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34 友人の婚約者
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頑張りますと言ったものの、まずは何をすればいいのか。
うーんと考えながら、書類を広報部まで持っていくと倉庫を手伝いに来てくれていた人達から手を振られて、私はぺこりと会釈した。
今、水和子お姉ちゃんは謹慎中らしく、姿がない。
居づらいだろうから、子会社に出向になるだろうと今日、壱哉さんから聞いた。
多分、今日の会議で色々話し合われたに違いない。
広報部に書類を置くと、資料室に向かった。
ファイルを一冊頼まれているので、それを取りに行くために鍵を渡されていた。
「えっと、ここね」
営業部の近くにある資料室の鍵を開けて中に入ると話し声が聞こえた。
「君から役員に頼んでくれよ。俺の賛成に回るようにね」
「頼むだけなら、いいけど」
「俺が社長になった方がいいだろう?あんな仕事ができない社長よりはな」
「そうね」
そんな会話が聞こえ、なんの悪巧みなの!?と思い、ばんっと勢いよくドアを開けると―――男女がキスしていた。
「えっ!?」
な、なに?
固まったまま、呆然としていると―――
「あー、まずい。見つかった」
男の人が笑いながら、私の方を向いた。
杏美ちゃんの婚約者である安島さんだった。
どういうこと!?
目を見開き、安島さんと女の人を交互に見た。
女の人は私を見て逃げるように資料室から出ていった。
「誰もこないと思っていたんだけどな。悪いね」
動けずにいる私の肩をポンッと叩いて、出ていこうとした安島さんを呼び止めた。
「まっ、待ってください!今の人は安島さんの恋人ですか?」
「ん?ああ。遊び相手」
「あ、遊び?」
なにを言ってるか、わからなかった。
「杏美ちゃんは知ってるんですかっ!」
「知らないだろうね。いちいち言わないしな」
婚約してるのに?
それに来月には結婚式がある―――
「杏美ちゃんのこと好きじゃないんですか?好きだったら、こんなこと絶対にできませんよ!」
「へえ、君でも怒るんだね。いつもボンヤリしてるだけの子かと思った」
ボンヤリ!?
確かにそういうとこはあるかもしれないけど、この人に言われたくなかった。
「杏美のことは嫌いじゃない。嫌いじゃないから、結婚する。お互いの利害も一致しているからね」
「利害?」
「尾鷹は俺が杏美と結婚することで安島が尾鷹を裏切らないように監視する。安島は尾鷹の娘と結婚させて、その子どもを本家に対抗するための道具にする。君には理解できない世界だよ。きっとね」
「ば、バカにしないでくださいっ!」
理解できないなんてことない。
杏美ちゃんが結婚を喜んでいなかった理由がやっとわかった。
「杏美に言わないでくれるかな?」
「お、お断りします!」
「ま、言いたいなら言っていいけどね。杏美が傷つくだけで結婚することは変わらない」
「そんな」
「俺は君に感謝してるよ」
私に感謝?
なんの関係があるの?
