私達には婚約者がいる【菱水シリーズ④】

椿蛍

文字の大きさ
31 / 37

31 たくらみ

しおりを挟む
お見合いが終わり、解散となったけれど、父同士は久しぶりに話をしたからか、これからまた他の店に行くと言って、いなくなってしまった。
結局、昔からの付き合いで仲がいい二人だから、どうすれば、仲直りできるか考えていたに違いない。

「小百里さん。唯冬のことで、あなたを振り回してしまってごめんなさい」

清加さんは申し訳なさそうに私に頭を下げた。

「いいえ。清加さんは悪くありませんから」

私はなんとなく、察していた。
これを企んだのは唯冬と知久なんじゃないかって。
清加さんは迎えに来た渋木の運転手に荷物を手渡していた。
帰ってから柊冴しゅうごと食べるのか、ホテルのティールームのケーキをテイクアウトしていた。
ケーキは柊冴が好きなモンブランだった。

「清加さん。私は唯冬のことも柊冴のことも大事な弟だと思っています。二人だけじゃなく、清加さんにも幸せになってほしいと思ってます。だから、謝らないでください」

清加さんは泣きそうな顔をした。

「私……、気づいていたのよ。小百里さんが笙司さんとの婚約を望んでいないことに。でも高窪のお義姉様に逆らえなくて……」

清加さんの気持ちは痛いほど、わかっていた。
傷つけられたのは私だけじゃなく、清加さんも同じ。
可哀想だとずっと言われ、唯冬と私を比べられ、高窪の伯母達から追い詰められてきたのは清加さんなのだから。

「新しい婚約者が知久さんでよかったと思っているの。きっと小百里さんを大切にしてくれるはずよ」

「ええ」

清加さんがケーキを買っていたのは三つ。
父の好きなショートケーキも入っていた。
ケーキの箱だけは運転手に預けず、自分の手に持ち、大切そうに抱えて渋木の運転手と一緒に帰っていった。
その場に残ったのは私と知久だけ。

「知久」

「うん」

私と清加さんが話し終わるのを少し遠くから見守っていることに気づいていた。
ホテルの柱の陰にいた知久を見る。
さっと知久は両手を広げた。
いつでも抱きついていいよ!というように。
私は笑顔で知久に言った。

「こうなるのがわかっていたわね?」

「あれ!? ここは感動の抱擁だったはず!」

「私に内緒にして、企んで。なにが感動の抱擁よ。毬衣まりえさんはどうしたの?」

「毬衣さんとの婚約は解消されたよ。陣川が高窪と渋木のどちらをとるかってなると、やっぱり渋木だからね」

「高窪の家はなんて?」

私と知久が婚約するなんてわかったら、章江さんが怒鳴りこんで来てもおかしくないのに私のほうにはなにもなかった。

「それは小百里が気にすることじゃないよ。陣川と高窪の家同士の事情だし、俺の親と兄が話し合って渋木を優先させただけ」

「だけど」

「そうだな。詳しく聞きたいなら、部屋でどう?」

ホテルのルームキーを知久は見せてウインクした。

「またそれ!?」

「もうお預けはなしだよ」

知久は悪い顔をして笑った。
そして、私の肩に頭をのせた。
しばらく無言で動かずにいて、眠ってしまったのかと思うくらいだった。

「知久?」

「長かった。俺と小百里の婚約は唯冬と結朱ゆじゅの婚約があるかぎり、絶対にあり得ない話だった」

知久が息を吐き、私の髪に触れ、顔を上げる。
その泣きそうな顔を見て私は気がついた。
すべて知久が仕組んで動かしていたのだということに。
毬衣さんとの婚約も唯冬の婚約解消も全部―――知久が盤上を支配していたということだ。
女王クイーンの駒を手に入れるため、ひとつずつ知久は問題をクリアして、敵を追い詰めていった。
だから、私は知久の頬を両手で覆って応えた。

