ」
「なにを騒いでるの」
水和子みわこお姉ちゃんが私と緋瞳お姉ちゃんが言い争っているのだと思ったらしく、玄関までやってきた。
「きいてよ!日奈子ったら、壱哉さんに頼んで買い物に付き合わせるらしいのよ」
一瞬で水和子お姉ちゃんの顔が曇った。
「日奈子。壱哉は忙しいのよ。彼に迷惑をかけないで」
二人に挟まれ、上からたたみかけるように言われたら何も言い返せない。
「緋瞳。壱哉さんが来たら、私から謝るから日奈子を怒らないであげて。本屋には私がついていってあげるわ」
「謝る必要はない」
背後の玄関のドアが開いていた。
私がもう出ようと思って、ドアを中途半端に開けたままにしておいたからだけど、そのドアを完全に開けたのは壱哉さんだった。
「俺が誘った」
「なに言ってるの?壱哉がどうして日奈子を?」
壱哉さんは無表情のまま、水和子お姉ちゃんに言った。
「一緒に出掛けたかったからだ」
それになんの問題が?というように首を傾げていた。
壱哉さんは私の手をとると、言葉を失ったままの二人を置き去りにして家から出た。
よ、よかったのかな。
高そうな外車が家の前にとめられ、それが壱哉さんの車だとわかった。
「悪い。もっと考えて誘うべきだったな」
「いえっ!私こそ、姉にちゃんと説明できず、誤解を招くようなことになってしまって」
「誤解?」
「は、はあ。多分、姉はさっきの壱哉さんの発言からいくと、そのっ」
きっと私なんかとデートするなんて、宇宙レベルのとんでもない勘違いをしてる。
「誤解されたままでいい」
「えっ!?」
壱哉さんは笑っていた。
もしかして、からかわれた!?
壱哉さんも冗談を言うことがあるんだ―――タイミングは悪かったけど。
私が壱哉さんの言うことを本気にしてしまいそうになるから。
今は止めてほしい。
赤い顔を見られると、困るので車の外を眺めている振りをした。




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