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番外編【壱哉】
若様の企み
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尾鷹家は近隣一帯を治め、守る家柄だったという。
そのせいか尾鷹の若様などと未だに呼ばれている。
友達と呼べる人間もいない。
学芸会や発表会は当たり前のように主役で公平ではないと思っていた。
「王子様は壱哉がいいと思うわ」
またか―――正直うんざりした。
呑海水和子は母のお気に入りで、俺に対して親し気に振る舞う唯一の人間かもしれない。
だが、友人ではない。
「お姫様は水和子ちゃんにきまりね!」
「私、できるかしら?」
「水和子ちゃんしかできないわよ!」
クラスの女子は『そうよ』とうなずいていたが、呑海からの仕返しが怖いのもあるのだろう。
この間、他のクラスの女子がやってきて、俺にプリントを渡しただけで、嫌がらせをしたことを知っている。
呑海はピアノの発表会で同じ曲を弾いて恥をかかせ、クラス対抗のリレーで同じ順番で走ると、わざと遅く走り、最後に抜き、とどめはその女子が好きだと言われていた男子に呑海が目の前で告白するのを見せたとクラスの女子が噂をしているのを聞いた。
よくそこまで嫌がらせができるものだと思う。
そういうこともあり、俺はなるべく自分からは誰にも近寄らないように気を付けていた。
「お姫様は水和子ちゃんにけってーい!」
歓声が起きて拍手の音が教室に響く。
よし、決まったなと確認してから俺は言った。
「魔法使いをやる」
「えっ!?でも、壱哉」
「いいですよね?先生」
「あ、ああ。もちろんだ。尾鷹君」
担任は昔から近所に住んでいて、尾鷹の家に遠慮している。
申し訳ないと思ったが―――
「王子は誰にしようか」
「野月君はどう?」
クラスの誰かが言った。
そういえば、そんなやついたな、と思っていると俺の隣に座っていた。
恨めしい顔で俺を見た。
「嫌だ」
そう言ったけれど、野月の拒否は許されず、王子に決まったのだった。
「ずるいだろ」
野月は泣きそうな顔をしていた。
無口であまり話さない野月だが、見た目だけはよかったせいだろう。
女子に人気があった。
「悪い」
「俺、人見知りなのに……」
「いい機会だ、直せ」
「ふ、ふざけんな!」
ぶるぶると泣き出しそうな顔をして野月は顔を赤くしていたけれど、決まった物はしかたない。
「がんばれよ」
無責任にも俺はぽんっと肩を叩いて、自分が王子をやらずに済んだことを内心、喜んでいた。
ホームルームが終わり、下校時間になると校門の前には黒塗の車がとまっていた。
「おかえりなさいませ、壱哉様」
「ただいま」
運転手は恭しく車のドアを開け、今日の午後からの予定を言った。
「ピアノのレッスンの後、英会話、夕食後に家庭教師の先生がいらっしゃいます」
「わかった」
今日も忙しいなと思いながら、車の窓の外を見た。
妹の学年は早く終わったのか、妹は乗っていない。
妹は妹で習い事をしているのだろうが―――
道端にスーパーの袋を重たげに持って、休んでいる子供がいた。
「止めてくれ」
「あ、ああ。またあの子ですか」
ランドセルは家に置いてきたのか、背中にリュックを背負って両手にスーパーの袋を持っていた。
リュックからはネギが見える。
「日奈子」
「あ……壱哉君」
日奈子は両手の平を赤くして、額に汗を浮かべていた。
呑海水和子の妹だが、性格はまったく違う。
仕事の両親を手伝い、周りに気を遣う優しい子だった。
我儘いっぱいで育った妹にも嫌なことを言われても友達でいてくれる貴重な存在だ。
「送るよ」
「で、でも、また送ってもらったって叱られるから」
「誰に叱られるんだ?」
いいつけたと言われたくないのか、日奈子は黙り込んでしまった。
「あ、あの、それじゃっ…わた、わたし、もういかないと」
よろよろと立ち上がり、日奈子が荷物を持ったその時
「日奈子ちゃん。手の荷物、持つよ」
さっと背後から現れた野月が日奈子の荷物を持った。
「渚生君……ごめんね」
「いいって。お隣だし、ついでだから」
お隣!?