「どんな魔術を使ったの?」

知久はいつもの顔に戻って、にこっと笑った。

「種明かしをしてあげたいけど、ここだと目立ち過ぎて困る」

ホテルのティールーム前には人が集まりだしていて、知久が有名人だったということに気づいた。
どこかで見たことがある顔だとか、かっこいい人とか耳に入ってきて我に返った。
私としたことが、気が緩んでいたとしか思えない。
こんなところでイチャイチャするなんて―――

「失敗したわ……」

「失敗じゃないよ」

知久は笑って私の額にキスをして、集まっていた人達に蠱惑的な目を向けた。
悪魔はそうやって、人を誘惑する。
顔を赤くして、目をそらす人達に知久は手を振った。
これ以上、周囲に害を及ぼす前に部屋に行ったほうがいいと判断した私は知久を引きずってエレベーターに乗った。

「積極的だなー」

「わかってるくせになにが積極的よ。週刊誌に載るのはごめんだわ」

「載っても構わない。渋木グループと陣川製薬のお嬢様とお坊っちゃまが政略結婚したって記事を書かれて世間はなるほどと納得する。それだけの話だよ」

「本当に悪人ね」

「褒め言葉だよね」

最上階に着き、エレベーターボタンに触れようとした時、知久は唇にキスを落とした。

「好きだよ、小百里」

「……私もよ」

やっと私は知久に自分の気持ちを伝えることができた。
ようやく、私は自分の気持ちを正直に言っても許されるようになったのだった。       
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾り王妃だって幸せを望んでも構わないでしょう?

基本二度寝
恋愛
王太子だったベアディスは結婚し即位した。 彼の妻となった王妃サリーシアは今日もため息を吐いている。 仕事は有能でも、ベアディスとサリーシアは性格が合わないのだ。 王は今日も愛妾のもとへ通う。 妃はそれは構わないと思っている。 元々学園時代に、今の愛妾である男爵令嬢リリネーゼと結ばれたいがために王はサリーシアに婚約破棄を突きつけた。 しかし、実際サリーシアが居なくなれば教育もままなっていないリリネーゼが彼女同様の公務が行えるはずもなく。 廃嫡を回避するために、ベアディスは恥知らずにもサリーシアにお飾り妃となれと命じた。 王家の臣下にしかなかった公爵家がそれを拒むこともできず、サリーシアはお飾り王妃となった。 しかし、彼女は自身が幸せになる事を諦めたわけではない。 虎視眈々と、離縁を計画していたのであった。 ※初っ端から乳弄られてます

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

貴方の✕✕、やめます

戒月冷音
恋愛
私は貴方の傍に居る為、沢山努力した。 貴方が家に帰ってこなくても、私は帰ってきた時の為、色々準備した。 ・・・・・・・・ しかし、ある事をきっかけに全てが必要なくなった。 それなら私は…

愛してないから、離婚しましょう 〜悪役令嬢の私が大嫌いとのことです〜

あさとよる
恋愛
親の命令で決められた結婚相手は、私のことが大嫌いだと豪語した美丈夫。勤め先が一緒の私達だけど、結婚したことを秘密にされ、以前よりも職場での当たりが増し、自宅では空気扱い。寝屋を共に過ごすことは皆無。そんな形式上だけの結婚なら、私は喜んで離婚してさしあげます。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う

ノルジャン
恋愛
「堕ろせ。子どもはまた出来る」夫ランドルフに不貞を疑われたジュリア。誤解を解こうとランドルフを追いかけたところ、階段から転げ落ちてしまった。流産したと勘違いしたランドルフは「よかったじゃないか」と言い放った。ショックを受けたジュリアは、ランドルフの子どもを身籠ったまま彼の元を去ることに。昔お世話になった学校の先生、ケビンの元を訪ね、彼の支えの下で無事に子どもが生まれた。だがそんな中、夫ランドルフが現れて――? エブリスタ、ムーンライトノベルズにて投稿したものを加筆改稿しております。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

処理中です...