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31 たくらみ
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お見合いが終わり、解散となったけれど、父同士は久しぶりに話をしたからか、これからまた他の店に行くと言って、いなくなってしまった。
結局、昔からの付き合いで仲がいい二人だから、どうすれば、仲直りできるか考えていたに違いない。
「小百里さん。唯冬のことで、あなたを振り回してしまってごめんなさい」
清加さんは申し訳なさそうに私に頭を下げた。
「いいえ。清加さんは悪くありませんから」
私はなんとなく、察していた。
これを企んだのは唯冬と知久なんじゃないかって。
清加さんは迎えに来た渋木の運転手に荷物を手渡していた。
帰ってから柊冴と食べるのか、ホテルのティールームのケーキをテイクアウトしていた。
ケーキは柊冴が好きなモンブランだった。
「清加さん。私は唯冬のことも柊冴のことも大事な弟だと思っています。二人だけじゃなく、清加さんにも幸せになってほしいと思ってます。だから、謝らないでください」
清加さんは泣きそうな顔をした。
「私……、気づいていたのよ。小百里さんが笙司さんとの婚約を望んでいないことに。でも高窪のお義姉様に逆らえなくて……」
清加さんの気持ちは痛いほど、わかっていた。
傷つけられたのは私だけじゃなく、清加さんも同じ。
可哀想だとずっと言われ、唯冬と私を比べられ、高窪の伯母達から追い詰められてきたのは清加さんなのだから。
「新しい婚約者が知久さんでよかったと思っているの。きっと小百里さんを大切にしてくれるはずよ」
「ええ」
清加さんがケーキを買っていたのは三つ。
父の好きなショートケーキも入っていた。
ケーキの箱だけは運転手に預けず、自分の手に持ち、大切そうに抱えて渋木の運転手と一緒に帰っていった。
その場に残ったのは私と知久だけ。
「知久」
「うん」
私と清加さんが話し終わるのを少し遠くから見守っていることに気づいていた。
ホテルの柱の陰にいた知久を見る。
さっと知久は両手を広げた。
いつでも抱きついていいよ!というように。
私は笑顔で知久に言った。
「こうなるのがわかっていたわね?」
「あれ!? ここは感動の抱擁だったはず!」
「私に内緒にして、企んで。なにが感動の抱擁よ。毬衣さんはどうしたの?」
「毬衣さんとの婚約は解消されたよ。陣川が高窪と渋木のどちらをとるかってなると、やっぱり渋木だからね」
「高窪の家はなんて?」
私と知久が婚約するなんてわかったら、章江さんが怒鳴りこんで来てもおかしくないのに私のほうにはなにもなかった。
「それは小百里が気にすることじゃないよ。陣川と高窪の家同士の事情だし、俺の親と兄が話し合って渋木を優先させただけ」
「だけど」
「そうだな。詳しく聞きたいなら、部屋でどう?」
ホテルのルームキーを知久は見せてウインクした。
「またそれ!?」
「もうお預けはなしだよ」
知久は悪い顔をして笑った。
そして、私の肩に頭をのせた。
しばらく無言で動かずにいて、眠ってしまったのかと思うくらいだった。
「知久?」
「長かった。俺と小百里の婚約は唯冬と結朱の婚約があるかぎり、絶対にあり得ない話だった」
知久が息を吐き、私の髪に触れ、顔を上げる。
その泣きそうな顔を見て私は気がついた。
すべて知久が仕組んで動かしていたのだということに。
毬衣さんとの婚約も唯冬の婚約解消も全部―――知久が盤上を支配していたということだ。
女王の駒を手に入れるため、ひとつずつ知久は問題をクリアして、敵を追い詰めていった。
だから、私は知久の頬を両手で覆って応えた。
「どんな魔術を使ったの?」
知久はいつもの顔に戻って、にこっと笑った。
「種明かしをしてあげたいけど、ここだと目立ち過ぎて困る」
ホテルのティールーム前には人が集まりだしていて、知久が有名人だったということに気づいた。
どこかで見たことがある顔だとか、かっこいい人とか耳に入ってきて我に返った。
私としたことが、気が緩んでいたとしか思えない。
こんなところでイチャイチャするなんて―――
「失敗したわ……」
「失敗じゃないよ」
知久は笑って私の額にキスをして、集まっていた人達に蠱惑的な目を向けた。
悪魔はそうやって、人を誘惑する。
顔を赤くして、目をそらす人達に知久は手を振った。
これ以上、周囲に害を及ぼす前に部屋に行ったほうがいいと判断した私は知久を引きずってエレベーターに乗った。
「積極的だなー」
「わかってるくせになにが積極的よ。週刊誌に載るのはごめんだわ」
「載っても構わない。渋木グループと陣川製薬のお嬢様とお坊っちゃまが政略結婚したって記事を書かれて世間はなるほどと納得する。それだけの話だよ」
「本当に悪人ね」
「褒め言葉だよね」
最上階に着き、エレベーターボタンに触れようとした時、知久は唇にキスを落とした。
「好きだよ、小百里」
「……私もよ」