俺は野月を見ると、勝ち誇ったような顔をして俺を見た。
日奈子はほっとしたような顔で野月にレジ袋を持ってもらうと歩いて行った。
人生初めての敗北だった―――のちに俺を負かした男として、野月は俺の中で認められ、友人となった。
ライバルで友達。
俺達のそんな関係は日奈子が俺と付き合うまで続いたことを当の本人は知らない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
日奈子は鈍い。
鈍いって言うのは行動を言っているんじゃない。
俺の気持ちを察しないところだ。
結婚してもそれは変わらず
「日奈子、買い物?」
「そうです。お弁当の材料を買いに」
「俺も行く」
「え?壱哉さんは休んでいてくださいっ!お仕事で疲れているんですから!」
一緒に行きたいのに拒否られるし、荷物を持とうとすると
「やめてください!壱哉さんに買い物カゴを持たせたら、叱られますっ!」
「俺が持ちたいんだ」
と、言うと変な顔をされる。
買い物カゴがそんなに好きですか?なんて言っているのが聴こえてくる。
いや、そんなわけないだろう?
帰り道は二人で川沿いの遊歩道を歩いてから帰る。
手を繋いで。
川からの涼しい風に二人で目を細め、他愛ない話をする。
それが幸せなんだと渚生に言うと老夫婦みたいだと笑われた。
俺にとって、のんびりする時間は昔からそんなになかった。
日奈子との時間はいつもゆっくりと過ぎるからか、特別に思えるのはそのせいかもしれない、
「日奈子。お弁当は家政婦に任せればいいんじゃないか。お弁当を作るのも大変だろう?」
俺が社長になり、仕事が増えた上にパーティーや会食、出張が多くなり、秘書であり妻である日奈子も同行している。
「いいんです。私が壱哉さんにしてあげれることって少ないですから……」
照れたように笑って日奈子は言った。
一緒にいてくれるだけで十分だ―――俺は。
そう何度言っても日奈子はわかってくれない。
俺の気持ちに気付かない。
嫉妬していることもその純粋さを羨ましいと思っていることも。
彼女を鈍いと人は言うけれど、そんな君が俺は昔から好きだ。
だから――
「そのままの日奈子でいい」
―――と耳元で囁くと慌てた日奈子は小石につまずき、転びかけた。
「危ない」
「危ないのは壱哉さんですっっ!!い、いきなりそんなっ」
耳元で囁くなんて焦りますと小さな声で日奈子は言った。
「悪い」
「でも、ありがとうございます。そのままでいいなんて。壱哉さんしか言ってくれませんから」
そんなことはない―――日奈子が気づいていないだけだ。
その可愛らしさに俺はにっこりしたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「―――ということがあったんだ」
「……へえ」
俺は自慢げに渚生に日奈子の可愛い若奥様ぶりを説明した。
いつものバーに渚生を呼んで。
「急に呼ぶから何かと思ったら、ただの惚気を聞かされるという苦行かよ」
「お前も新婚だろう?今園は元気か?」
「元気だけど。仕事が忙しくてあんまり会えてない」
「そうか。残念だな」
「少しは遠慮して誘えよ!!俺の仕事が忙しいんじゃない!尾鷹商事の社長にお前が就任してから、あいつ、張り切って仕事するから俺のこと放置なんだぞ!?」
「俺に言われてもな」
今園の性分なのか、祖父母への忠義心なのかわからないが、秘書室室長に戻ると以前に増して仕事に力を入れるようになった。
新婚の渚生には申し訳ないが、助かっているのも事実。