そう思って、安島さんを見た。
「社長の椅子が遠いと思っていたけど、壱哉が君と結婚したいと馬鹿なことを言い出したおかげで、俺が社長になる可能性が出てきたんだよ。ありがとう。日奈子ちゃん」
「私と結婚!?安島さんが社長?」
「まだそこまで本人に言ってなかったか。あの壱哉が俺の下で働くことになるかもしれないなんて思ってもみなかったよ。あのお姉さんの方だったら、こうはいかなかったな」
じゃあね、と爽やかな笑みを浮かべて安島さんは去って行った。
何も言えなかった。
私のせいで壱哉さんの立場がそんなに悪いものになるなんて、考えてもみなかった。
安島さんは私が何もできないだろうと思って言ったのだろうけど。
『お姉さんの方だったら、こうはいかなかったな』という言葉がずっと耳に残って動けなかった。
そんなのわかってたはずなのに。
今さら、言われたところで傷つくなんておかしい。
けど、その言葉は以前よりもずしりと重く自分にのしかかってきたのだった―――
うーんと考えながら、書類を広報部まで持っていくと倉庫を手伝いに来てくれていた人達から手を振られて、私はぺこりと会釈した。
今、水和子お姉ちゃんは謹慎中らしく、姿がない。
居づらいだろうから、子会社に出向になるだろうと今日、壱哉さんから聞いた。
多分、今日の会議で色々話し合われたに違いない。
広報部に書類を置くと、資料室に向かった。
ファイルを一冊頼まれているので、それを取りに行くために鍵を渡されていた。
「えっと、ここね」
営業部の近くにある資料室の鍵を開けて中に入ると話し声が聞こえた。
「君から役員に頼んでくれよ。俺の賛成に回るようにね」
「頼むだけなら、いいけど」
「俺が社長になった方がいいだろう?あんな仕事ができない社長よりはな」
「そうね」
そんな会話が聞こえ、なんの悪巧みなの!?と思い、ばんっと勢いよくドアを開けると―――男女がキスしていた。
「えっ!?」
な、なに?
固まったまま、呆然としていると―――
「あー、まずい。見つかった」
男の人が笑いながら、私の方を向いた。
杏美ちゃんの婚約者である安島さんだった。
どういうこと!?
目を見開き、安島さんと女の人を交互に見た。
女の人は私を見て逃げるように資料室から出ていった。
「誰もこないと思っていたんだけどな。悪いね」
動けずにいる私の肩をポンッと叩いて、出ていこうとした安島さんを呼び止めた。
「まっ、待ってください!今の人は安島さんの恋人ですか?」
「ん?ああ。遊び相手」
「あ、遊び?」
なにを言ってるか、わからなかった。
「杏美ちゃんは知ってるんですかっ!」
「知らないだろうね。いちいち言わないしな」
婚約してるのに?
それに来月には結婚式がある―――
「杏美ちゃんのこと好きじゃないんですか?好きだったら、こんなこと絶対にできませんよ!」
「へえ、君でも怒るんだね。いつもボンヤリしてるだけの子かと思った」
ボンヤリ!?
確かにそういうとこはあるかもしれないけど、この人に言われたくなかった。
「杏美のことは嫌いじゃない。嫌いじゃないから、結婚する。お互いの利害も一致しているからね」
「利害?」
「尾鷹は俺が杏美と結婚することで安島が尾鷹を裏切らないように監視する。安島は尾鷹の娘と結婚させて、その子どもを本家に対抗するための道具にする。君には理解できない世界だよ。きっとね」
「ば、バカにしないでくださいっ!」
理解できないなんてことない。
杏美ちゃんが結婚を喜んでいなかった理由がやっとわかった。
「杏美に言わないでくれるかな?」
「お、お断りします!」
「ま、言いたいなら言っていいけどね。杏美が傷つくだけで結婚することは変わらない」
「そんな」
「俺は君に感謝してるよ」
私に感謝?
なんの関係があるの?
そう思って、安島さんを見た。
「社長の椅子が遠いと思っていたけど、壱哉が君と結婚したいと馬鹿なことを言い出したおかげで、俺が社長になる可能性が出てきたんだよ。ありがとう。日奈子ちゃん」
「私と結婚!?安島さんが社長?」
「まだそこまで本人に言ってなかったか。あの壱哉が俺の下で働くことになるかもしれないなんて思ってもみなかったよ。あのお姉さんの方だったら、こうはいかなかったな」
じゃあね、と爽やかな笑みを浮かべて安島さんは去って行った。
何も言えなかった。
私のせいで壱哉さんの立場がそんなに悪いものになるなんて、考えてもみなかった。
安島さんは私が何もできないだろうと思って言ったのだろうけど。
『お姉さんの方だったら、こうはいかなかったな』という言葉がずっと耳に残って動けなかった。
そんなのわかってたはずなのに。
今さら、言われたところで傷つくなんておかしい。
けど、その言葉は以前よりもずしりと重く自分にのしかかってきたのだった―――
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