やっと私は知久に自分の気持ちを伝えることができた。
ようやく、私は自分の気持ちを正直に言っても許されるようになったのだった。
結局、昔からの付き合いで仲がいい二人だから、どうすれば、仲直りできるか考えていたに違いない。
「小百里さん。唯冬のことで、あなたを振り回してしまってごめんなさい」
清加さんは申し訳なさそうに私に頭を下げた。
「いいえ。清加さんは悪くありませんから」
私はなんとなく、察していた。
これを企んだのは唯冬と知久なんじゃないかって。
清加さんは迎えに来た渋木の運転手に荷物を手渡していた。
帰ってから柊冴と食べるのか、ホテルのティールームのケーキをテイクアウトしていた。
ケーキは柊冴が好きなモンブランだった。
「清加さん。私は唯冬のことも柊冴のことも大事な弟だと思っています。二人だけじゃなく、清加さんにも幸せになってほしいと思ってます。だから、謝らないでください」
清加さんは泣きそうな顔をした。
「私……、気づいていたのよ。小百里さんが笙司さんとの婚約を望んでいないことに。でも高窪のお義姉様に逆らえなくて……」
清加さんの気持ちは痛いほど、わかっていた。
傷つけられたのは私だけじゃなく、清加さんも同じ。
可哀想だとずっと言われ、唯冬と私を比べられ、高窪の伯母達から追い詰められてきたのは清加さんなのだから。
「新しい婚約者が知久さんでよかったと思っているの。きっと小百里さんを大切にしてくれるはずよ」
「ええ」
清加さんがケーキを買っていたのは三つ。
父の好きなショートケーキも入っていた。
ケーキの箱だけは運転手に預けず、自分の手に持ち、大切そうに抱えて渋木の運転手と一緒に帰っていった。
その場に残ったのは私と知久だけ。
「知久」
「うん」
私と清加さんが話し終わるのを少し遠くから見守っていることに気づいていた。
ホテルの柱の陰にいた知久を見る。
さっと知久は両手を広げた。
いつでも抱きついていいよ!というように。
私は笑顔で知久に言った。
「こうなるのがわかっていたわね?」
「あれ!? ここは感動の抱擁だったはず!」
「私に内緒にして、企んで。なにが感動の抱擁よ。毬衣さんはどうしたの?」
「毬衣さんとの婚約は解消されたよ。陣川が高窪と渋木のどちらをとるかってなると、やっぱり渋木だからね」
「高窪の家はなんて?」
私と知久が婚約するなんてわかったら、章江さんが怒鳴りこんで来てもおかしくないのに私のほうにはなにもなかった。
「それは小百里が気にすることじゃないよ。陣川と高窪の家同士の事情だし、俺の親と兄が話し合って渋木を優先させただけ」
「だけど」
「そうだな。詳しく聞きたいなら、部屋でどう?」
ホテルのルームキーを知久は見せてウインクした。
「またそれ!?」
「もうお預けはなしだよ」
知久は悪い顔をして笑った。
そして、私の肩に頭をのせた。
しばらく無言で動かずにいて、眠ってしまったのかと思うくらいだった。
「知久?」
「長かった。俺と小百里の婚約は唯冬と結朱の婚約があるかぎり、絶対にあり得ない話だった」
知久が息を吐き、私の髪に触れ、顔を上げる。
その泣きそうな顔を見て私は気がついた。
すべて知久が仕組んで動かしていたのだということに。
毬衣さんとの婚約も唯冬の婚約解消も全部―――知久が盤上を支配していたということだ。
女王の駒を手に入れるため、ひとつずつ知久は問題をクリアして、敵を追い詰めていった。
だから、私は知久の頬を両手で覆って応えた。
「どんな魔術を使ったの?」
知久はいつもの顔に戻って、にこっと笑った。
「種明かしをしてあげたいけど、ここだと目立ち過ぎて困る」
ホテルのティールーム前には人が集まりだしていて、知久が有名人だったということに気づいた。
どこかで見たことがある顔だとか、かっこいい人とか耳に入ってきて我に返った。
私としたことが、気が緩んでいたとしか思えない。
こんなところでイチャイチャするなんて―――
「失敗したわ……」
「失敗じゃないよ」
知久は笑って私の額にキスをして、集まっていた人達に蠱惑的な目を向けた。
悪魔はそうやって、人を誘惑する。
顔を赤くして、目をそらす人達に知久は手を振った。
これ以上、周囲に害を及ぼす前に部屋に行ったほうがいいと判断した私は知久を引きずってエレベーターに乗った。
「積極的だなー」
「わかってるくせになにが積極的よ。週刊誌に載るのはごめんだわ」
「載っても構わない。渋木グループと陣川製薬のお嬢様とお坊っちゃまが政略結婚したって記事を書かれて世間はなるほどと納得する。それだけの話だよ」
「本当に悪人ね」
「褒め言葉だよね」
最上階に着き、エレベーターボタンに触れようとした時、知久は唇にキスを落とした。
「好きだよ、小百里」
「……私もよ」
やっと私は知久に自分の気持ちを伝えることができた。
ようやく、私は自分の気持ちを正直に言っても許されるようになったのだった。
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