「はー、可愛い日奈子ちゃんがこんな奴と結婚とか。騙されてるよ……日奈子ちゃん」
「俺の優しさは日奈子限定だ」
「言わなくても知ってる。ここ、壱哉のおごりだからな」
「わかった」
話を聞いてくれたのだから、これくらいは安い物だ。
「それで、杏美ちゃんはいつ戻ってくるんだ?」
「さあな。日奈子に手紙を送るようには言っておいた」
日奈子には言ってないが、杏美に会いに行った。
お嬢様育ちの杏美は辛くないのか、安いアパートで暮らしていた。
幸せそうに洗濯をしたり、アイロンの使い方の説明書を見せて俺に『お兄様、これはどうやって使えばよろしいの?』と困った顔で聞いてくるのを見ていると『さっさと戻れ』とは言えなかった。
しばらくはあのまま暮らした方が杏美にとっていいのかもしれないと思えたからだ。
『日奈子には手紙を書くわ。ちゃんと謝りたいから』
と、言っていたが、日奈子は杏美のことを少しも責めたりなんかしていない。
むしろ、手紙がきたら大喜びする姿が目に浮かぶ。
それもあって、杏美を探したんだが―――渚生がひややかな目で俺を見ていた。
「なんだ?」
「いや、結婚しても日奈子ちゃん中心なんだと思って」
「悪いか」
「そんな正々堂々言われると悪いと言いにくいけど、悪いよ!?」
俺は笑った。
笑った俺に渚生は警戒するように身構えた。
分かってる。
俺は日奈子とは真逆の人間だ。
すべて計算づくで、日奈子を手に入れるためにわざと安島に負けてやった。
あの程度の人間に俺が負けるわけがない。
役員達が安島につくように仕向けたのも俺が社長になった時に裏切る奴かどうかを見極めるため。
一番、うまく動いてくれたのは呑海水和子だ。
日奈子をはめようとすることはわかっていた。
どんな手で来るかはわからなかったから、監視カメラをあらかじめ、設置しておいたのがよかった。
自尊心の高さから安島になびくだろうと思っていたから、まとめて始末しようと考えた。
案の定、自滅してくれたわけだが。
「日奈子が俺を守ろうとしてくれる姿の可愛らしさは一生忘れないな。俺は」
「こいつは悪人だよ!!!日奈子ちゃんっ!!」
渚生は叫んだ。
まあ、悪人呼ばわりも許してやろう。
――――その通りなのだから。
そのせいか尾鷹の若様などと未だに呼ばれている。
友達と呼べる人間もいない。
学芸会や発表会は当たり前のように主役で公平ではないと思っていた。
「王子様は壱哉がいいと思うわ」
またか―――正直うんざりした。
呑海水和子は母のお気に入りで、俺に対して親し気に振る舞う唯一の人間かもしれない。
だが、友人ではない。
「お姫様は水和子ちゃんにきまりね!」
「私、できるかしら?」
「水和子ちゃんしかできないわよ!」
クラスの女子は『そうよ』とうなずいていたが、呑海からの仕返しが怖いのもあるのだろう。
この間、他のクラスの女子がやってきて、俺にプリントを渡しただけで、嫌がらせをしたことを知っている。
呑海はピアノの発表会で同じ曲を弾いて恥をかかせ、クラス対抗のリレーで同じ順番で走ると、わざと遅く走り、最後に抜き、とどめはその女子が好きだと言われていた男子に呑海が目の前で告白するのを見せたとクラスの女子が噂をしているのを聞いた。
よくそこまで嫌がらせができるものだと思う。
そういうこともあり、俺はなるべく自分からは誰にも近寄らないように気を付けていた。
「お姫様は水和子ちゃんにけってーい!」
歓声が起きて拍手の音が教室に響く。
よし、決まったなと確認してから俺は言った。
「魔法使いをやる」
「えっ!?でも、壱哉」
「いいですよね?先生」
「あ、ああ。もちろんだ。尾鷹君」
