御曹司社長は恋人を溺愛したい!【宮ノ入シリーズ③】

椿蛍

文字の大きさ
31 / 41
コミカライズ記念 特別番外編【宮ノ入シリーズ①:恋人編】

2 呼び戻されたライバル(2)

しおりを挟む
「瑞生、驚くことないだろう? 宮ノ入家のトップに立つ人間が、自由に妻を選べるわけないんだからな」

 言っていることはひどいのに、それが当たり前であるかのように、雅冬さんは明るい笑顔を浮かべている。

 ――雅冬さんもそれが当たり前だって思って生きているから、笑って言えるんだわ……

 もしかしたら、瑞生さん同様、彼もまた生き方を決められている人なのかもしれない。
 瑞生さんもそうだった。
 雅冬さんは宮ノ入を背負う者として育てられたからなのか、瑞生さんと似ている。

「俺は海外支店から、お前たちが戻るのを許可した覚えはないが?」
「許可していなくても、会長が俺を呼び戻した理由がなんなのか、瑞生が一番よくわかっているはずだろ?」

 常務と話す時より、雅冬さんと話すほうが、瑞生さんはピリピリしていた。
 常務より雅冬さんのほうが、瑞生さんを脅かす存在だからなのかもしれない。
 でも、瑞生さんはそれだけで、顔は無表情のまま、何も言わなかった。

「完璧な瑞生さんが、会長のご機嫌を損ねるなんて珍しいわねぇ?」

 ふふっと綾香さんは笑って、瑞生さんに近づくと、肩に手を置き、顔を近づけた。
 微動だにせずに、瑞生さんは綾香さんに凄みを利かせてにらんだ。
 綾香さんは肩に置いた手を渋々離した。

「触るな、離れろ」
「やあねぇ、怖い顔。自分の妻になるかもしれない相手なのに、優しくしないと駄目でしょ?」

 ――つ、妻になるかもしれない!?

 驚いて、綾香さんを見た。
 私の動揺を悟った綾香さんは、自分の赤い唇を指でなぞり、艶やかな笑みを浮かべた。
 瑞生さんを横に立たせ、雅冬さんの肩に手を置く姿は、まるで女王様のよう。
 圧倒的な華やかさを持つ三人に、気後れしない人間はいない。
  
 ――さすが宮ノ入家に生まれ育っただけあって、華やかなオーラ……

 自分たちが生まれ持ったカリスマ性を理解した上で、綾香さんはわざと私との間に線引きをしたのだ。
『あなたと私たち、住む世界が違うのよ』そんな線引きを。
 綾香さんは口にこそ出さないけれど、悠然とした態度と自信たっぷりな笑顔が、雄弁に語っていた。
 この場合、私がとるべき対応は? 
 
 ――この状況……。八木沢さんならどうしたかしら?

 でも、その疑問は一瞬で解決した。
 八木沢さんの恐ろしく美しい顔立ちを思い浮かべ、『そういえば、あの人も宮ノ入の血を引いているのだった……』と思った。
 八木沢さんと私が同じやり方で、相手を圧倒することは不可能だと悟った。

「驚いちゃって可哀想。瑞生さん、宮ノ入家のことをきちんと教えてあげなきゃ駄目でしょう?」

 綾香さんは蔑んだ目で私を見て、くすっと笑った。
 雅冬さんは私を哀れみ、常務は可笑しそうに笑っている。
 誰もが、私が綾香さんに負けて泣くのではと思っていた。
 でも――

「社長はこれから仕事ですので失礼します。私に対する個人的な挨拶は、後ほうかがわせていただきます」

 この程度で泣く私ではない。
 冷遇され続けて十年以上。
 根性だけは鍛えられている。

「他に言うことがあるでしょ!?」
「申し訳ありません。本日、社長のスケジュールは詰まっております。それでは、失礼いたします」

 背後のエレベーターのボタンを押すと、扉が開いた。
 私の淡々とした態度を見て、社員たちが戸惑っている。
 
 ――そうでしょう。きっと『よく平気でいるな』という評価よね?
 
「さすが我らのロボ……」
「仕事の鬼は健在だな」

 ――え? そっち? しかも、まだロボって言われてるの?

 私への評価がいまだ変わっておらず、『ロボ』らしい。
 そろそろ『社長の恋人になったから、変わったよね』みたいな声があってもいいはず。
 でも、ちょっと待ってみたけれど、そんな声は聞こえてこなかった。
 なんだか複雑な心境になりつつも、私の仕事に対する姿勢は変わっていないのは事実である。
 私に浮ついたところがあれば、八木沢さんは秘書の仕事を任せなかったはずだ。

「瑞生さん、待って! 私が帰国したのよ? 今日は私のために、夜は空けてくれるわよね!?」
「そうだな」
 
 瑞生さんは私をちらりと横目で見た。
 
「俺の秘書に相談しないとな?」

 ――え? 私?

 瑞生さんはエレベーターの扉に手を置き、私を見下ろして微笑んだ。

「……残念ながら、社長はスケジュールはいっぱいです」
「仕事が終わったら、夜は美桜との予定で詰まってるってことだ。じゃあな、綾香」
「夜!? わ、私はそこまで言ってませんっ!」

 悔しそうな綾香さんと常務の顔が見えたのを最後に、エレベーターの扉が閉まった。
 その二人の背後では、雅冬さんが黙って胸の前に腕を組み、私たちを観察していた――あの中で、雅冬さんが最も強敵なような気がした。

 ――いえ、敵かどうかはまだわからないけど……

「直真がいない時に面倒なことになったな。いや、直真がいないから、祖父はあえて雅冬を本社に送り込んだのか」

 瑞生さんはため息をついて、考え込んでいた。
 
「祖父は直真がいない間に俺と雅冬を争わせ、どちらが宮ノ入のトップに相応しいか試すつもりだろう」
「そうですね……」
 
 ――瑞生さんははっきり言わないけど、会長は私が瑞生さんの恋人として相応しくないと思っている。だから、あの二人を帰国させたんだわ。

 宮ノ入グループを――宮ノ入の人々を牛耳る会長。
 私を排除しようとしているのか、それとも試そうとしているか。
 少なくともすんなり妻にはなれない。
 そんな気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...