担任は昔から近所に住んでいて、尾鷹の家に遠慮している。
申し訳ないと思ったが―――
「王子は誰にしようか」
「野月君はどう?」
クラスの誰かが言った。
そういえば、そんなやついたな、と思っていると俺の隣に座っていた。
恨めしい顔で俺を見た。
「嫌だ」
そう言ったけれど、野月の拒否は許されず、王子に決まったのだった。
「ずるいだろ」
野月は泣きそうな顔をしていた。
無口であまり話さない野月だが、見た目だけはよかったせいだろう。
女子に人気があった。
「悪い」
「俺、人見知りなのに……」
「いい機会だ、直せ」
「ふ、ふざけんな!」
ぶるぶると泣き出しそうな顔をして野月は顔を赤くしていたけれど、決まった物はしかたない。
「がんばれよ」
無責任にも俺はぽんっと肩を叩いて、自分が王子をやらずに済んだことを内心、喜んでいた。
ホームルームが終わり、下校時間になると校門の前には黒塗の車がとまっていた。
「おかえりなさいませ、壱哉様」
「ただいま」
運転手は恭しく車のドアを開け、今日の午後からの予定を言った。
「ピアノのレッスンの後、英会話、夕食後に家庭教師の先生がいらっしゃいます」
「わかった」
今日も忙しいなと思いながら、車の窓の外を見た。
妹の学年は早く終わったのか、妹は乗っていない。
妹は妹で習い事をしているのだろうが―――
道端にスーパーの袋を重たげに持って、休んでいる子供がいた。
「止めてくれ」
「あ、ああ。またあの子ですか」
ランドセルは家に置いてきたのか、背中にリュックを背負って両手にスーパーの袋を持っていた。
リュックからはネギが見える。
「日奈子」
「あ……壱哉君」
日奈子は両手の平を赤くして、額に汗を浮かべていた。
呑海水和子の妹だが、性格はまったく違う。
仕事の両親を手伝い、周りに気を遣う優しい子だった。
我儘いっぱいで育った妹にも嫌なことを言われても友達でいてくれる貴重な存在だ。
「送るよ」
「で、でも、また送ってもらったって叱られるから」
「誰に叱られるんだ?」
いいつけたと言われたくないのか、日奈子は黙り込んでしまった。
「あ、あの、それじゃっ…わた、わたし、もういかないと」
よろよろと立ち上がり、日奈子が荷物を持ったその時
「日奈子ちゃん。手の荷物、持つよ」
さっと背後から現れた野月が日奈子の荷物を持った。
「渚生君……ごめんね」
「いいって。お隣だし、ついでだから」
お隣!?
俺は野月を見ると、勝ち誇ったような顔をして俺を見た。
日奈子はほっとしたような顔で野月にレジ袋を持ってもらうと歩いて行った。
人生初めての敗北だった―――のちに俺を負かした男として、野月は俺の中で認められ、友人となった。
ライバルで友達。
俺達のそんな関係は日奈子が俺と付き合うまで続いたことを当の本人は知らない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
日奈子は鈍い。
鈍いって言うのは行動を言っているんじゃない。
俺の気持ちを察しないところだ。
結婚してもそれは変わらず
「日奈子、買い物?」
「そうです。お弁当の材料を買いに」
「俺も行く」
「え?壱哉さんは休んでいてくださいっ!お仕事で疲れているんですから!」
一緒に行きたいのに拒否られるし、荷物を持とうとすると
「やめてください!壱哉さんに買い物カゴを持たせたら、叱られますっ!」
「俺が持ちたいんだ」
と、言うと変な顔をされる。
買い物カゴがそんなに好きですか?なんて言っているのが聴こえてくる。
いや、そんなわけないだろう?
帰り道は二人で川沿いの遊歩道を歩いてから帰る。
手を繋いで。
川からの涼しい風に二人で目を細め、他愛ない話をする。
それが幸せなんだと渚生に言うと老夫婦みたいだと笑われた。
俺にとって、のんびりする時間は昔からそんなになかった。
日奈子との時間はいつもゆっくりと過ぎるからか、特別に思えるのはそのせいかもしれない、
「日奈子。お弁当は家政婦に任せればいいんじゃないか。お弁当を作るのも大変だろう?」
俺が社長になり、仕事が増えた上にパーティーや会食、出張が多くなり、秘書であり妻である日奈子も同行している。
「いいんです。私が壱哉さんにしてあげれることって少ないですから……」
照れたように笑って日奈子は言った。
一緒にいてくれるだけで十分だ―――俺は。
そう何度言っても日奈子はわかってくれない。
俺の気持ちに気付かない。
嫉妬していることもその純粋さを羨ましいと思っていることも。
彼女を鈍いと人は言うけれど、そんな君が俺は昔から好きだ。
だから――
「そのままの日奈子でいい」
―――と耳元で囁くと慌てた日奈子は小石につまずき、転びかけた。
「危ない」
「危ないのは壱哉さんですっっ!!い、いきなりそんなっ」
耳元で囁くなんて焦りますと小さな声で日奈子は言った。
「悪い」
「でも、ありがとうございます。そのままでいいなんて。壱哉さんしか言ってくれませんから」
そんなことはない―――日奈子が気づいていないだけだ。
その可愛らしさに俺はにっこりしたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「―――ということがあったんだ」
「……へえ」
俺は自慢げに渚生に日奈子の可愛い若奥様ぶりを説明した。
いつものバーに渚生を呼んで。
「急に呼ぶから何かと思ったら、ただの惚気を聞かされるという苦行かよ」
「お前も新婚だろう?今園は元気か?」
「元気だけど。仕事が忙しくてあんまり会えてない」
「そうか。残念だな」
「少しは遠慮して誘えよ!!俺の仕事が忙しいんじゃない!尾鷹商事の社長にお前が就任してから、あいつ、張り切って仕事するから俺のこと放置なんだぞ!?」
「俺に言われてもな」
今園の性分なのか、祖父母への忠義心なのかわからないが、秘書室室長に戻ると以前に増して仕事に力を入れるようになった。
新婚の渚生には申し訳ないが、助かっているのも事実。
「はー、可愛い日奈子ちゃんがこんな奴と結婚とか。騙されてるよ……日奈子ちゃん」
「俺の優しさは日奈子限定だ」
「言わなくても知ってる。ここ、壱哉のおごりだからな」
「わかった」
話を聞いてくれたのだから、これくらいは安い物だ。
「それで、杏美ちゃんはいつ戻ってくるんだ?」
「さあな。日奈子に手紙を送るようには言っておいた」
日奈子には言ってないが、杏美に会いに行った。
お嬢様育ちの杏美は辛くないのか、安いアパートで暮らしていた。
幸せそうに洗濯をしたり、アイロンの使い方の説明書を見せて俺に『お兄様、これはどうやって使えばよろしいの?』と困った顔で聞いてくるのを見ていると『さっさと戻れ』とは言えなかった。
しばらくはあのまま暮らした方が杏美にとっていいのかもしれないと思えたからだ。
『日奈子には手紙を書くわ。ちゃんと謝りたいから』
と、言っていたが、日奈子は杏美のことを少しも責めたりなんかしていない。
むしろ、手紙がきたら大喜びする姿が目に浮かぶ。
それもあって、杏美を探したんだが―――渚生がひややかな目で俺を見ていた。
「なんだ?」
「いや、結婚しても日奈子ちゃん中心なんだと思って」
「悪いか」
「そんな正々堂々言われると悪いと言いにくいけど、悪いよ!?」
俺は笑った。
笑った俺に渚生は警戒するように身構えた。
分かってる。
俺は日奈子とは真逆の人間だ。
すべて計算づくで、日奈子を手に入れるためにわざと安島に負けてやった。
あの程度の人間に俺が負けるわけがない。
役員達が安島につくように仕向けたのも俺が社長になった時に裏切る奴かどうかを見極めるため。
一番、うまく動いてくれたのは呑海水和子だ。
日奈子をはめようとすることはわかっていた。
どんな手で来るかはわからなかったから、監視カメラをあらかじめ、設置しておいたのがよかった。
自尊心の高さから安島になびくだろうと思っていたから、まとめて始末しようと考えた。
案の定、自滅してくれたわけだが。
「日奈子が俺を守ろうとしてくれる姿の可愛らしさは一生忘れないな。俺は」
「こいつは悪人だよ!!!日奈子ちゃんっ!!」
渚生は叫んだ。
まあ、悪人呼ばわりも許してやろう。
――――その通りなのだから。
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